願いを込め、所有者の声も収録
地域の人々の暮らしぶりを伝える「屋敷林」の価値を見直してほしい――先頃、西東京市の市民団体「屋敷林の会」が、屋敷林を紹介する冊子「屋敷林 武蔵野に生きて、西東京市の今へ~自然と共生してきた人の営み」を発行しました。
かつては生活に不可欠だった「屋敷林」
下保谷4丁目の高橋家が来年市に全面移管されるなど、屋敷林保護の機運が生まれつつあるなか、会のメンバーは、「屋敷林を残していくためにも、多くの人にその価値や魅力を知ってほしい」と訴えています。
屋敷林は、かつての農家などが家の周りに植えてできた樹林のこと。生活に必要な樹木などが植えられ、それらは季節ごとに有効に利用されていました。
たとえば、木々は、防風、防熱、防火、建築資材、薪炭などに重宝され、落ち葉は堆肥にされました。もちろん、カキやウメ、ビワなど食用のものもありました。
これらの利用は昭和30年代までこの地域でも行われていましたが、電気・ガスが使われるなど生活環境が便利になるにつれ木々の利用は減っていきました。現在では、緑化・景観という面を除けば、生活上ではあまり利用されなくなっています。
減りゆく「屋敷林」をどう守るか
一方で樹林の管理には手間も費用もかかることから、多くの所有者が屋敷林を手放している実情があります。
加えて、管理する土地が広いため相続の際の税負担も大きく、屋敷林はどんどん減っています。
こうしたなか「屋敷林の会」では、「屋敷林は地域の財産」という思いから、屋敷林の価値が広く知られるための活動を続けてきています。
10年前にも冊子を発行しており、その後も、あらやしき公園北の高橋家を主会場に、夏には子ども対象の自然観察会を、秋には、「下保谷の自然と文化を記録する会」と同市社会教育課とともに、地域の産物だった藍やたくあんの歴史を知ってもらうイベントを開いています。
「屋敷林の会」の萩原恵子さんはこう話します。
「屋敷林を樹林として捉え、緑化や自然保護という観点を重視する傾向がありますが、私たちは、それ以上に、郷土の歴史を伝える文化財として見ています。
樹木の利用法などを知っていくと、人々の知恵や暮らしぶりが肌で感じられ、感動します」
13人の所有者が、維持の大変さなども吐露
そんな思いもあり、今回の冊子では、屋敷林の役割や樹林の解説に加え、現在の所有者の語りに多くのページを割いています。
市内13人からの聞き書きで、その言葉から、かつての暮らしぶりや管理の大変さ、相続の悩みなどが伝わってきます。貴重な聞き書きとなっています。
なお、冊子の執筆には、「下保谷の自然と文化を記録する会」も協力しています。
地域に「屋敷林」保護の機運が高まれば
同市では、高橋家を買い取り、特別緑地保全地区に指定するなど屋敷林を評価する姿勢も見せています。
「記録する会」のメンバーの高橋孝さんは「地域の中に『屋敷林を残そう』という機運が高まれば」と期待を寄せています。
冊子販売中
冊子はA4判、112ページ。同会で販売しています。送料込み1250円。
詳しくは萩原さん(042・423・5796)へ。