世界の「術後食」を食べ歩く
消化器外科学、臨床栄養学などを専門にする田無病院院長。特に、胃ろうや経腸栄養の第一人者として知られるが、一方で、「世界の術後食」を研究する、文化人類学者のような一面も。26日(土)と28日(月)には、「高齢者と健康」をテーマに、西東京市で講演する。
(※編集部注:イベントは終了していますが、地域情報のアーカイブとして掲載しています)

イギリスの術後食にショックを受けた
「世界の術後食・病人食」に興味を持ったのは、イギリスの友人に請われて行なった現地での手術がきっかけだ。胃の手術をした患者が翌日からサンドイッチを食べているのを見て衝撃を受けた。
「これ、おかしくない?」
友人に問うも、「なんで?」の返答。「そういえば、世界では手術後にどんなものを食べているのだろう?」と一気に関心が広がった。
以来、20年超。訪ねた国・地域は30以上。80カ所以上の病院で実際に「術後食」を食べてきた。見えてきたのは、「その地域の生命の象徴が術後食に選ばれている」ということだ。
術後食には文化が反映されている
例えば日本。重湯に始まり、三分粥、五分粥……と「米」が食べられている。これが、東アジアの北部になると、粟が交じる。一方、南部になると大麦になる。いずれも穀物の文化だ。
対してヨーロッパは、もちろん肉。肉を煮たスープ(=ブロス、ブイヨン)をベースに、ラテンではそこにパスタが入る。ゲルマンでは、最初こそブロスだが、すぐにマッシュポテトやポタージュになる。
「術後食で選ばれているのは、その地域・民族にとっての『生命再生』のイメージにつながるものです。そこは栄養の問題ではないんですね」
面白いことに、どの地域でも、「術後食と離乳食はほぼ同じ」という傾向も見られるという。
研究結果は医療現場でも生かされている
20年以上かけて得たデータは、医療現場でも生かされ出している。
「安全な手術も多くなり、『きちんと噛めるなら早期から普通食が良い』という説も出ています。今が過渡期。今後の術後食を模索していくなかで、各国の実例を追ったぼくのデータが参考にされています」
2年前から院長を務める田無病院でも、「食」の改善に取り組んできた。地域の旬のものを摂ろうという「地産地消」に取り組み、患者のリハビリも兼ねた江戸東京野菜の収穫も行なっている。
病院のスローガンは「老いても足で歩くまち、老いても口から食べるまち、西東京」。
胃ろうを熟知するスペシャリストだからこそ、いま、こう力を込める。
「今の高齢者の医療で必要なものは、『運動・栄養・社会参加』の3つです。運動機能が落ちないように、早め早めで対処することが大切です」
◆まるやま・みちお 西東京市出身。日本胃癌学会学会賞(西メモリアルアワード)受賞。日本在宅医療学会・大会長など歴任。著書に『経腸栄養バイブル』ほか多数。
※編集部注:イベントは終了していますが、地域のアーカイブ情報として公開しています
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◎田無病院