遠回りして、行くべき道に帰ってきた
一言でいえば早熟の天才。10歳でチェロのソロリサイタルを開き、和歌山音楽コンクールや札幌ジュニアチェロコンクールで1位などの実績を引っ提げてドイツに留学。ドイツでもコンクールで3位に輝いた。しかし生活環境での苦難を味わい、15歳のときにチェロをやめた。
日本で就職し、サラリーマン生活を3年。20代後半で、「まだ間に合うかも」と再びチェロに没頭し、昨年、東京藝術大学大学院博士後期課程を修了してプロ生活をスタートした。24日㈰には、現在の活動拠点である小平市のルネこだいらで、「雨情うたまつり」のゲスト奏者として、デュオパートナーのピアノ奏者・黒住友香さんとの二重奏を披露する。

小6でドイツ留学も、壮絶ないじめに…
ドイツに渡ったのは小学6年生のとき。親元を離れた寮生活で待っていたのは、壮絶ないじめだった。
「普通の日本家庭で育った身で、同調は得意だけど主張はできない、といううえに、ドイツ語も挨拶レベル。寡黙で異質な存在と捉えられ、正直、人種差別もあった。クローゼットに閉じ込められて、ガス缶を放り込まれたこともあります」
命の危機を覚える場面もあったが、「親が苦労してここに入れてくれている。何より、自分で選んだ道」と、誰にも言えなかった。
孤独な3年強のドイツ生活に一旦区切りをつけ、「日本の高校生活を送ってみたい」と帰国。だが、ここでも再びいじめが待っていた。
「今度は真逆で、自己主張が強すぎる、ということなんですね。『帰国子女だからって調子に乗るな』と警告されました」
チェロを離れるも、ドラマのような展開で再開
ーーどうして、こんなことになるのか……。考えを巡らせたときに行き当たったのは、「チェロなんかやってきたからだ」という思いだった。
「もう見たくもない」という気持ちで、楽器を押し入れにしまい込んだ。転機は大学入学。ドイツ語を生かそうと入った京都外国語大学で、何も知らない友人から「君はクラシック音楽なんて興味ないだろうけど、弦楽アンサンブル部を見にいこうよ」と誘われた。
嫌々ついていった先で見たのは、衝撃的な光景だった。
「2台しかないチェロを、5人の部員が奪い合うように弾いていたんです。一方で自分は、楽器をしまい込んでいる。これを寄付するか自分も一緒に弾くか、二つに一つしかないと思いました」
そうして再びチェロを手にしたが、もはやプロになろうとは思わなかった。一般企業に就職し、事務に勤しむ日々。ただ、仕事の大変さを知るなかで、いつしか思いの丈をぶつけるようにチェロを弾いている自分がいた。
「つらい思いがあると、訴えるようにしてチェロを弾いている。そんなことを繰り返しているうちに、ふと、もし続けていたらどうなっていたのだろう? もし仮に今、全部捨てて人生をやり直せるとしたら、自分はチェロの道を行くだろうか? と自問したんです」
そのとき29歳。心の声に従った。
グスタフ・イェンナーを日本に広めたい
少し遅れてスタートラインに立ち、今改めて、ドイツとのつながりに感謝している。
「ドイツの音楽には、アクセントの強さなどに言語的要素があり、精神的な強さを感じます。それを通して自分の人生を物語れるような気がしているんです。ライフワークとしては、ブラームスの愛弟子だったグスタフ・イェンナーを日本に広めていきたいですね」
◆かみくら・しんすけ 1988年、大阪府生まれ。東京藝術大学大学院修了時に大学院アカンサス音楽賞および取手市長賞などを受賞。桐朋学園大学嘱託演奏員。昭和音楽大学オーケストラ研究員。日本演奏連盟会員。
5月24日の「こだいら雨情うたまつり」は、午後2時から。市内の吹奏楽団などが野口雨情作詞の童謡などを演奏。500円。詳細は同ホール(☎042・346・9000)へ。
神倉さんが企画する「報恩コンサート」が、6月14日㈰午後2時から茨城県取手市民会館で開かれる。
ゲストに東京藝術大学前学長のバイオリニスト・澤和樹さん、ピアニスト・蓼沼恵美子さん。グスタフ・イェンナーの曲など。1000円(高校生以下500円)。詳細は取手市文化芸術課(☎0297・74・2141)へ。
