一人の女性が生涯の間に産む子どもの人数とされる合計特殊出生率(以下、出生率)が微増して話題になった先週。実はそれに先駆けて、東久留米市が出生率上昇を誇っていたのをご存じでしょうか。
「よりいっそう、子育てしやすい町を目指します!」
並木克巳市長が高らかに宣言したのはさる2月の記者会見でのこと。市長がそう胸を張る背景には、2014年の同市の出生率が、東京都の市区部でトップとなったことがありました。
その数値は、あきる野市と同率で、1.43。同年の日本全体は1.42なので平均的といえば確かにそうですが、都全体の数値が1.15だと知ると、にわかに評価が変わってきます。
では、なぜ東久留米市はこうも高い出生率を記録できたのでしょうか。
2014年に急に出生率がアップしている
まずは地政学的な理由があるのかと近隣市と比較してみます。
その結果は下表の通りで、驚くことに清瀬市の1.16は三鷹市と並んで市部最下位。市部のトップとワーストが、同じ西武池袋線の一駅違いで存在しているというのが興味深いです。
時系列ではどうでしょうか。
下表を見て気づくのは、東久留米市の数値が、14年になって跳ね上がっていることです。同率1位のあきる野市が安定して高い数値を記録しているのに比べ、東久留米市のそれは明らかなジャンプアップを見せています。この辺りに出生率アップのナゾを解くカギがありそうです。
産院は増えたが……
……では、そのカギは?
あれこれ振り返ってみますが、これといって思い当たるフシはありません。
この春にも大問題となった待機児童数は、13年10月時点で173人。「子育てしやすい町」の標榜が不安になるような数値です。
地域の変化で一つ思い当たるものに、産院の増加があります。
同市では09年にペルフェ滝山マタニティクリニックが、14年にアルテミスウイメンズホスピタルがオープンしています。
2つ合わせると70床。「安心して産める」環境があるとは言えそうです。
ただ、これで出生率が上昇するなら、すぐにでも全国津々浦々に産院を作れば少子化問題は解決することになります。
地価が安い、物価が安い、適度にイナカ
こうなったら当事者に聞くのがいちばん――ということで、子育て中の母親たちに突撃取材。匿名を条件に返ってきた答えは、なかなかシュールでした。
「地価が安い」「物価が安い」「適度にイナカ」。
確かに2人目、3人目を考えるときに生活費の問題は大きいものです。
そう思って改めて上表を見ると、各市の出生率の傾向に何となく納得させられるものがあります。
中でも「住みたい町」でよく名の挙がる武蔵野市や三鷹市の出生率が低いのが暗示的です。
児童館などの活動が充実している
しかし、これらは常態のものであって、出生率急上昇の答えとはならないのでは?
そこで、東久留米の子育て情報に詳しい「育児応援マップを作る会」OGの高橋裕子さんに聞いてみました。
「正直、子育てがしやすい工夫のある自治体とは思いませんが、ここ数年、明らかに、児童館や子育て支援センターなどが充実した活動をしています。職員の努力を感じます」
と高橋さん。
となると、出生率アップのカギは行政職員のマンパワーにあったということでしょうか!?
行政マンの分析は……
では、その行政ではどのような分析をしているのでしょう?
東久留米市子育て支援課に尋ねてみました。その回答は以下の通り。
「さまざまな要素が相乗的に働くことにより、まちの魅力が向上した結果ではないかと分析しています。
行政サービス、市民活動の成果、東久留米駅の利便性のアップ、駅周辺の保育所の整備、都市計画道路の整備などに伴う多くの路線バスの運行、多くの商業施設の展開――など、生活拠点としての都市機能が整ってきていること。
また、南沢湧水をはじめ多くの自然が残されており、都市と自然との調和がまちの魅力と考えています」
同市では、今後さらに子育てしやすい町を目指すとのことで、今年度予算では私立保育園の新設・増設を盛り込むなど、子育て支援に重点を置いています。
なお、同市が昨秋策定した「人口ビジョン」では、今後の出生率を20年に1.60、30年に1.80とすることを目標値に掲げています。
過去の推移を見る限り、なかなかチャレンジングな目標設定といえそうです。