リアル井戸端会議へ! 西東京市の女性が井戸再生の支援よびかけ

半世紀眠っていた自宅の井戸を復活させて、正真正銘の井戸端会議ができないか―—。

西東京市東町で80代の母と暮らす菊池ゆかりさんが、このほど、使っていなかった自宅の井戸を復活させ、地域のコミュニティづくりに生かそうという新しい取り組みを始めた。

井戸水を汲んでコーヒーを沸かしたり、庭にある柿を使って草木染めをするなど、井戸を利用して地域の人たちとの交流を深めていく計画でいる。

肝心の井戸を修繕するには約40万円の費用がかかるため、菊池さんは、クラウドファンディングにチャレンジしている。もともと全額を自分で負担するつもりだったが、「井戸を地域の共有物として捉えたい」という思いや、寄付を通して賛同者を増やせるという考えから、あえてクラウドファンディングに踏み切った。

返礼品には、庭先で開く出張パン販売の「お買い物券」などを用意しており、9月17日まで実施する。

(※編集部注 クラウドファンディングは終了していますが、地域情報として掲載を継続しています。なお、このクラウドファンディングは目標を達成して終了しました)

自宅裏庭の井戸を確認する菊池ゆかりさん。足元の小さな穴が井戸。かつては、奥の自動ポンプで水を吸い上げ、手前の水栓から出していた。左は「小平井戸の会」代表の金子尚史さん

コミュニティの希薄さを痛感

菊池さんが井戸の再生を考えたのは、今年3月のこと。

発端に、5年前の夫の死去がありました。母の廣田郁子さんが一人暮らしとなっていたこともあり、3年前に実家に戻って共に暮らすことに。

ところが、約30年ぶりに戻った実家の周辺は、菊池さんが暮らしていた頃とは様変わりしていた。

かつては大地主の邸宅が目の前にあったが、数年前に十数軒の一戸建てに変わり、ご近所は知らない人だらけ。60年以上この地に暮らす母にとっては、他界した人も多く、自治会が消滅していたこともあって、地域の交流自体がないに等しい状況があった。

一方で菊池さんは、これまで地域でさまざまな活動をしてきている。仕事では社会福祉士として地域を飛び回り、市民活動としては、児童支援のNPO法人や発展途上国支援のフェアトレードなどにかかわってきている。

とりわけ仕事においては、高齢者らに「地域の人とのつながりが大事ですよ」と呼びかけている側だけに、自分たちの状況に「もやもやしたものを感じていた」という。

0円均一、ゆずはちみつやパン販売

そうした思いが募った今年、まずはできることからスタートしていった。

不用品譲渡の仕組み「0円均一」に賛同して、自宅前に不用品を展示。庭先で、自家製のゆずはちみつを販売したことも。

これらを通して立ち寄ってくれる人がいることを感じ、春には学生時代からの友人・坂口善恵さんが主宰する「くらしにツナガルHātWork」が焼く無添加パンの出張販売を開始。軽い気持ちで始めた初回は、わずか5分で用意していたパンが売れてしまうほど盛況で、「自宅を活用してコミュニティがつくれる」との確信を強めていった。

自宅を活用する、という目線で我が家を見直すと、数人が集まれるスペースや、庭の樹木など、そこには可能性がたくさんあった。

菊池さんは、「地域にはさまざまな施設やサービスがありますが、実は我が家こそが社会資源の宝庫なのだと気付きました」と話す。その最たるものが、井戸だったというわけだ。

庭先で人々の集まれるスペースを設ける、菊池さんの住まい

母も忘れていた井戸の存在

菊池さんが生まれ育ったこの家は、文理台公園にほど近い、住宅街の中にある。

建築は1958(昭和33)年。今は2階建てですが、当時は平屋だったそうで、水道はなく、裏庭にある井戸水を飲用・生活用に使っていた。菊池さんは、井戸水で沸かした風呂に入っていたことを覚えているという。

とはいえ、それは半世紀も前のこと。上下水道が引かれ、家屋も増築されるなかで井戸の存在は忘れられていった。

今回、菊池さんが井戸の存在を思い出し、「どこにあるのだっけ?」と母の郁子さんに尋ねたところ、郁子さんは場所が分からなかったという。そこで井戸の専門業者を頼ったところ、家屋の北側の目につかないところで、ふたをされた状態で発見された。

使われなくなった井戸だったが、涸れてはおらず、深さ約9メートルの規模に1メートルほどの水位を保っていた。

震災を意識し、あえて手押しポンプに

井戸が使えることが分かり、菊池さんはさっそく修繕を計画。

このとき、震災時に使えることを意識し、あえて手押しの井戸ポンプを選択した。また、地域コミュニティで活用するには安心して飲めることが重要と考え、300人分に相当する1日600リットルの処理能力がある浄水器を取り付けることにもした。

「井戸端会議をリアルでやりたいというのがいちばんの思いですが、災害が起きたときに助け合いの拠点になれればとも思っています。ふだんから交流を深めていき、いざ災害が起こったときには日頃のお付き合いを生かして支え合っていく。そんなふうになれたら理想的ですね」

と菊池さんは話す。

今は近所の80世帯くらいだけに案内するパン販売などに留まっているが、参加者を限定する考えはなく、「文理台公園も近いので、散歩がてら、コーヒーを飲みに来てもらえるような場所にできれば」とのことだ。

修繕前の井戸。かつては自動ポンプで水を汲んでいたが、今回は、災害時も想定し、あえて手押しポンプを設置する

小平井戸の会との交流も

自宅を活用した活動を始めて半年。今のところは、新型コロナウイルスの影響もあってか、近所との交流に明らかな変化が出ているわけではないが、活動を始めたことで、少しずつ輪は広がり出している。

クラウドファンディングを始めるにあたっては、かかわってきたNPO法人のつてで、イラスト制作の協力者を得られることに。また、隣接する小平市で活動する「小平井戸の会」とのつながりも生まれ、井戸について情報交換する機会も持った。

イラスト=指田 ふみ

活動当初からサポートする友人の坂口さん(前出)は、「彼女は何十年も地域や困っている人のために活動してきた人。その誠実さを知っている私たち仲間は、この取り組みの成功を確信していますし、賛同者はもっともっと増えていくと思っています」と評価する。

ちなみに、この活動に菊池さんが付けたプロジェクト名は「SHERE WELL Hironta」。「良く」の単語で知られる「WELL」は、名詞では「井戸」の意味も持つ。「良さと井戸とをシェアしたい」との思いを込めた名称になっている。

(※末尾のHirontaは、菊池さんの旧姓=廣田=にちなんだ愛称)

クラウドファンディングについてはこちらから。

(※編集部注 クラウドファンディングは終了していますが、地域情報として掲載を継続しています。なお、このクラウドファンディングは目標を達成して終了しました)

【リンク】

 ◎クラウドファンディング「めざせリアル井戸端会議 古井戸再生プロジェクト」

 ◎くらしにツナガルHātWork

 ◎小平井戸の会

 ◎0円均一

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