編集者・杉山尚次さん 「街を見るヒントにして」
ちょっと知るだけで住み慣れた街が違って見えてくる――東久留米市在住の編集者・杉山尚次さんが関わり、「北多摩」をテーマにした本が、この1年余のうちに3冊発行されている。出版のきっかけになったのは、地域情報を発信するウェブサイト。コロナ禍を挟み、地域を見直す機運も高まっている。

杉山さんが関わって出版された、この地域をテーマにした書籍は、
①『北多摩戦後クロニクル―「東京郊外」の軌跡を探る』(言視舎)
②『2都物語 札幌・東京―2つの「ひばりが丘」から歴史探索を開始する』(同)
③『西武池袋線でよかったね―郊外から東京を読み直す』(交通新聞社新書)
の3冊。うち、『北多摩戦後クロニクル』『2都物語 札幌・東京』は杉山さんが経営する出版社から上梓されており、編集も担った。
いずれの書籍でも杉山さん自身が執筆しているが、『西武池袋線でよかったね』は自身初の単著となっている(『2都物語 札幌・東京』は哲学者・鷲田小彌太さんとの共著)。
立て続けに3冊が出た背景には、地域ニュースサイト「ひばりタイムス」(現在は休止)の存在と、約3年続いたコロナ禍がある。
いつの間にか、コラムが書籍にできる分量に
出版業に30年以上携わってきた杉山さんだが、コロナ禍で時間に余裕を持てるようになり、かつ、遠方に出かけられないという状況に加え、社会全体で「地域」への関心が高まった。
そんな折に業界の仲間から「ひばりタイムス」への誘いを受け、地域の歴史や地理、文化、サブカルチャーなどをテーマにしたコラムを書き始めた。
最初は6本程度のつもりで企画したコラムだったが、気付いたら3年余。書籍化できる分量になっていた。
「本業は編集なので、専門家ではない気楽さで書くことができる。こちらが楽しんで書いていれば気軽に読んでもらえるんじゃないかな、と思って」
と杉山さん。
硬派な内容から、ポップカルチャーまで
3冊のうち、最初に出た『北多摩戦後クロニクル』はジャーナリストが中心になって地域の戦後史を追った硬派な内容。
対して、『2都物語 札幌・東京』『西武池袋線でよかったね』は肩の力を抜いたエッセー調で、とりわけ『西武池袋線でよかったね』は、杉山さんの博識ぶりが炸裂した一冊だ。
文学、マンガ、ポップミュージック、ドラマ、実際の事件や場所、歴史――と縦横無尽に筆が走り、村上春樹、桐野夏生、タモリ、萩尾望都、『めぞん一刻』、『孤独のグルメ』などに関するエピソードが次々と展開される。
「何かの結論や主張があるわけではなく、街を見るヒントを提示できたらいいなと思っています。ちょっと知るだけで、見慣れた風景が違って見えてくるはずです」
と杉山さん。
とはいえ、その文面の端々からは、戦後社会にもたらされた郊外というまちづくりへの問題意識や、人間関係が希薄になっていく空洞化への危機感がにじみ出ている。
いずれも全国書店、ネット書店で販売中。
『北多摩戦後クロニクル』は2420円、『2都物語 札幌・東京』は1980円、『西武池袋線でよかったね』は1100円。
詳細は言視舎(☎03・3234・5997)へ。
◎『北多摩戦後クロニクルー「東京郊外」の軌跡を探る』(Amazon)