「科学」の陰に父娘の物語〜多摩六都科学館めぐる地元秘話

2019年3月20日

地元秘話 「科学」の陰に父娘の物語

これは、地域に愛される飲食店をつくった親子2世代にわたる物語――。

複数のノーベル物理学賞受賞者を輩出した、東京大学原子核研究所(通称「核研」)。1955年に設立され、43年にわたって日本の原子核物理学の拠点となった施設です。

当時、旧田無市緑町にあった「核研」の面々が足しげく通っていた「鳥八」という食堂と、現在多摩六都科学館内で営業する飲食店「六都なおきち」には、知られざるつながりがありました。

 

ノーベル賞受賞者も通った店が「科学館」のカフェのルーツ

間もなく日付が変わろうかという頃に、鳥八の黒電話が鳴り響く。  

「おやっさん、今から行ってもいいかな」

ほどなくして、ガラスの引き戸が開く。

首から手ぬぐいを掛け、土埃で汚れたワイシャツ姿の男性10人ほどが次々とのれんをくぐると、深夜の店内が一気ににぎわった。

「SOR-RING」の開発者たち。手前右端の女性が高校時代の佐藤うららさん、左隣が母・光佐子さん

   *** 

そんな一幕が、連日のように「鳥八」で繰り広げられていました。

訪れたのは、「核研」の研究者たち。ノーベル賞受賞に多大なる貢献をした素粒子観測装置「カミオカンデ」の始祖的存在ともいえる、世界初の放射光研究専用リング「SOR-RING」を開発した面々です。

彼らは研究のみならず、同装置を設営するための円周数十メートルの穴を、自らツルハシで掘っていました。

98年の「核研」閉鎖に伴い、メンバーがかつての研究仲間に寄せたメッセージには、次のような一文があります。  

「SOR-RING成功の陰には、『鳥八』がありました。『鳥八』のテーブルや壁には、研究を支えた人々の汗と涙と血がにじんでいました」  

 

小林誠博士、益川敏英博士らの姿も

おやっさんこと鳥八の店主の名は小林秀雄。経済新聞の記者を辞め、35歳だった1968年に妻・光佐子さんと店をオープンしました。

場所は、「核研」の目と鼻の先の北原町の商店街。日暮れと共に開店する同店には、「核研」の職員をはじめとする地域の人々が足を運びました。  

「そのなかには、当時『核研』に在籍し、のちにノーベル賞を受賞する小林誠博士、益川敏英博士らの姿もありました」  

と当時を振り返るのは、小林夫妻の娘で現在、多摩六都科学館内のカフェ「六都なおきち」などを手掛ける、佐藤うららさんです。

鳥八の客には「うーちゃん」と呼ばれてかわいがられたといいます。  

佐藤さんが田無駅近くのカフェ「田無なおきち」を開いたのは2009年。地元の食材を使った料理や地域発イベントの企画などが評価され、17年には2号店となる「六都なおきち」を出店しました。  

「お客さまを席にご案内しようとしたときに気付いたんです。お孫さんを連れていらしたのが、『SOR-RING』の開発メンバーだった先生のお一人。『鳥八のうーちゃんです!』とお伝えすると、たいそう驚かれていました」  

「核研」と「鳥八」、「多摩六都科学館」と「なおきち」。科学という共通点が、自らのルーツを思い起こさせる。気付くと、亡くなった父と同じく、地域の人や科学関係者の憩いの場を作っていました。

「私の以前の仕事はイラストレーターとフードコーディネーター。母からは『まさか、40歳を過ぎてからお店を開くなんて。お父さんにそっくりね』と驚かれました」

アルバムをめくる「六都なおきち」店主の佐藤うららさん

  ***

「核研」跡地にできた西東京いこいの森公園には、「核研」の記念石碑があります。

そして、鳥八の“血”はなおきちへ――人々の中にあった記憶や思いは、姿と形を変えながらも地域で息づいています。

 ◎六都なおきち


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