アマゾンの集落のコミュニティ
――社会の問題なのでしょうか……。
まさに社会ということについて、地域紙として興味があることを一つ質問させてください。
地域で取材をしていると、居場所、ひきこもり、生きづらさ、いじめ、非行、孤独死といったワードに出会います。そうしたことは、アマゾンの伝統社会のムラにもあるのでしょうか。
「少なくともいじめはあります。
ただ、日本社会のような粘着質ないじめではなくて、たとえば知恵遅れの子を邪見にするとか、そういう感じです。
その代わり、何かあったときにはみんなでかばいます。お年寄りにも同じで、何かあったときはみんなでフォローしていく」
――居場所がないような子はいないわけですね。
「いや、もちろん、悪いことをしたら居場所はないです。人妻をさらっていっちゃうとかしたら、もう」
――その場面に出くわしたことがあると本で読みました。
「何回もあります。
面白いのは……、みんな共通しているんですが、ある一定期間離れていて、何年かしたらしらっと帰ってくるんですね。すると、みんな許すんですよ。酔っぱらったときだけは、ぶり返すこともあるんですが」
「人とのつながりが安全保障」という社会
――関野さんの過去の対談を読むと、アマゾンのムラは平等社会だと紹介されています。所有の概念も希薄で、たとえばナイフを3本持っている人がいて、1本も持っていない人がいると、何のためらいもなく、また見返りも求めず1本を分け与えるのだと。
「ぼくたちは町にいて、ぜんぶお金でサービスを済ましますよね。将来に備えてお金を貯め込みもする。それが安全保障なわけです。
それに対して彼らはどうかというと、最初からお金がないから、貯め込むということができません。でも将来への安全保障は必要です。
では、どうするかというと、人とのつながりをいろんな関係で密にしていくんです。一緒にイニシエーションを受けたり、家族は大きな構成で住む。
意識的に、『お前と俺は何かのときには助け合おうぜ』という関係を何人かと作ったりもします。つまり、人とのつながりが将来の安全保障なんです。
そこからすると、ぼくたちは、実はお金を持てば持つほど、人とのつながりが薄くなっているのだと思います」
バランスが重要
――しかし関野さんは、人類拡散のグレートジャーニーに対して、弱者が押し出されたために起こったと考察されています。何らかの形で弱者が生まれるというのは避けられないということでしょうか。
「アマゾンのような豊かな場所だと、豊かなだけに人口が増えてしまうのです。すると、分裂が生じてしまう。一定のバランスが必要なんです。
例えば狩猟採集民のヤノマミは、150人で集落をつくります。200人だと分裂します。
その話を霊長類学者の山極寿一さんにしたところ、アフリカでもやっぱり150人だと教えてくれました。
そこで意気投合したのですが、150という数は、人間――特に狩猟採集民にとってのゴールデンナンバーなのかもしれません。
山極さんは『おれたちもそうじゃないか』とおっしゃいます。言われてみれば、年賀状を、仕事以外で、性格まで知る友達に送るのは、150人ぐらいのものです」
――現代の私たちにも、ヒントになりそうな話ですね。
「そう思います。ぼくは農耕民の場合は600人とも思っているのですが、いずれにせよ、最近は『グローカル』などといって、地球のことを考えながら地域やっていこうという動きがあります。
ローカルでやればまとまりがありますから。みんなの目が行き届くし、効果的だと思います」
世界を旅して「足もとを知らない」ことに気づいた
――その話でいうと、関野さんは2015年に「地球永住計画」というプロジェクトを立ち上げています。ユニークなのは、壮大なネーミングの一方で、地域にこだわって活動していることです。少し解説をお願いします。
「ネーミングについては、最初は、美術・地域・知識の頭を取って『美と地と知』というのを考えていたのですが、建築科で、火星に移住したらどんな建築物を作るかを考える『火星移住計画』という課題を出しているのを知り、それに張り合って、やっぱり地球だろう、この奇跡的な星を大切にしよう、ということで付けました。
なぜ地域にこだわるの? ということでは、ぼく自身がグレートジャーニーでアフリカに着いたときのことにさかのぼります。それまで30年くらい世界中を旅してきて、アフリカはそのときの大きなゴールだったのですが、そこで思ったのは、『足もとを知らない』ということだったんです。
それで、自分が生まれた近く(東京都墨田区)にあったブタの皮なめし工場で働いたり、自分の遺伝子からルーツが北方系縄文人にあると分かったので、アイヌとかマタギ、鷹匠などに興味を持って会いに行ったりしました。
結局ぼくがやっていることは、自分の足で歩いて、見て、聞いて、自分の頭で考えるということに変わりはないんです。
そういう活動の中で、大学のそばに玉川上水があり、そこに豊かな生態系があると分かったので、そこでのフィールドワークで生物を眺めたり、流域の古老の話を聞き書きするといったことを始めました。
と同時に、宇宙や太陽、DNAといった大きなテーマは、自分で歩くわけにはいかないので、専門家に講義をしてもらっています。この講義は、多いときは毎週のように開催し、精力的に行っています。講義内容は、いま、ナショナルジオグラフィック日本版で連載もされています」
――それらのフィールドワークや講座を、市民を交えて行っています。狙いは何でしょうか。
「契機です。考える契機。ヒントをここで得てもらえればと思っています。市民の方は一生懸命ですね」