ビートルズって、何?【14】《ビートルズは生きている?!~ビートルズの現在進行形》

西東京ビートルズ倶楽部(NBC)代表 田中敏久

 好評頂いている【ビートルズって、何?】では、自分たちの音楽活動や社会の動きをどう思っていたのか、ビートルズや彼らを取り巻く人々とのdynamics(関係性/集団力学)に注目しながらたどっています。

 前回【13】では、ビートルズサウンドを支えていたビートルズの楽器の中で、特にギター(とベース)について、ハンブルグ時代からデビューの頃まで見ていきました。

 今回、前回の続きでリンゴのドラムセットのことと2月4日の<ビートルズの日>も近いので、昨年に【ビートルズの最後の新曲】として発表され、世界中で大ヒットした’Now And Then’について、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

 たくさんの皆さんの感想やご意見、どうぞよろしくお願いします。

‘Now And Then’は【ビートルズの最後の新曲?】

 何十年も前に解散したはずのバンドの新曲が発売され、世界中で大ヒットしています。ビートルズの【最後の新曲】として発表された’Now And Then’です。

 ご承知のように、この曲は1970年代に自宅でカセットテープに録音されたデモ演奏の中に埋もれていたジョンの声を最新のAI技術を使って拾い出し、ポールとリンゴの演奏や歌声だけでなく、亡くなったジョージが生前に演奏した音を真似てポールがギターを弾いたり、ビートルズ時代のコーラスの音源も一部重ねてミックスしたりして、新しく録音し直したとのこと。

 この’Now And Then’は昨年の11月2日に全世界で同時に発売され、全英シングルチャートでは1969年の’The Ballad Of John & Yoko’以来54年ぶりに1位を獲得し、それまでの44年ぶり1位の記録を塗り替えました。また、最初と最新の1位の期間が最も長いアーティストとしても、エルヴィス プレスリーの47年6か月の記録も塗り替えました。

 全米では、Billboard Hot 100で1996年の’Free As A Bird’以来のトップ10入りとなる初登場7位を記録し、1970年に’Let It Be’で初登場6位を記録して以来の、初登場でのトップ10入りとなりました。

 日本でも、2023年11月27日付のオリコン週間シングルランキングで初登場6位を記録し、1970年の’Let It Be’以来53年7か月ぶりとなるトップ10入りとなりました。12月11日付の同ランキングでは5位を記録し、これは1968年10月7日の’Hey Jude’と並ぶ自己最高タイ記録でした。

 昨年末にはNHKTVで特別番組が放送され、ビートルズ関連の旧作品も何本も再放送されました。関連書籍の新刊や旧刊の再版が相次ぐ等、関心の高まりも続いています。

 「ビートルズが出たエド サリバン ショー見て人生が変わった」人は数限りなくいると思いますが、今でも現役のミュージシャンで、ビートルズの面々とも浅からぬ縁があるとなるとどうでしょうか?

 80年代にロックバンドToToの一員として絶大な人気を誇り、マイケル ジャクソンの’Human Nature’を始めとする数多くの名演が高く評価され、自身のバンドの他にも2012年からはリンゴの”All Star Band”の一員としても活動を続けているギタリストのステーヴ ルカサー。

 彼が「音楽活動の全てでビートルズが基準だった。彼らが全てを変えた」と言う程の大のビートルズフアンだということを知った時にはちょっとびっくりしました。

 どうやら6・7才の頃から’I Saw Her・・・’のジョージのギターを必死になってコピーすることから彼の音楽家人生は始まったようです。この点で、ステーヴは間違いなく第1世代のビートルズフアンだと言えると思います。

 ここで、そんなステーヴの’Now And Then’についての思いをご紹介します。

 「美しい曲だよね。あの曲は凄いよ。すごくソウルフルで喜びに溢れている。マイナーkeyの悲しいFeelingの曲だけど、vibeがある。(vibe=vibration。雰囲気・オーラ・音楽的気分等の意味)気持ちよくなるし、悲しくなると同時に嬉しくなる。希な曲だ。あの声、曲の造り。ビートルズがどれ程素晴らしかったかが分かる。最高の曲だ。」

 「あの新曲がリンゴにとってどれ程大切なものなのかも、オレは知っている。彼が教えてくれたからね。彼の顔には笑みが浮かんでいたよ。ジョンはここにいないよ、でもきっと彼は微笑んでいるはずさ。『君たち良い仕事をしたね』ってね。」

 「往年のフアンがベタ褒めしている」と言うこともできそうですが、ここにはこの曲の意味を考える上で非常に重要な点があると思います。

 まず第1に、「ジョンが創ったこの曲を【ビートルズの新曲】として出すことを、ポールもリンゴも(恐らくはジョージも)、望んでいた」ということ。

 Anthologyの時に未完に終わった、この曲をレコーデイングして発表するプロジェクトに誰よりも熱心に取り組んでいたのがポールであり、リンゴもそれを望んでいたことは知られています。(リンゴの熱いドラムや歌声にびっくりした方も多いのではないでしょうか?)

