ビートルズって、何?【6】《ビートルズサウンドの秘密~その1》

西東京ビートルズ倶楽部(NBC)代表 田中敏久

 好評頂いている【ビートルズって、何?】では、自分たちの音楽活動や社会の動きをどう思っていたのか、ビートルズや彼らを取り巻く人々とのdynamics(関係性/集団力学)に注目しながらたどってきました。

 前回は、レコードデビュー2曲目の”Please Please Me”で初めてヒットチャートのナンバー1に上り詰めたばかりか、新人としては異例のLPレコード録音の話が動き出したところでした。

 今回の【6】では、少し視点を変えて、汲めども尽きない魅力で今なお愛され続けている《ビートルズサウンドの秘密》について、皆さんと一緒に考えたいと思います。 

 たくさんの皆さんの感想やご意見を、どうぞよろしくお願いします。

《ビートルズサウンドの秘密~その1~個性的で圧倒的なパワーヴォーカルハーモニー》

 《ビートルズサウンドの秘密》=ビートルズの音楽的特長は非常に多岐に渡っていると思いますが、特に次の三つが重要ではないでしょうか?
①《個性的で圧倒的なパワーヴォーカルハーモニー》
②《4つの独創的才能に裏付けられた多極的統一性(多面性)》
③《四人が互いに補い合いながら変化・成長し続ける一つのユニット》

 この中で、今回はまず 《個性的で圧倒的なパワーヴォーカルハーモニー》 について考えてみたいと思います。

ビートルズの声の力=R&Rハーモニー=パワーヴォーカルハーモニー

 デビュー当時、ビートルズのレコード作りの最初の方向性を決める頃には、何と言ってもプロデューサーのジョージ マーチンの影響が大きかったと思います。

 マーチンは彼の主著『耳こそはすべて』の中で、不合格となった1962年1月1日のデッカレコードのオーディションでのビートルズの録音をブライアンから最初に聞かされた時の印象を、次の様に語っています。

 「彼らの取り上げた題材は・・・、全て可もなく不可もない、実に平凡なできだった。しかし、そこには何か普通でない性質のサウンドがあった。それまでに私が聴いたことも考えたこともなかったような、ある種の荒っぽさが妙に感覚をくすぐるのである。それに一人以上の人間が唄っていること自体に特殊さがあった。もっと聴きたい、いやそれどころか実際に彼らに会って、その演奏するころも見てみたいと私に思わせるほどの、確かな手応えともいうべきものが感じられたのだ」

 この<それまでに聴いたことも見たこともない><複数の人間が一緒に唄っていて、ある種の荒っぽさがある、普通でない性質のサウンド>こそが、デビュー当時のビートルズのサウンドの最大の個性=特徴だったと思います。

 この点に関して、二人の著名な音楽家の言葉を紹介します。

 まず、元ポリスのベーシストのスティングは、ビートルズサウンド(”Love Me Do”)と出会った11才の鮮明な記憶を次の様に語っています。
「その溶け合ったヴォーカルハーモニーと魅惑的なハーモニーに惹きつけられた。その時は友達と一緒にプールで泳いでいたが、皆立ち上がって裸のまま唄って踊った。ほとんど霊的と言っていいほどの衝撃だった。ビートルズの音楽に深く心を動かされ、一生を音楽に捧げようと思ったのはこの時だった。」

 日本でも、アルフィーのメンバーで、トリビュートバンド ディア ビートルズでビートルズサウンドを実践的に深く研究している坂崎幸之助さんは、彼らのコーラスについて次の様に語っています。
「ビートルズのコーラスは、それぞれのパートが主張している。彼らの場合、ジョンとポールの個々のパートがユニゾンから異なる旋律に枝分かれし、どちらもメロディーとして主張している。それまでのコーラスグループとの大きな違いは、(3人でハモっているのに)トンがっているところ、つまりジョンとポールの声が聞き分けられるところ」と。

 例えば、”Love Me Do”の冒頭。高音部のポールの声と低音部のジョンの声は、どちらかが主で他方が伴奏・副というのではなく、二人の声が、それぞれが別のメロディーを唄いながら二本の声が一本の太い束となって、一つのメロディーとして聴く人の耳に訴えかけているようです。

 丁度、日本の神社に掲げられている<しめ縄>が、どちらかが主で他方がそれに従属するのではなく、お互いがしっかり絡み合って<一本の太い縄>となっているように。

レコードデビュー前から鍛えられていたヴォーカルのパワー

 ”Bad Boy”という曲は、今では”Past Masters Disc 1”で普通に聴けるようになりましたが、元々アメリカの Capitol record社からの要請で、アメリカ向けに録音した曲でした。

