自分史の書き方[8] 文章を書く1

書くための材料の集め方を説明した。これから2回にわたり、書き方について考えてみよう。

ようやく材料はそろった。ここから先は、原稿を書くだけのことだ。

――のはずだが、実は、ここで「書けない……」となる人が少なくない。2回前(第6回)で「書けないのは、書きたいことがあいまいだからだ」と指摘したが、材料がそろった時点での「書けない」は、その段階とは異なる。では、なぜ「書けない」のか。

一言でいえば、「思いが強すぎるから」ということになる。とりわけ、取材で苦労したり、とびっきりのネタをたくさん得られた場合に、「あれもこれも書きたい」という気持ちが生じる。結果、全部を入れるには、どう書けば良いのだろう……と呆然とすることになる。

これを乗り越えるには、とてもつらい作業だが、材料を捨てるということをしなければならない。これは並び順の問題ではない。A・B・C・D・Eの材料をB・D・A・C・Eの優先順位を付けて収めるという話ではなく、AとBを残したら、CDEを捨てるということだ。

以前の回で「文章は料理と似ている」と書いたが、ここで改めて、料理を例に取ろう。

印象に残る幕の内弁当はない

唐突だが、一つの問いを提示したい。

「あなたの好きな飲食店はどこですか?」

ぱっと幾つか思い浮かんだだろうか。思い浮かんだら、そこでよく注文するメニューをイメージしてみてほしい。

そのメニューはどんなものだろう?

例えば私の場合は、ある中華料理店を思い出すと、広東麺を想起する。ラーメンではなく広東麺だ。餃子でも野菜炒めでも何でもおいしい店だが、その中でも広東麺はとびっきりだ。

また、その近くの洋食店では、ビーフシチューが良い。ここもまた、グラタンやらハンバーグやらと絶品だが、私にとっては、ビーフシチューを超えるものはない。

焼肉店において、「あの店のファミリーセットは最高だよね!」などとウワサされることはほとんどない。人々がささやくのは、「あそこの骨付きカルビは絶品。絶対頼んじゃう」とか「冷麺を食べないなら、あの店に行く意味ないよ」といった一品への評価だ。

つまり人々が引きつけられるのは、「一品」なのだといえる。

このことから、一つの格言が生まれる。「印象に残る幕の内弁当はない」というものだ。

どこの弁当屋にもある幕の内弁当だが、「あそこの幕の内弁当は最高だったな!」と思い出すことがあるだろうか? そもそも、何が入っていたかすら言い当てられないはずだ。

文章を書く場合も同じだ。あれもこれもと入れようとすると、印象に残らない幕の内弁当になる。ぜひ、これぞという一品を選び出し、それを中心においてストーリーを展開してほしい。その章で捨てた材料は、別の章で主役にすればいいのだ。

 (文/「タウン通信」代表・谷隆一)


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谷 隆一

「タウン通信」代表。多摩北部にて、2008年から「タウン通信」を発行。
著書に、『中高生からの選挙入門』(ぺりかん社)、『議会は踊る、されど進む~民主主義の崩壊と再生』(ころから)ほか。
当コラムは、地域情報紙「タウン通信」で掲載した原稿を転載したもの。

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