 ゲット バック セッションの時に、ポールが必死になってつなぎ止めようとして成し遂げられなかったジョンとの絆。(残されたセッションの録音の中には、どう聴いても’Get Back. John!’と言っているようにしか聞こえないポールの声もありますが・・・。)

 ジョンの声に、音楽に、自分の音楽を重ねようとするポールの思い。寄り添うリンゴの気持ち。

 それが、ステーヴの言うようにvibeとなって聴く人の心に響いてくる曲。それがこの’Now And Then’なのではないでしょうか?

 裏ジャケットの、NowとThenが描かれたジョージの遺品のアンティーク時計にまつわる奥さんのオリビアの語るエピソードも、「ジョージもそう思っていたのだろうな」と思えてなりません。

 もう一つ大事なのは、そういう「【ビートルズの新曲】を待ち望んでいる人が、実は世界中にいる/いた」ということ。

 私の周りには、若い世代で「最近ビートルズが好きになった。フアンになった」という方がたくさんいます。大人も高校生も、中には小学生も!

 ’Now And Then’の発売前に、その人達と話していて気付かされたことがありました。

 「そうか!この子達にとっては、<今がビートルズとの出会いの時>なんだ。」

 「彼らにとって<ビートルズは、現在進行形の新しい発見=驚き>なんだ!」ということです。

 彼らにとって、ビートルズの音楽は<新しい出会い・発見がある、新しいサウンド>なんです。
私達にとっては、懐かしい音楽・馴染みのある音色であっても。

 ビートルズの音楽は、そんな<今でも、いつまでも、色あせない魅力をもったサウンド>だと言えると思います。そこがビートルズサウンドの凄さ・不思議さだと言うこともできるでしょう。

 これは「ビートルズの音楽が持つ(≒持っていた)意味・役割が、未だに非常に大きい」ということを意味していると思います。それだけ「ビートルズの音楽が1960年代に果たしてきた、または期待されていた役割が大きかった」とも言えるでしょう。

 このことの具体的な中身については、<ビートルズって、何?>の中でもまだ十分に語ってきてはいないと思いますが、少なくとも<当時ビートルズの音楽が大きな期待や喜びをもって受け止められていた>ことは、間違いないと言えるでしょう。

 今回の新曲にも、そんな期待感が込められていると言えるのではないでしょうか?

 それは実は、他の音楽には期待できない、他の音楽が期待されていない、ことの裏返しでもあるようにも思えます。

 これに関係すると思われるのが、次のようなステーヴの言葉です。

 「当時は皆、それぞれが独自のことをやっていたんだ。クリームとローリングストーンズを間違うことはなかった。イエスとジェスロタルを間違うことはなかった。ところが、今は、どれも似たり寄ったりの作りやサウンドだ。ありきたりの音楽ばっかりだよ。ここに『オレには全部同じにきこえるぞ!』と言っている年寄り(自分のこと)がいるってわけだ。」そして、次の様にも言います。

 「みんな自分の音を出している。そりゃあ、素晴らしい楽器は役に立つよ。でも大事なのは、それを使って独自の音を出すことなんだ。」(様々なギタリストとその楽器のことを例に挙げて)

 ビートルズがハンブルグ時代から「他のバンドと違うことをやる≒違う音を出す」ことを目指していたことはお話しました。ヒットを出した後、次の曲では違うことをやろうとしていたことも。

 どうやらこの’Now And Then’からもビートルズの曲としての個性・独自性がしっかり聞こえてきそうです。他のジョンの曲と同じように、この曲にもビートルズとしての色がしっかり付いていると言えそうですね。

 50年振りに『青盤』に加わった新曲/2023Edition

 最後に確認しておきたいことがあります。

 ’Now And Then’は、既に公式の<ビートルズの曲>の中に加えられているということです。

 ’Now And Then’は、シングルとして発売されると同時に、’The Beatles/1967-1970(2023Edition)’、いわゆる『青盤』にも加えられているのです。

 『赤盤』(’The Beatles/1962-1966’)・『青盤』ともに、今回の2023Editionでは大幅に曲数が増えていて、より充実した<ビートルズサウンドの入門盤>となっていると思いますが、その『青盤』の最後にはこの’Now And Then’が収まっているのです。

 正直、’1967-1970’に、70年代後半に作曲された曲が入ることには?が付かないでもありませんんが、今まで述べてきたような、この曲の持つ価値を考えると「ま、それもありか!」と、今では思っています。

 ただ、今回のEditionで採用されたデミックスバージョンと従来のバージョンの違いや、ビートルズのメンバーが聴いていたモノラルミックスとの違いは、<現在進行形のビートルズ>であればこそ、しっかり確認しながら聴いていきたいと思います。

 まだまだ、ビートルズからは目、いや耳が離せませんね。

リンゴのドラムに描かれた’ドロップT’のビートルズのロゴを考えたのは?

