補聴器が欧米に比べて浸透しない理由とは?
日本では、欧米ほどに補聴器が広まっていないという現実があります。
加齢とともに身体機能が衰えるのは仕方のないことのはずなのに、「我慢強い国民性」があだになっているようです。
改めて、補聴器でどうQOL(クオリティ・オブ・ライフ、生活の質)が向上するのかを考えてみました。
西東京市の補聴器専門店に取材してみると…
今回、西東京市民会館並びにある補聴器専門店「きりん堂」を取材してみました。
「どうして、補聴器は欧米のように普及しないのでしょうか?」
その問いに、補聴器を高度に扱える専門資格の「認定補聴器技能者」でもある皆川卓哉店主は、開口一番、こう指摘しました。
「『補聴器イコール高齢者』のイメージが強すぎるのか、生活に支障が出るまで我慢してしまう人が多いのです。小型でファッショナブルな補聴器も多いのに、その情報自体が広まらないのが実情です」
〈写真=きりん堂皆川様 /cap ぴったりとフィットするオーダーメイド補聴器を制作するため、耳型を取る皆川さん。耳型は片耳5分程度ですぐに作れる〉
家族・社会の理解の乏しさも普及阻害の一因に
実際、日本の補聴器使用率は、欧米諸国と比べて著しく劣っています。下表は、一般社団法人「日本補聴器工業会」による2015年データをもとにまとめたものです。
青は難聴者の割合で、日本=11・3%、イギリス=9・7%などと大差はありません。おおよそ、国民10人に1人が「聞こえ」に問題を抱えていると言えます。
ところが、難聴者の補聴器使用率(グラフの赤)になると、途端に数値に開きが出るのが分かります。
日本の使用率は13・5%、対して、イギリスは42・4%。さらに、補聴器を使用して満足している人の割合(グラフの緑)は、日本=39%、イギリス=70%と差があります。この結果からは、家族を含めた周囲の理解や受容の低さなどが見えてきます。
「ただでさえ補聴器使用者が少ない日本ですが、購入後に使わなくなる人が7%、1日1時間ほどしか使わない人が17%というデータがあります。これは、購入後に調整できることなどを知らないためと思われます」
そう指摘する皆川店主は「家族がアドバイスできる状態が理想的」と強調します。
というのも、最新機器は、例えばスマートフォンで音量調節ができたり、テレビと補聴器を無線通信技術(ブルートゥース)で同期させるなど、状況に合わせて使える自由度が高いからです。
高齢者一人で多彩なデジタル機能使いこなすのは難しく、デジタルに詳しい若い世代のサポートが求められているといえます。
難聴は「認知症」のリスクにも
では、補聴器利用によって、生活の質はどれだけ向上するのでしょうか?
先のデータでは、補聴器所有者の89%が「生活の質が上がった」と回答し、54%が「より快適な社会生活が送れる」を理由に、「もっと早く補聴器を使用すれば良かった」と答えています。
そして、補聴器の恩恵としては、上から、「安心感」「会話のしやすさ」などの回答が挙がります。
ちなみに、アメリカの最新の報告では、難聴と認知症の因果関係を指摘しています。そのリスクは、軽度難聴で約2倍、中等度で約3倍、高度になると約5倍にも達するとしています。
「『聞こえ』は安全にも関わりますし、何よりコミュニケーションは人間らしさにつながります。聞こえないと疎外感を感じてしまうもの。ぜひ気軽に補聴器を手にしてほしいです」
と皆川店主。
「聞こえづらさ」は加齢とともにどうしても避けることのできないことです。今はおしゃれな補聴器もたくさんありますので、気軽に検討してみてはいかがでしょうか?
【取材協力】 補聴器専門店「きりん堂」 042・451・8288 西東京市田無町4の16の5