当事者も「第九」を歌う! 「視神経脊髄炎」チャリティーコンサート 7/21、東久留米で

出産の1カ月後に突然発症して4カ月入院した……、病気が分かるまでに時間がかかり今も苦しんでいる……、実はまだ病名が確定していない……。

全身にしびれや痛みなどが出る国指定難病「視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)」。突然発症する病気で、さらに、▼病気の認知度が低い、▼症状が人によって異なる、▼しびれなどが慢性化する――といった事情から、罹患すると日常生活にも影響が出るなど、困難な状況に置かれることになる。

そうした患者や家族への支援、また、視神経脊髄炎という病気があることを多くの人に知ってもらうことを目的に、7月21日、自由学園・記念講堂(東久留米市)で、チャリティーコンサート「歩む 2025IN 自由学園 夏の『第九』」が開かれる。

ベートーヴェン「交響曲9番」の第4楽章の合唱などを披露するもので、合唱には、視神経脊髄炎の患者も参加する。

本番を目前に、熱のこもる合同練習の場を取材した。

合唱の練習の様子。高校生から80代まで約40人が参加する

プロ歌手で、患者会理事長の坂井田真実子さんら指導

「みなさん、羞恥心を捨てて! 口を大きく開けて歌うんですよ!」

土曜日の東久留米市役所1階・「市民プラザ」に、澄んだ声が響く。

指導するのは、チャリティーコンサートの企画者でもある、ソプラノ歌手の坂井田真実子さん。時に笑いを誘いながら、歌唱見本で美声を響かせる。その姿からは到底信じられないが、坂井田さん自身も視神経脊髄炎スペクトラム障害の当事者だ。NPO法人「日本視神経脊髄炎患者会(NMOJ)」を設立し、理事長を務めている。

合唱に参加するのは約40人。坂井田さんの母校である自由学園の関係者や音楽仲間、これまでの同会主催のコンサートを鑑賞した人たちが参加している。そのうちの7人は、視神経脊髄炎スペクトラム障害の当事者だ。

合唱指導をする坂井田さん(左)と、本番で指揮をする石井里乃さん

それぞれの発症から今日まで

視神経脊髄炎スペクトラム障害は自己抗体が誤って自分の神経細胞を「攻撃」する病気。急性期には、手足や体の筋力低下、激しいしびれや痛み、吐き気やしゃっくり、視力・視野の異常などが生じ、歩けなくなるなど、体に不随も起こる。後遺症として慢性的なしびれや痛みがあり、再発も珍しくない。国内で約6500人の患者がいるとみられ、そのうちの9割ほどが女性だ。

症状の出方はさまざまで、それがさらに、病気の診断を難しくしている。取材で訪ねた日は4人の当事者に会えたが、やはり、個々の症状はまるで違っていた。

初産1カ月目に突然……

野﨑直子さん(49)は、2017年2月、初めての子を出産して1カ月目に突然発症した。

左肩のしびれから始まり、間もなく足が上がらなくなった。そのまま緊急入院し、1カ月後にリハビリ専門の病院に転院。一時は歩けない時期もあり、延べで4カ月ほどを病院で過ごすことになった。生まれたばかりの新生児は、北海道の両親に任せ、およそ半年後の再会となった。

退院後は日常生活は送れるようになっていたが、手足のしびれは慢性化し、握力も弱まっていたため、育児で必要となる細かな作業に手間取った。

無事に復職し、今も仕事に就いているが、2回再発を経験している。両手・両腕のしびれにはもう慣れていて、「しびれていない状態が思い出せなくなっている」と話す。

かつてバイオリンを習っていた経験から、「第九」には憧れがあり、今回のコンサートに参加した。

難病当事者の野﨑直子さん(左)と岡本愛さん

「もっと早く、この病気と分かっていたら……」

岡本愛さん(50)は、2018年12月に発症した。ある日の午後のこと。朝は何でもなかったのに、突然右耳の後ろがかゆくなった。

「虫に刺されたかな?」

季節外れの虫刺されを疑ったが、特に発疹もなく、とにかくかゆみが止まらない。次第にピリピリするような、電気が走るような痛みに変わり、しびれが手の先まで広がっていった。

どこの診療科にかかるべきか判断つかないまま、行きやすかった近所の皮膚科を頼ったところ、出てきた診断は「帯状疱疹」。しばらくは薬を飲み、様子を見てみたが、症状は治まらず、しびれは全身に広がっていった。

「全身がしびれるなら、帯状疱疹ではない」

と皮膚科で診断され、紹介により整形外科へ。ところが整形外科では「これは皮膚科では?」とみなされ、別の皮膚科の病院に行くことに。そんな「たらい回し」の間に痛みはひどくなり、あるとき計ったら、3分に1度のペースで痛みのピークが来る状態になっていた。もはや、ふつうの生活は送れる状態になかった。

新たな皮膚科では「膠原病」と診断され、より専門的な病院を紹介されたところ、その病院では「シェーグレン症候群」と告げられた。「たいしたことはない。痛みやしびれは一生付き合っていくしかないでしょう」とも言われ、通院することになった。

