東久留米から名作を生み続ける古田足日さん 「児童文学で真実を求めてきた」

累計2000万部以上の『おしいれのぼうけん』(童心社、田畑精一さん共作)などで知られる児童文学作家・評論家の吉田足日(たるひ)さん。

吉田さんが児童文学に進むきっかけとなったのは、17歳で迎えた敗戦だった。

天皇のために生き、天皇のために死ぬと決めていた軍国少年は「生きていく根本」を失い、うつろな日々を過ごす中で、童話に心ひかれていく。

「童話は、相手が子どもだから人間のもっとも大切な真実を短いことばで語っているのではないか」――と。

改憲が現実味を帯びるなか、今何を考えているのか、東久留米の自宅を訪ねた。

古田足日さん。東久留米市の自宅で

元軍国少年の目に映る今の日本は――

■1965年に東久留米に居を移し、以降、この地域で作家活動を続けている古田さん。85歳になった今、日本をどう見ているのだろうか。尋ねると、開口一番、「あぶない」と口にした。


そりゃ、あぶないですね。今の日本は。
原発は子孫にずっとかかわっていく問題なのに、いつの間にか現政権が推し進めています。

改憲についても、なぜそんな話が出てくることになってしまうのか。
結局、国民一人ひとりがきちんと考えてこなかった、ということだと思います。

ハッキリ言って、戦後の平和運動というものは、基本的に被害者意識でつくられているんです。

被害者としての体験は強いですよ。強いですが、単純化すると「戦争のときはこんなにつらかった、今は平和でよいと思います」となってしまう。

ぼくが主張したいのは「体験の思想化」が必要だということです。

体験の向うにあるもの――戦争は何かを問題にしていかないと。その部分がぼくたち国民に足りないところではないかとずっと思っているんです。

加害体験をあえて多く載せた

その試みとして、古田さん自身は、戦争の記憶を残す活動を複数行っている。中でも、子ども向けに戦争体験をまとめた『わたしたちアジア・太平洋戦争』(全3巻、童心社)では、加害体験に多くのページを割いた。

土屋芳雄さんという元憲兵との出会いが印象的でした。土屋さんは幾人もの中国人を殺して、帰国後、それを反省して、語り継ぐ活動をしていました。

その言葉を聞くと、なぜ彼がそういうことをやるようになったのかが分かります。訓練と称した殺人からエスカレートしていくのですが、それらを知ると、単に「個人の体験」では収まらないものがあることを理解できます。そういうことは、加害体験だからこそ浮き彫りになるものです。


古田さんは児童文学を通して「子どもを守ろう、平和を守ろう」というテーマに向き合ってきた。軍国主義教育を鵜呑みにした反省から、「疑う」ことの大切さを説く。現代の大人へのメッセージにもなる。憲法九条についてこんなふうに話した。

北朝鮮や中国の脅威は強まっています。そのせいもあって、「攻められたらどうするんだ」という声が強くなっている。ですがぼくは、「自分の心の底から憲法が必要だと信じているのか」を一人ひとりに考えてみてほしいと思っているんです。

そこに、権力やマスコミの意図が入っていないだろうか。他の力に動かされているのに、自分がそう思っていると錯覚していないだろうか……。

私たちはちゃんと思想を鍛え、自分の生き方を決めなければなりません。日本国の場合は、こう生きると決めたその「思想」こそが現行憲法なのです。

児童文学の金字塔ともいえるロングセラー「おしいれのぼうけん」。絵を描いた田畑精一さんも東久留米市に暮らした

名作『おしいれのぼうけん』は「そよかぜ保育園」がモデル

ところで、この地域で暮らしたことが、古田作品に大きな影響をもたらしたという。実際、代表作の多くはこの地域から生まれている。具体的な作品を教えてもらった。

例えば『モグラ原っぱのなかまたち』(あかね書房)。65年ごろの神宝町の風景を書いています。

また『大きい1年生と小さい2年生』(偕成社)は滝山団地を背景にして自然や環境というものを書いています。『おしいれのぼうけん』は西東京市そよかぜ保育園がモデルです(※同園は2011年に民営化となり建物も一新されている)。

一人ひとりの自由、そして平和

敗戦後の放心から児童文学に光を見つけた古田さん。子どもへのメッセージとは別に、その執筆を通して「自分がどう生きるか、新しい価値観を求めるということ」を模索してきたという。その答えは出たのだろうか。最後に聞いてみた。

「価値観」としては「自由」です。一人ひとりの自由。そして、願いとして、平和があります。

権力というものは人をしばろうとします。その権力を持つ公務員や政治家をしばるものが憲法です。憲法は国民をしばるものではありません。

私たちは、憲法を背景に、自分の生きる道を探していくんです。そして、その中で、自分を伸ばしていく。それに尽きると思います。


◆古田足日さんプロフィール

1927年、愛媛県生まれ。早稲田大学ロシア文学科在学中に早大童話会に所属し、創作と評論を始める。代表作に『現代児童文学論』『ロボット・カミイ』『宿題ひきうけ株式会社』など。日本児童文学者協会会長など歴任。

※編集部注:古田さんはこのインタビュー翌年の2014年6月にご逝去されました

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