東久留米市の閑静な住宅地にある駄菓子店「だがしやかなん」が昨年11月、開店5周年に合わせて、多世代の常連らと店オリジナルの「だがしやかなん かるた」を作りました。
《いつまでも 必ず続けて だがしやかなん》《わすれもの いつも携帯 探す店長》——など、同店への思いやエピソードを詰め込んだ46札。
そんなユニークな制作を行った背景には、新型コロナウイルスにより臨時休校になった子どもたちとの交流を通して、同店がさまざまな世代の居場所になっていることを再確認できたことがありました。
店主の山永和子さんは、多世代食堂など地域活動に幅広く取り組む方で、「だがしやかなん」は「多世代の居場所を作りたい」との思いから、駄菓子店のある店舗を「ぷちコミュニティハウスとびら」とし、コミュニティをシェアする場を提供しています。
制作に込めた思いや秘話をお聞きしました。
動画(48秒)
山永さんインタビュー 「61人のゆかりのある方たちと7カ月かけ制作」
——制作のきっかけは?
「昨春の緊急事態宣言のときに、お店の一時休業を決めたんですね。
そのとき常連だった高校生たちから猛反対を受けました。
『俺たちのいられるところがなくなっちゃうよ!』『もう終わった!』——と。
そこで、まずは4月4日にLINEグループ「自粛しながら楽しむ会」というのを作り、毎朝9時にLINEビデオチャットでラジオ体操をすることにしました。
みんなが繋がることは大事だし、何より昼夜逆転の生活がいちばん怖かったんです。子どもたちはもちろん、私も。
ラジオ体操にはさまざまな世代や親子まで参加してくれました。でも、一方で、LINEで『暇だー』『やることがないー』と訴えてくるんです。
そこで、『それなら、それぞれ離れた場所でもみんなでできることは何だろう?』と考えたときに、瞬間的にひらめいたのが『かるた』でした。以前、東久留米まちづくりサポートセンターで『東久留米かるた』を作った経験があったので。
常連の高校生たちは即答でやりたい! と賛同してくれて、あっという間に『かるたプロジェクト』なるものが発足しました。それが翌日、4月5日のこと。子どもたちのエネルギーって本当にすごいものがありますね」
——絵札はバラエティがあり、印象的です。
「読み札は元スタッフや、中学生、高校生などの常連に振り分けて半月で作りました。
46枚の絵札は多世代の方に描いてもらうことにしました。SNSで呼びかけたり、個人的にお願いして最終的には、総勢60人以上の人がボランティアで協力してくれて、子どもたちの手描きのほか、スマホやパソコンでの作成したもの、プロとして活躍している方の作品等、たくさんの絵札が揃いました。
最初の構想では、絵札をA4用紙にコピーし、ラミネート加工してそのまま大きなかるたにするつもりでした。ところが、届く絵があまりに素晴らしかったんですね。それで、『これはちゃんとかるたにしたい!』『商品にしたい!』と思い直したのです。
ちょうど11月1日は『だがしやかなん』の5周年だったので、多少コストがかかっても、それに合わせて作ることに決めました。
『ぷちコミュニティハウスとびら』のイメージカラーであるターコイズブルーを基調にしたかるたの箱は、知り合いのデザイナーがデザインしてくれました」
——とはいえ「コロナ」による緊急事態宣言が発令されていた時期。一筋縄ではいかなかったのでは? と想像されます。
「できるだけ直接会うことは避けたい時期だったので、作品の引き取りには少し手間がかかりました。郵送だと送料の負担も出てしまうから、家の前に置いてもらって取りに行ったり、『だがしやかなん』の前に置いてもらったりしました。
途中から学校の課題が一気に出て子どもたちが急に忙しくなり、なかなか絵が集まらなくなった時期もありました。
直接会えれば励ましたりの声がけもできたと思いますが、会話ができないもどかしさみたいなものを感じましたね。
また、著作権の関係で描き直しが生じたものが5つくらいあり、『子どもたちには学校の課題もあるのに、描き直しを頼んで良いのだろうか……』と珍しく弱気になりました。
でも、最終的には、『みんなで一緒に一つのことを成し遂げる。形にする』という思いが勝りました。
みんなと約束したし、楽しみにしている人たちがたくさんいる。何より私自身、『だがしやかなん』に来てくれる子どもたちのためにも、『何があっても完成したい』という思いが強かったです。