決定的な転機が来たのは、2020年正月のこと。バスで座っていたのだが、突然体がムズムズし、じっとしているのが苦痛になった。そして間もなく、仕事の帰り道、物を拾おうと思って屈んだまま、立ち上がれなくなった。

家族に迎えに来てもらい、そのまま緊急入院。そこで視神経脊髄炎スペクトラム障害と判明し、3カ月の入院となった。

まったく歩けない、足が動かないという時期を乗り越え退院できたが、今度は有痛性強直性痙攣を何度も経験することになった。痛みを伴う痙攣。全身が硬直し、攣(つ)るような状態で、「アイロンを全身に当てられているような感じです。最初はパニックになって、『死ぬ!』と叫んでいました」と岡本さんは話す。それを、多い日には1日7回も発症した。

現在では、杖を使いながら、何とか自力で歩ける状態にはなっている。しかし、ステロイド投薬を続けているために大腿骨骨頭壊死になり、股関節に支障を抱えている。同時に、ステロイドにより感染症リスクも高いため、人工股関節への手術も先延ばししている状態でいる。

「もっと早くこの病気だと分かり治療を始められていたら、良い薬もあるので、今とは違う状態で過ごせていたはずと思う。私みたいな思いをする人が出ないためにも、この病気をもっと多くの人に知ってもらいたい。こうしたコンサートが、病名を広めるきっかけになればと願っています」

と岡本さんは訴える。

海外で発症も、病名は確定せず……

宮坂明子さん(50)は、2021年の9月に、海外在留中に発症した。最初は吐き気。食中毒と診断され自宅療養したが1カ月経っても治まらず、足に違和感を覚えたため総合病院を頼ったところ、そのまま入院となった。入院後に、下半身不随を経験している。

実は、宮坂さんは、今も病名が確定していない。

同じく難病である「多発性硬化症」と診断されたこともあり、視神経脊髄炎スペクトラム障害の決め手となるアクアポリン4抗体 (AQP4抗体) が確認されていないため、どちらとも分からない。

現在は日常生活を送れているが、痛み、しびれは常にあるという。

難病当事者の齋藤和夫さん(左)と宮坂明子さん

足裏が常に濡れている感じ

齋藤和夫さん(73)は、数少ない男性の罹患者だ。2022年11月頃、足首がしびれるという症状から始まった。歩行はできるため当初は気に留めなかったが、翌年正月頃からしゃっくりが出始め、腹部に帯状疱疹のような症状も見られた。

そこでMRIを受けたところ、そのまま入院へ。痛みがないうちに病名が分かったのはレアケースのようだ。

「ドクターショッピングという言葉もあるそうで、この病気では、判明するまでにいろいろな病院を渡り歩く人が多い。その点、私は場合は比較的早く判明し、症状もさほど重くはなりませんでした」

と齋藤さん。

それでも、慢性的な足のしびれがあり、特に、土踏まずの辺りがいつも濡れている感じがするという。長い歩行がつらい。「歩いていても、靴の中で足がつるつる滑っている感じがします」と話す。

第九のメッセージを受け取って!

チャリティーコンサートは、7月21日(月・祝)午後2時から、自由学園・記念講堂で開かれる。

「第九」のほか、坂井田さんほかプロ歌手によるオペラの名曲などの歌唱がある。曲目はヴェルディ「歌劇《椿姫》乾杯の歌」、ドニゼッティ「歌劇《愛の妙薬》二重唱 なんという愛情~優しい流し目」。

坂井田さんはロータリー財団奨学生としてイタリア留学し、イタリア・セギッツィ国際ソリストコンクール聴衆賞(2位)受賞や、文化庁海外研修派遣員としてウィーンに派遣された経歴のあるソプラノ歌手。

コンサート当日は、オーストリアの「宮廷歌手」の称号も受けているソプラノ歌手、クリスティアーネ・カイザーさんも来日して、美声を披露する。

「第九」合唱について坂井田さんは、

「当事者が出演するというのは本当に価値のあること。病気だとどうしても引きこもりがちになるが、一歩外に出ていろいろな人たちとつながり、一つのものを作り上げていくことに意義がある。今回は自由学園の高校生から80代まで参加しています。多くの方に、その舞台を見届けてほしいです」

と来場を呼び掛ける。

また、当事者の一人、岡本さんは、

「『第九』は、聴力を失ったベートーヴェンが残した不屈の曲。その詩は『みんな一つになろうよ』というメッセージが込められていて、勇気づけられる。一人じゃないんだという思いを、さまざまな困難に直面している人たちに届けたいです」

と話している。

指揮は石井里乃さん。出演はほかに、メゾ・ソプラノの磯地美樹さん、バリトンの武田直之さん、ピアノの芦沢真理さん。

東京女子医科大学の清水優子さんによる「NMOSDのお話し」もある。

入場料は3000円(学生1000円、未就学児無料)。

申込はメールか、Googleフォームで。

◎メール:charitynmoj@gmail.com  ※氏名、枚数とチケット種類(一般/学生)、電話番号を明記のこと

Googleフォーム https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSfPVOSICWFiOUXzpeCoJvdNM-SC-8Gd3cy22AxAvr7wDkk09g/viewform

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