無投票で2議席が確定した東京都議会議員選挙の小平市選挙区(2021年)。ルール上問題はないことは分かるが、どこかスッキリしない印象も……。
その理由を探るに当たり、当選した当人の磯山亮(りょう)都議を訪ねた。インタビューを通して、現行の無投票がはらむ問題点も見えてきた――。

都議選での無投票は58年ぶり
無投票が確定したのは、告示日(6月25日)の午後5時。立候補受け付けの締め切りまでに届け出があったのは、自民党の磯山さん、立憲民主党の竹井庸子さんの新人2人のみで、定数の2議席が確定した。都議選での無投票は58年ぶりのことだという。
無投票に慣れていないというのもあるが、何か釈然としない感じもある。理由を考えて、以下の4つが想起された。
①オリンピックや「コロナ」対策など賛否両論のテーマがあった。有権者には投票できないもどかしさが残る
②定数の多い市議選ならともかく、2議席を争う選挙で立候補者が出ないものなのか
③現職が盤石というならともかく、新人候補が無投票で信任されたといえるのか
④当選した磯山議員は3カ月前の市長選挙に立候補し、落選している
特に④については補足が必要かもしれない。
磯山議員は小平市議を10年務め、3期目の途中で辞職して今年4月の市長選挙に出馬。落選を経て今回の都議選に立候補している。
市議を辞めて市長選、までなら十分理解できるが、落ちてすぐ都議へ、というのはどうかという気もする。
ちなみに、磯山議員が市議を辞めたのは、3期目の任期を半分以上残したタイミングだった。また、蛇足ながら、今回の「当選」によって報酬も増えることになる(小平市議の月報酬は55万円、都議の月報酬は102万2000円=現在は2割減の81万7600円)。
本人の見解を聞きに、事務所を訪ねた。

無投票で「政策を訴えられないのは残念」
磯山都議は、愛知県出身の41歳。大学進学で上京し、国会議員の秘書を経て、2011年に市議に当選。19年には議長にも就任した。議長時代は東京都市議会議長会の会長にもなっている。
以下、主な一問一答。
――都議出馬を決めたのはいつ?
「4月末。現職だった高橋信博議員が出ると思っていたが、勇退されるとなり、私に話が来た」
――市長選出馬の段階で、「落選なら都議へ」とまとまっていたのでは?
「それは絶対にない。落選しても、41歳の今なら、まだ新しい世界に飛び込めると思っていた。先の不安よりも、周りが推してくれるこのチャンスを逃したくなかった」
――では、「新しい世界」に行かず、今回、都議を選んだ理由は?
「地域のために働くという意味では都議も同じだと思った。
何より、市長選挙で2万8615票の支持を頂いたことがある。小平を代表して小平のために働きたいと思った」
――無投票をどう受け止めた?
「すぐに選挙管理委員会から連絡が来て、全ての選挙活動を停止するように言われた。政策を訴えられないのは残念だった。選挙は聞く場でもあるのだが、有権者との交流の機会も失われた」
――信任されたといえるか?
「投票は行われないが、立候補者がいて、ルールに従って当選が確定しており、選挙は成立している。議会では、堂々と自分の一票を行使したい」
――国会と異なる二元代表制の地方選挙なのに、政党の存在が強すぎると感じるが。
「被選挙権があれば誰でも立候補できる。本気なら道は幾らでもあり、政党の問題ではない。私は知名度も地盤もないから、自民党の中で地道に積み上げてきた」
消えた選挙公報 「選挙」の扱いの是非は?
この最後の回答を聞いて、無投票自体は残念ではあるが、「大問題」というほどではないという印象を持った。磯山議員はそうは言わなかったが、言葉の裏には、党の推薦を得るまでにさまざまなふるいにかけられてきた、という意味がある。
しかし同時に、課題があるのも確信した。
それは、無投票になった瞬間に、あたかも選挙そのものがなかったもののようにされたことだ。
今回、無投票が確定するとすぐに、東京都選挙管理委員会のホームページ上の選挙公報までが消えた。間違えて投票所に行く人が出ないように、との配慮のようだが、無投票が確定したことをPRしながら、政治家が政策を訴え、地域に顔を売ることは許されても良いのではないか。有権者としても、どういう人がどんな考えで当選したのかは知りたいだろう。
インタビュー最後に磯山議員がこう強調したのが印象的だった。
「選挙公報ぐらいはまいてほしいという気持ちはありますね。都議になるからには、たとえ一方通行でも『皆さんにきちんと約束をしたい』という思いがあるのです」
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