 ちょうどアルバム”Help”の録音をしていた1965年の5月に、同じアメリカ人の作曲家・歌手のラリー ウイリアムズ作曲の”Dizzy Miss Lizzy”等と一緒に録音されて、5週間後にアメリカ版”BeatlesⅥ”の1曲として発売されました。(イギリスでは、翌1966年12月にコンピレーションアルバム”A Collection of Beatles Oldies”に入れられるまでは未発売でした。)

 この曲をメインで唄っているのはジョンですが、1枚目のLP”Please Please Me”の”Twist and Shout”や4枚目の”Help”の”Rock and Roll Music”のように、喉も裂けよとばかりにシャウトするジョンの声は、正にR&Rの王道と言っていい迫力満載のパワフルな歌です。

 ここで、最近ではインターネット上に動画等がありますので、ぜひ原曲のラリー ウイリアムズの録音を聴いてみてほしいのです。恐らく多くの方が、「アレッ?」と思うのではないでしょうか?

 同じラリー ウィリアムズでも、”Dizzy Miss Lizzy”の方がR&R(R&B)らしいと思えるのではないかと思いますが、”Bad Boy”の方は、妙なかけ声のような合いの手も入っていて、恐らくは当時流行っていたノベルティソングのような感じで、軽い感じにアレンジされているのです。

 「ジョンの唄い方の方が、全然強力でロックらしい!」と思えるのではないでしょうか?

 このようなジョンの<ヴォーカルのパワー>は、実はR&Rのようなアップテンポのリズミカルな曲だけで発揮されるのではありません。

 実は”Please Please Me”の中の”Anna”や”Ask Me Why”等の、バラードと呼ばれるようなスローな曲でも、ジョンの声は絶大な効果を発揮するのです。シャウトと言われるような絶叫する時とは打って変わって、表情豊かに切なく切羽詰まって聞こえ、聴く人の心に強く訴えかけるのです。甘くささやくと言うよりは、より求め方が激しく切実だと言えるかもしれません。

 この<激しさ>は例えば、”Help”に納められた”Mr Moonlight”にもよく現れています。この曲は、1962年1月に発売されたアメリカのR&Bバンド Dr.Feelgood and the Interns の同名曲が原曲ですが、原曲を聴いた後でビートルズ盤を聴くと、「同じ曲で演奏も近いのに、こんなにも違って聞こえるのか」と驚くのではないでしょうか?

 2曲の印象の違いが、メインボーカルの唄い方や声質にあることは直ぐに分かると思います。
ジョンの声は、曲のリズムやテンポ(スピード)に関わらず声の表情の変化・振れ幅が激しく、声のピークでは振り切れて、圧倒的なパワーでシャウトしている=ロックしているのです。

 言わば、この<振れ幅の大きさ・激しさ>が、それまでのR&RがRockへと変わっていった転換点を表しているのではないかと思います。ビートルズは正にその転換点の真ただ中にいて、新たな大きな流れを創り出していった一つの中心だったと言えるのではないでしょうか?

 ハンブルグで鍛えられたメリハリのはっきりした音は、実は当時求められていた時代性とも一致していた、つまり振幅の大きさが時代を表していたとも言えるでしょう。

 別の言い方をすれな、同じ曲をほとんど同じアレンジで演奏しても「声や唄い方が変われば、全く違った表情を見せてくれる」のも、ビートルズサウンドのビートルズらしさ=ビートルズサウンドの秘密だとも言えるでしょう。

 勿論、ポールにもジョンとの最初の出会いの頃から、リトルリチャードそっくりに唄える高音シャウトという強力な声がありました。

 ハンブルグやリパブールで、ステージの最初にポールがリトル リチャードばりの高音を響かせて”Long Tall Sally”を歌い始めた時、どれだけたくさんの若者が心を躍らせながらステージに駆け寄って行ったのか、想像するだけで楽しくなりますね。

 このようなビートルズらしさ満開の《パワーヴォーカルハーモニー》は勿論、”Love Me Do”でのデビュー前からのビートルズサウンドの特徴でした。
この頃のビートルズのハーモニーについて、デビューの年の暮れにハンブルグでビートルズと共演したバンドのメンバーが、自分達の音との違いを「彼らもR&Rのスタンダードをたくさん演奏するが、3パートのハーモニーを入れたりして、アレンジを全て自分達で考えていた。それは信じられない光景だった。ぼくは完全に打ちのめされた」と語っていたことは前にお話しましたね。

 ちなみに、デッカレコードのオーディションで録音された”Hello Little Girl”(”Anthology 1”に収録)でも、ジョンとポールの2声の絡み合いやジョージも交えた3人のハーモニーをしっかりと聴くことができます。

