前田憲男さんは、『日本カエル図鑑』など、カエルに関する著書が複数ある自然写真家です。
このほど、日本国内で繁殖する48種のカエルの生態などを網羅した『日本産カエル大鑑』(文一総合出版)を出版しました。京都大学名誉教授の松井正文氏との共著です。
「写真に収めたのは少なくとも国内では初めてのはず」
と前田さん。
学術的価値の高い1冊となっています。
妻より長い、カエルとの付き合い
齢71。「カエルとの付き合いは妻より長い」と笑います。
撮り始めたきっかけは、大学在学時。中判カメラを購入し、写真を趣味にしようと決めたものの、ただ漫然と撮るのはつまらないと、独自のテーマを探しました。そこで被写体に選んだのがカエルでした。
「持ち合わせの、機動性の悪い中判カメラでも撮れそうだ」
そんな、現実的な理由でした。
そうして仕事の合間に撮り溜めたカエルの写真。十数年の歳月が流れる頃には、国内の全種をほぼ撮り終えるほどになっていたといいます。
出版社に勤める中学時代の同級生にそれらの写真を見せると、「図鑑に使わせてほしい」との申し出が。写真家としての、思いがけないデビューとなりました。
仕事にしようとは思っていなかったのですが…
「カエルの写真をライフワークにしたいとは思っていましたが、仕事にしようとは思っていませんでした」
そう話すように、60歳で定年を迎えるまでは印刷関係の仕事を続けていた前田さん。
しかしその頃には、日本随一のカエル写真家として知られるようにもなっていました。
「カエル写真家」。
その称号は、長年の月日の賜物(たまもの)といえるでしょう。
特に、離島の特定の地域にしかすんでいない種を撮る場合は、天候が読めずに苦労することもしばしば。『日本産カエル大鑑』に掲載したヤクシマタゴガエルのオタマジャクシは、4度目のフライトでようやく出会えたそうです。
1枚撮るための人知れぬ苦労
徹夜が必須の撮影もあります。
カエルが産気づいてから、受精卵が細胞分裂する「卵割(らんかつ)」による変化の様子を撮り終えるまでは、1段階の漏れも許されません。結果、48時間連続での撮影に……。
おたまじゃくしを数匹撮るにも、真正面・真上・真下・真横の撮影で8時間ほどを要します。写真にチリやホコリ、気泡などが写らないように毎回の水換えや温度調整を行うためです。
「オタマジャクシの顔を正面から撮影したのは、今回が初めて。歯が非常に柔らかいので、口らしい、きれいな形になっているタイミングで撮るのに苦労しました。何十年と撮り続けていても、撮影していく中で、毎回新しい発見と出会いがある。それがおもしろいですね」
◆まえだ・のりお
1947年、高知県生まれ。著書に『声が聞こえる! カエルハンドブック』『田んぼのいきものたち「カエル」』(いずれも共著)など。『日本産カエル大鑑』は272ページ、2万7000円(税別)。『小学館の図鑑NEO〔新版〕両生類・はちゅう類』付属のDVDのカエルの鳴き声は、前田さん録音によるもの。動物や風景なども撮っています。西東京市在住。