コロナ禍で限界が来た……。
西東京市谷戸町で56年続く「三又酒店」が今月末(2021年6月)で廃業することとなり、地域に衝撃を与えている。
店主の山崎明さんは、市が構築を急ぐ「西部地域協力ネットワーク」の代表を務めるなど、さまざまな地域活動に関わってきた人物。こうした店が存続できないとなると、今後の地域コミュニティはどうなるのだろうか。この廃業が物語ることは少なくない。

「サザエさん」の三河屋さんをモデルに
「 ハイ、まいど! いつものやつね。後で届けに行くよー!」
10畳ほどの店内に、山崎さんの元気な声が響く。店は、ひばりヶ丘駅から歩いて10分ほどの、谷戸新道沿い。季節の日本酒や、各地のみその量り売りが人気の店だ。
加えて、同店では配達を行っており、地域の会合やお祭り会場、葬儀や法事の場にビールサーバーやジュース類などを届けてきた。配達は個人宅にも行っている。
「モデルは『サザエさん』の三河屋さん。幼少の頃から親父が一軒一軒配達するのを見ていて、その姿に憧れていた」
と二代目になる山崎さんは理想の酒屋像を語る。
だが、営業努力が実っていた事業は「コロナ」で一変した。配達は激減。タイミング悪く、コロナ禍直前に大型冷蔵庫のリース契約も結んでいた。
酒販量の報告義務がある4月、改めて販売量を見て愕然とした。売り上げは前年の4割減。主力商品のビールに至っては半分以下。一方で、ほとんど出番のない大型冷蔵庫のために毎月多額のリース料が出ていく。
もう、もたない……。
決断の瞬間だった。

個店が地域を支えてきたが…
同店の廃業が物語ることは少なくない。
まずは、そもそもの個店の状況だ。西東京市小売酒販組合に加盟する酒販店は現在23店。20年前の140店超から、7分の1にまで減っている。
背景にあるのは、ドラッグストアなど酒類を扱う中・大型小売店の増加や、ネット通販の隆盛。
同店では、チェーン展開する小売業などにはできないきめ細かなサービスを磨いてきたが、コロナ禍前からの逆風がボディーブローとなった。
「例えばビールサーバーのレンタルは、使用前後に洗浄などの手間がかかるので、請け負う酒屋がだいぶ減りました」
と山崎さんは指摘する。結局、こうした個店が消えると消費者が画一的なサービスしか選択できなくなる恐れがある。これは酒販業だけの話ではないだろう。
もう一つ、同店を語る上で欠かせないのが、山崎さんの地域への関わりだ。
山崎さんはこれまで、谷戸商店街協同組合理事長、ほっとネット地区推進会議委員、消防団員、公民館講座での講師などを務め、近隣の小学校への授業協力なども積極的に行ってきた。地域活動への思いを、山崎さんは「この町に生まれ、育ててもらったことへの恩返し」と話す。
「幼い頃、両親が仕事で夏祭りに行けなかったとき、町の人が『連れて行ってやるよ!』と手を引いてくれた。今度は自分が手を引く番だという気持ちがある」
しかし、今後は会社勤めが決まっており、活動は限定的になりそうだ。
最後までおやじのスタイルを
コロナ禍になり、酒の提供が控えられる状況となった。従う飲食店には協力金が出るが、酒販業者への支援金はない。行政の地域事業者への支援策は適切なのだろうか。
「市職員や商工会の方とも会うが、皆さん一生懸命尽くしてくださっている。不公平感を言い出したら言い分は誰にでもあり、切りがないですよ」
そう話す山崎さんは、倉庫に用いていた所有地を売却して、リース料を清算する予定だという。
なお、営業は残り約2週間だが、セール等を行う考えはない。
「生産者がプライドを持って作ったものを、店の都合で投げ売りすることなどできません。今は亡き親父が作ったこの店を、親父と同じスタイルで最後まで貫きます」