R&Rパワフル ハーモニーの斬新さ・前例のなさ

 このような<パワフルな声でR&Rの曲をハモる(ハーモニーを付けて唄う)こと>が、当時如何に斬新で画期的で個性的だったかということを、二つの面から考えてみたいと思います。
まず、マーチンがビートルズとの録音をする前には「ジョンとポールのどちらを(クリフ リチャードのような)リードシンガーにするか悩んでいた」ことはお話しました。

 「切実にクリフ並みのシンガーが欲しかった。クリフ リチャード&シャドウズの成功によって、私は非常に保守的になっていて、ビートルズをリードするシンガーは一人しかいないと思い込んでいた」とはマーチン。
実は、当時ビートルズのアイドルだった歌手やグループは全て、誰か一人が他と違う服を着て目立って唄うリードシンガーだったり、リードシンガーとそのバックバンドというスタイルでした。

 結局、「彼らをありのまま売り出せばいい」と気付いたマーチンでしたが、「それにしても、彼らのような存在はこれまで見たことがなかった」(マーチン)のです。
例えば、ビートルズがデビューした1962年の前半のイギリスのヒットチャートを賑わしていたのは、エルビスやクリフのようなソロシンガーか2人~3人で唄うだけのグループ。または、演奏だけを聴かせるインストゥルメンタルグループ等でした。

 そもそも、ビートルズのようなロックバンドは、当時のイギリスでは彼ら以前には存在していなかったのです。

 3人のギタリスト(一人はベースギター)とドラマーで、演奏がきちんとできるだけでなく3人とも前面に立ってリードヴォーカルとハーモニーをこなし、作曲までするグループ。(実はドラマーのリンゴもステージでは唄っていましたが、マーチンは知りませんでした。)
リードシンガーの名前を出さずにグループとして売り出す、というマーチンの決断は、当時は全く前例のないことだったのです。

 もっとも、この前例のない決断をしたマーチンこそ、実験的サウンドや非日常的素材を活かすことができ、それを上手く当時のレコードセールスの波に乗せることができる、おそらく唯一の人=レコーデイングプロデューサーだった筈ですが。

個性的なR&Rシンガーから新しい時代のRockBand=パワーヴォールグループへ

 ここまで見てきたように、デビュー当時のビートルズの二人の歌い手は、それぞれが個性的で強力な声をもった作曲家でもありました。

 二人はその出会いからビートルズの初期の頃までは、実際に一緒に生活を共にしながら曲を創ることも多く、比較的近い曲調の曲を創り一緒に唄っていたと言えると思います。

 それが、それぞれに家庭をもって別々の暮らしをするようになり、特にポールが5年間も一緒に過ごした婚約者ジェーン アッシャーの一家との交流は、彼の<ロンドン時代>といわれる時期の、幅広い文化的な交友関係の基盤となる重要な刺激となっていたと思います。

 その意味では、ポールにはジェーンとの生活以上にアッシャー家の人々との交流が重要だったと言えるかもしれません。(例えばジェーンの兄ピーターとの交流は、作曲家と歌手としても、アップル社のオーナーとスタッフ等としても、長く続くことになります。)

 その後、ジョージやリンゴまでもが作曲して唄うようになる頃には、互いの音楽の世界も違う姿を見せるようになるのも、ある意味当然のことだと言えるでしょう。

 それでも、自分達が変化・成長し、それぞれの世界が発展的に拡張している様子を隠すのではなく、むしろありのままに作品として外に出していった姿こそ、ビートルズらしいと言えるのではないでしょうか?
この辺りの<変化・成長するビートルズの個性=多極的統一性>については、もう少し後で《ビートルズサウンドの秘密~その2・その3》で見ていきたいと思います。

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 西東京ビートルズ倶楽部(NBC)では、このサイトの内容やビートルズについてのご意見・感想等、お待ちしています。特に<私の1曲>として、<ビートルズの楽曲213曲の中でどの曲が好きか、好きな理由やその曲にまつわる皆さん自身のエピソード等々>は大歓迎です。

 NBCでは、今までにもビートルズ好きの皆さんがリアルで集まって、ビートルズのCDを聴いて語り合ったりビートルズの曲をライブで聴いたりするイベント等も行ってきました。

 「ビートルズのこの曲なら弾ける」とか「演奏してみたい・唄いたい」という皆さんの声がたくさん集まったら、一緒に演奏したり唄ったりする会も企画したいと思っています。
 ぜひメールでご連絡下さい。お待ちしています! 

<速報>

11月下旬に西東京市内で、来年2月4日には杉並区で《ビートルズ トークセッション》を開催予定です。ビートルズをしっかり聴いて語り合う時間をとるつもりです。たくさんの皆さんのお声を聞かせてください!

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