北海道十勝地方で放牧によって育てられた豚の肉などを販売する店「遊牧亭」が、7月5日(土)、小平市下水道館そばの住宅地にオープンする。
冷凍の豚肉のほか、十勝地方の乳製品や小麦粉、加工食品なども販売。また、10席ほどの飲食できるスペースも有し、ポークのキーマカレー、自家焙煎コーヒー、手作りスイーツ(7月はあんみつプリン、カッサータ等)なども提供する。

豚の放牧をする牧場主が運営
同店を運営するのは、十勝で牧場を営む合同会社「遊牧舎」。2014年から、全国でも珍しい豚の放牧を行っており、「遊ぶた(あそぶた)」のブランド名で、東京都内ほかレストランなどに精肉を卸している。一般的な養豚場では豚を豚舎に入れたまま半年ほどで出荷させるところ、同社では放牧で1年をかけて育てている。その肉には、料理人から、「豚肉のうまみが市販のものと違いすぎる」「きれいに焼いたときなどはまるで牛肉のステーキのよう。うまみも凝縮している」などの評価の声が寄せられている(※下記の映画「豚らしく、人らしく〜循環する命〜」参照)。
同社代表の秦寛さんは、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター教授や静内研究牧場長などを歴任してきた研究者。40年以上にわたり、豚の飼料栄養や、牛・馬の放牧飼養などを研究してきており、定年後に、豚の放牧を始めた。農産物としては使えないニンジンの葉や、食品加工の過程で出るジャガイモやユリ根の廃材などをエサに用いており、「人間が使わないもので育て、肉となる。家畜本来の育て方」(秦さん)を実践している。

生産者と消費者をつなぐ場に
今回、小平市で「遊牧亭」を開くのは、そうした循環型の食の在り方やそこに関わる人々のことを伝えたいという思いから。お互いに顔が見えにくくなっている生産者と消費者をつなぐ場にできればという。
「現状は大量輸送で物が移動するだけなので、生産者の思いや大変さなどは伝わらない。でも、それも価値の一つのはず。私たちのケースでいえば、豚肉の味だけでなく、本来の動物の飼い方をしているというプロセスも価値だと思うのです。最近は『エシカル消費』などの言葉も使われていますが、消費者が選択できることが大事です」
そうした考えから同店では、接客を重視していくという。販売および料理提供を担当する但馬望里さんは「お一人お一人に直接お話ししていけたら」と意気込みを口にする。
「私自身は東京出身ですが、2年ほど十勝に暮らし、カフェを営んできました。そのつながりから、遊牧亭では、私自身が直接見て回ってきた生産者さんの商品を置いています。どんなところで、どんな人たちによって、どんなふうに作られてきたのが全部分かっている商品です。そうしたものをお伝えできたらと思います」
ちなみにオープン段階では、日持ちする冷凍牛乳や、アイスクリーム、小麦粉、鹿肉の干肉(ペット用)、しょう油などが入荷している。今後、売れ行きを見ながら商品を増やしていく予定という。

人もつなげられるコミュニティの拠点に
ところで、「店舗」と記載してきているが、同店は築50年以上の一戸建てを一部改築して営業する。実はここは、秦さんの生家だ。今は住む人がいないこともあり、店舗として活用することにしたという。
「一大消費地である東京に店を出したいとは思いましたが、それが小平になったのは、たまたま場所があったからというだけ。ただ、小平も十勝も開拓でできた地域で、そういう意味では何か縁を感じます。人口減少社会で、これからの国は衰退していくかもしれませんが、だからこそ個々のコミュニティが元気に強くなっていくとが大事です。この店が、小平・十勝のコミュニティの拠点になれるといいですね」
と秦さんは話す。
同店でコーヒーや料理を提供するのも、そうした思いがあってのこと。当面は但馬さんが切り盛りするが、将来的には、日替わりで店舗担当者が代わるなど、シェアレストラン(間借り営業)の形態も視野に入れている。朝・晩の営業も含め、それぞれの得意・分野を活かした料理が提供され、多彩な人々が集う場をイメージしている。
「食品で小平・十勝を結ぶだけでなく、人もつなげていけたらと思っています。私自身、東京から地方に出た経験を持つ身として、『東京だけが全てではない』という感覚を持っています。ちょっと田舎で暮らしてみたいな、東京の生活がつらいな、というような人に『じゃあ、十勝に行ってみなよ』と気軽に声を掛けていきたいですね」
と但馬さん。
当面は不定休。営業は午前11時から午後4時まで。
住所は、小平市上水本町1-22-19。
詳しくは同店(TEL:090-4555-3094)へ。

【リンク】
◎秦さんの活動を追ったドキュメンタリー