 リンゴのドラムに関係して、話しておきたい大事なこと。それは、’ドロップT’と言われる、真ん中のTの文字が下に伸びている、Beatlesのあのロゴのことです。


 ビートルズの面々がデビュー後に初めて休暇らしい休暇をとる(それでもたった12日間ですが)少し前の、1963年の4月の終わり頃。

 リンゴはブライアンと一緒に新しいドラムセットを探して、ロンドン中心部にあった当時最先端のドラム専門店のドラムシティを訪れます。(因みにビートルズの面々も、同じオーナーが経営する楽器店のサウンドシティを何度も訪れています。)

 リンゴはそれまで、ビートルズとしてデビューする前から”Premier”というイギリス製のドラムをずっと使っていました。(例えば、アルバム”Please Please Me”ではリンゴのドラムは全曲このセットを使っています。)

 この時、リンゴは最初から黒いセットをほしがっていたようですが、この時期にジョンもハンブルグ時代から使っていたRickenbacker325を黒く塗り替えていることからして、ビートルズの面々が黒を強く意識して楽器の色を考えていたとも考えられます。

 実際に楽器店の店長がリンゴにオイスターブラックパール仕上げの”Ludwig”のカタログを見せるとリンゴは「ああ、これだ。」と言って、決まったということです。

 ブライアンはこの後、楽器店の近くの事務所にオーナーのアイヴォー アービターに会いに行くと「自分が手がけているグループが大物になりつつあるので、新しい機材が必要だ」と話します。

 そこでリンゴの古い”Premier”のセットを下取りに出して、アメリカ製の”Ludwig”のセットと入れ替える話がまとまります。更にこの後、何気ない話から非常に大きなことが決まるのです。

 この頃既に”Ludwig”のロゴをバスドラムのヘッド(表面)に付けて宣伝することを考えていたというアービターは、当時を振り返って次の様に言います。

 「あの頃はまだビートルズなんて名前は聞いたこともなかったと思う。当時は”Ludwig”の楽器を演奏して宣伝してくれる人を探していて、僕らはできる限り協力は惜しまないつもりでいた。それで、ブライアンが『バンドの名前もドラムに入れよう』と言った時にそのデザインを指定しなかったから、ビートルズのロゴはうちで考えたんだ。」

 「当時、ドラムシティ楽器店で扱っているヘッドの文字入れは、毎日顔を出していた近所のエディ ストークという看板屋が全て引き受けていて、彼に『ビートルズの名前を入れなきゃならないんだ』と言ったんだ。」

 当時の店長も「あれは、確かにアービターのアイデアを元に、ドラムシティの店でデザインしたものだった。そして勿論、ドラムシティに看板屋のエディがいなければ、あのロゴは生まれなかったんだ。」と言います。

 アービターが考えてノートに描いた3~4の候補の中からドロップTが選ばれ、看板屋のエディが手描きでBeatlesの名前を入れたドラムセットは、休暇を終えたビートルズのTV番組のために、ドラムシティの車で200キロも離れたバーミンガムまで運ばれたのでした。

 因みに、この時リンゴが手に入れた”Ludwig”は、色こそ彼が指定したオイスターブラックパール仕上げでしたが、セットの内容はかなり限定的なものだったようです。
 ※ドラムの専門誌によれば、スネアは”1963 The Jazz Festival Model”でカタログのものよりも少し深く、バスドラムやタムは”1963 Ludwig Downbeat Drum Kit”とアメリカ製の”Ludwig”ですが、ハイハットは”Premier”とセットになっていた”Zyn”というイギリス製のものだったようです。かなり限定的な組み合わせのようですね。

 この後、ドロップTのロゴが入った黒い”Ludwig”の音は、ビートルズの人気が急上昇するのと一緒に、ビートルズサウンドのトレードマークになっていったことは言うまでもありません。

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【NBC イベント情報】

《トーキング ビートルズ》セッション~CDをしっかり聴いて、たくさん語り合いましょう!

2024年2月4日(日)午後1時~3時
 ※締め切りは過ぎていますが、参加希望の方は至急下記NBCへメールを!
<杉並区立井草区民センター>2階第1・2集会室 杉並区下井草5丁目7−22  
  (西武新宿線井荻駅南徒歩7分)
 ★小学生から70代の第1次ビートルズショック世代まで、汲めども尽きぬ魅力でタイムレスに
  輝き続けるビートルズ。そのサウンドの秘密を語り尽くす<参加型トークセッション>です。
  ’Now And Then’についても、ぜひ皆さんの考えを聴かせてください。

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 皆さんもビートルズの曲を唄ったり演奏したりしながら<ビートルズサウンドの秘密>を一緒に考えませんか?

 西東京ビートルズ倶楽部(NBC)では、今までもビートルズ好きの皆さんがリアルで集まって ビートルズのCDを聴いて語り合ったりビートルズの曲をライブで聴いたりするイベント等を行ってきました。今「ビートルズのこの曲なら弾ける」とか「演奏してみたい・唄いたい」という皆さんと一緒に<ビートルズサウンドの秘密>を考える<ビートルズ倶楽部バンド>のメンバーを新たに募集します。熱い思いで一緒にプレイして、語り合いましょう!

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