避難所運営で求められることとは!? 公民館でリアルな訓練
くつろいだ祝賀ムードの中で突然に起こった元日の能登半島地震。改めて、震災は時を選ばないことを突き付けられた。読者の皆さんは、何か震災の備えをしているだろうか? 震災時こそ地域の力が求められるという視点から、本紙では、真剣に防災を考えていく。今回は、公民館で実施された避難所づくり訓練の様子をレポートする。
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2月10日㈯の西東京市ひばりが丘公民館。「八方ふさがり冷や汗避難体験」と題された講座に、幼児や小学生の親子連れも含め、続々と老若男女が集まってきた。その数、約30人。全員が受付で、「今日は動くので、荷物はこちらにまとめてくださいねー」と所持品を預けさせられた。体良く、着の身着のままにさせられた格好だ。
「私の夫は1995年1月の阪神・淡路大震災の被災者です。早朝5時46分の発災で、隣にあった小学校に逃げ込んだときにはパジャマ姿。真冬で寒くても、どうすることもできません」
いきなりリアルな場面を想像させたのは、講師を務めた㈱イオタ・地域防災アドバイザーの岡橋かおりさん。映画のシナリオライターだったというだけあり、話の展開が抜群にうまい。
その後、じゃんけんで役割分担が行われ、◎避難者、◎避難所運営者、◎傍観者、に分かれた。さらに全員に、「82歳の要介護者」「妊婦」「香港から来た旅行者」などの役が与えられた。
さて、ここで震度7の地震が発生。いよいよ避難所づくりのスタートだ。冒頭から、岡橋さんが強調する。
「避難所を運営するのは一般の人たち。行政ではありません。避難者はお客さまではありませんよ!」
事前の打ち合わせどころか、何をするかの案内もなかったため、最初は全員がぎこちない動きを見せる。まずは避難所のエリア分けが行われ、①要介護などの要配慮者、②病気の人、③元気な人、④子どものいる人や妊婦、と4区分を設定。続いて、避難者役を実際に「**さんは元気なので③へ!」という具合に振り分けていった。
発災から振り分けが全て終わるまでに約30分。ちょっと長いのでは……と思われたが、各所で講座を開いている岡橋さんによると「かなりスムーズ」とのこと。「積極的に講座に参加された方たちだけあって、やはり意識が高いですね」。ということは、実際の避難所づくりでは、落ち着くまでに相当な時間を要することになるのだろう。
全員がスペースを確保した後は、空き箱などを使って、それぞれがプライバシー空間づくりに着手。いつの間にか、見慣れた公民館の一室が、本当の避難所の雰囲気になっていた。
重要な排せつの問題
一旦落ち着いた後は、長期的な避難所暮らしを想定したレクチャーがスタート。特にトイレの問題に多くの時間が割かれた。
「ニューヨークの落書き対策と同じで、最初に汚さないことが大事。誰かが汚したままにすると、どんどん不衛生になってしまう。場合によっては係を設け、1回ずつチェックしていくことも有効だと思います」
といったアドバイスが送られた。
また、水不足への対処として、大型ビニール袋と凝固剤を用意しておき、そこに排せつして袋ごと捨てる方法なども紹介された。大人の場合1日5回を目安にし、家族の人数に合わせて最低でも10日分から半月分は備蓄しておくのが望ましいという(むろん、多ければ多いに越したことはない)。なお、ビニール袋は、大型バッグやゴミ箱などに入れて広げれば、給水を受け取る容器にもなり得る。着替え時などの目隠しにも使えるので、黒色が推奨とのことだ。
このほか講座では、停電を想定し、電子マネーに頼らず現金を持っておくこと、テレホンカードを用意しておくこと、出先では携帯電話のバッテリーを無駄に消費しないこと、などが話された。
最後は打ち解けた雰囲気になった参加者からは「用意すべき具体的な防災グッズがよく分かった」「災害発生時のイメージをつかめた」「何が問題なのかを具体的に考えることができた」などの感想が寄せられた。
講師の岡橋さんによると、「講座依頼の状況などを見ても、遠いところの災害という印象なのか、能登半島地震によって防災意識が高まったという感じはない」という。しかし、参加者の声を見れば、受講によって意識変化があったのは明らかだ。自分ごととして考えられるこうした講座が、地域で繰り返されていくことが重要だといえるだろう。
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