5周年を迎える『だがしやかなん』の歴史を残したいという気持ちもありました」
——そんな強い決意のもと、7カ月で完成したかるた。
コロナ禍において「かるた」はどんな意味があるのか、山永さんはこう話しています。
「完成したかるたの箱を開けた瞬間は、『うわー!』と感激でした。とにかく可愛い!本当に可愛い!と(笑)ものすごい達成感でしたね。そのときの私は、うれしさで光り輝いてみえたと思いますよ。
1枚1枚読み札を改めて読んでいると、応援されていることがじわじわと伝わってくるんです。ここでのイベントの思い出やちょっとした日常、私のことなどを書いてくれていて、たくさんの人たちに支えられて今があることを実感しました。
『あなたとね 出会えて僕は幸せだ』なんていう読み札もあるんですよ。常連の高校生が考えてくれたんですが、涙が出るほどうれしかったです。
身近に感じていた著名人の方々が亡くなり、『コロナ』で一瞬にして命が奪われてしまう現実に直面して、一気に不安が高まった気がしています。
いつ、何が起きるか分からない。明日はどうなるか分からない。でも、そんな不安に負けちゃだめだと、子どもたちだけでなく自分自身にも言い聞かせていました。
クリエイティブな作業に携わることで不安を忘れることができましたし、『コロナ』が収束したら、いつかみんなで集まってかるたをやろう! と決めて、そこに希望を見出していましたね。
一致団結して共有した時間の濃さはすごかったと感じています。『コロナ』で全部閉ざされてしまったけれど、それでも楽しいことを考えて形にして産み出していく、錬金術ですよね」
——かるたは「だがしやかなん」5周年の当日11月1日、小平市東部公園で開催された「みんなデパート」で初お披露目となりました。「かるた対決」と銘打ったブースは、大勢の参加者があったそうですね。
「形にするって本当に大事だなあと思いました。商品にしたことによってすごく広がったし、自分がやってきたことがはっきりと見えてきて、いろいろな人たちに『だかしやかなん』ってこんなところよ、というのが伝えやすくなりました。
私の呼びかけに応えてくれた人たちに、本当に支えてもらいました。
『コロナ』で立ち止まったことでできたと考えると、決して悪いことばりじゃなかったと思えてきます。
当面の願いは、体育館で思いっきりかるた取りをすること。原画を拡大コピーして、大きな絵札目がけて、子どもも大人も一緒になって走り回る大会を考えています。以前、『東久留米かるた』でやったことがあり、大盛り上がりだったんです。
これからも、『だがしやかなん』から幸せの連鎖を起こしていきたいです」
まちづくり、人生相談なども
山永さんが「だがしやかなん」を運営するのは、「わが街の子はわが街で育てる」の思いから。
公立学校でのボランティア活動や、まちづくり活動などを経てきた山永さんは、「地域の人や子どもたちがふらりと集まり愚痴などを言える、そんなほっとできる場を作りたい」と2015年に「だがしやかなん」をスタートしました。
そんな山永さんは、「ぷちコミュニティハウスとびら」を、
・子どもたち向け自習室
・シェアスペース&キッチン
などで活用するほか、
・小さなフリースクール・ひきこもりの方の居場所
・仕事や子育ての悩み相談(かなんyorozu相談)
・つながりの場をつくるセミナー開催
など、多彩な活動を行っています。
そんな山永さんからは、インタビューの間中、笑顔の絶えることはありませんでした。
かるたへの思いは、一緒に作り上げた61人もの人たちへの愛情そのものだと感じます。
4月に始めたLINEラジオ体操も最初の3人から、2カ月後には20人以上、家族単位で参加されるほどになったそうです。また、昨年3月にやんちゃだった中学生が高3になり顔を出してくれて、「20歳になったらここ(『だがしやかなん』)で一緒に乾杯しよう」と言ったそう。山永さんがいかに子どもたちに愛されているかが分かるエピソードですね。
1セット3000円で販売中
かるたは「だがしやかなん」で、1セット3000円(税込)で販売しています。
山永さんの「顔を見て、手で渡したい」という思いがあるので、基本的には来店をお勧めしていますが、遠方などで事情のある方には郵送も可能だそうです。
気になる方は、まずはお店に連絡を。
だがしやかなん
東京都東久留米市幸町1−5−23
042-453-0048
◎公式サイト https://to-bi-ra.com/kanan