在宅診療NOW
まつばらホームクリニック 松原清二院長のコラム
何十年もの間、心臓の病気を患っており、退院しても10日程度ですぐに入院してしまうということを繰り返している60代の男性がいました。
心不全の影響でお腹はいわゆる蛙腹(かえるばら)で膨れ上がっており、退院すると心不全が悪くなってしまうため、足のむくみに加え、陰嚢部まで大きくなって股間部が擦れてしまい、歩けなくなってしまうということもたびたびでした。
しかしながら、年末の「年末年始は自宅で過ごしたい」というご本人の思いは強いものがありました。「自分で台所に立ち、好きな物を作って食べたい」という話をされており、実際、夜に診察に行くと、ダイコンの皮を包丁で剥いたり、鍋でグツグツ煮込みを作っている姿がありました。こちらとしても、「家でこのまま生活させてあげたいな」と感じたものでした。
「在宅で年末年始」のために
治療としては、平日は数時間ほど点滴で強心剤や利尿剤を使ったり、お腹に直接針を刺して腹水を抜くということをしました。その結果、再入院を遅らせることができ、退院から20日以上たったときには、ご本人からえらく感謝され、「自宅でここまでしてくれて、本当に気持ちの中の突っかかりが取れた」とまで言ってくれていました。
ところがある日、意識をなくし、台所で顔面を打撲し、流血するということがありました。もともと危険な不整脈があり、体に除細動器を入れていたので、「また不整脈が再発したのでは」と考え、命の危険を考慮して入院の手はずを取りました。入院中も不整脈が多発したようで、しばらくして薬で落ち着かせることができ、退院にこぎつけたものの、すぐに不整脈を再発させて、病院に搬送されるも、残念ながら息を引き取られてしまいました。この方は入院中、延命治療は希望されていなかったようです。
事前に語り合っておく大切さ
救急病院の勤務医をしていた時には心疾患という性質上、すぐに命に関わる状態のときはどうするかについて、入院当日に患者さんご家族からご意向を聞いていたものですが、在宅診療を行っている今は、比較的状態が落ち着いている方が多く、なかなかそういう話はしづらいなあと思うことが増えています。
しかし一方で、やはり急変時の話をしっかりしておかないと、ご本人の望まない最期になってしまうなあと考えさせられました。
プロフィール
松原 清二