須田研司さんは、多摩六都科学館の自然部門を監修する自然教育の研究者です。
虫や植物に関する児童向けの著書・監修本は、数十冊に及びます。
現在同館で会期中の人気企画「大昆虫展」では、虫の入手・管理を一手に請け負っています。ずらりと並ぶ甲虫や蝶の標本も、ほとんどが自製のものだそうです。
(※編集部注 イベントは終了していますが、地域情報として掲載を継続しています)
高名な父のもと、自然好きになった
虫に魅せられたきっかけは、父が捕ってきた1匹のトンボ。マルタンヤンマという全身ブルーのトンボで、「生きている虫は本当に美しい」と胸を打たれました。
父は、虫研究で高名な孫七さん。家には「日本で最初の」ともいわれるビオトープがあり、標本まで含めれば、数えきれないほどの生物が身近にありました。
そんな環境の中で、当然のように昆虫少年に。小学生高学年にもなると、自転車で20キロ以上を走り、多摩地区の野山を駆け回ったといいます。
「好きだから」 苦労は気にならない
現在の主な活動は、児童書への執筆や、子どもたちを連れてのフィールドワーク、博物館などの展示監修や、行政・研究機関から依頼を受けての動植物調査などです。
活動は多岐にわたり、休む暇もないといいます。
今年は昆虫展もある関係で、3カ月以上働き通し。それでも苦にならないのは「好きだから」。
……とはいえ、その仕事の中身はなかなか過酷です。
なんといっても、相手は大自然。
過去には、スズメバチの襲撃で数カ所を刺されたり、炎天下の田んぼで10時間ものトンボの生態調査をしたり……。長野県のダム建設予定地を調査したときには、急勾配の崖から十数メートル転落したこともありました。
よく知り、よく体験しよう
自然の中でものを言うのは、「知力と体力」。特に、トラブルに対処できる知識を養っておくことが大事です。
「ハチの生態の知識を持ち、襲われたらどうするか。万一刺されたらどうするかまで知っていれば、何も恐れることはありません。自然の醍醐味を味わうには、よく知り、体験していくことです」
と須田さん。
昨今気になっているのは、子どもたちが自然と無縁になりつつあること。「大昆虫展」では、そんな懸念から、虫との「ふれあいコーナー」を設けています。
「子どもの頃に虫に触るのは大事なこと。その体験を通して力加減を学べます。ひいてはそれが他者への思いやりにもつながっていく。身近な動植物を慈しむことが、心を豊かにするのです」
◆すだ・けんじ 1970年、杉並区生まれ。「むさしの自然史研究会」所属。多摩六都科学館には2005年からかかわり、現在では週1日ペースで昆虫標本の監修や、魚の剥製の補修なども行っています。