ソプラノ歌手の星美智子さんは、双極性障害を患いながらも、声楽家として音楽活動に勤しんでいます。
自身が代表を務める音楽団体「やすらぎコンサートSana(さ~な)」では、年に数度、病院や福祉施設で訪問コンサートを実施しています。この週末の29日には、出身地・熊本県の地震被災者支援を目的としたチャリティーコンサートを小平駅近くで開きます。
(※編集部注 イベントは終了していますが、地域情報として掲載を継続しています)
母の影響で歌の道へ
星さんの実家には、いつも歌があったといいます。
音楽好きの母の影響で、ピアノを習い、小学生から合唱部に所属。高校まで熊本で歌に明け暮れ、東京藝術大学進学を機に上京しました。
大学院まで進みましたが、卒業後間もなく恩師の急死などがあり、音楽活動が頓挫します。出会いもあり、家庭に入りました。
しかし、家で教室を開くなどして音楽とかかわっていたものの、心の中には常に「表現に戻りたい」という思いがあったといいます。
そんな葛藤も影響したのか、ある日、大きなストレスをきっかけに不眠症になってしまいました。そして……。かつて躁鬱(そううつ)病ともいわれた双極性障害を発症していました。
苦しさを支えたのは、やはり音楽だった
一旦うつ状態になると、考えも動きもできないまま一日が過ぎていってしまいます。
一方で、ハイな状態になると、財布が空になるまで買い物に熱中したりしました。
自分で自分をコントロールできない日々——。
そんな苦しい時間の心の支えとなったのは、やはり音楽でした。
治療に効果を見いだせず、諦めかけていた頃のこと。一縷の望みを抱いて国立精神・神経医療研究センター病院(小平市小川東町)を訪ねたその院内で、ピアノを見かけました。ふと胸によぎる思いがありました。
「良くなったら、ここでロビーコンサートをしたいな」
それが、治療を続ける原動力となりました。
目標が実現したのは1年後のことです。
「調子が悪くなったらすぐに中断すること」という条件下で音楽家仲間と共にステージに立ち、歌う喜びを再発見しました。
以来、公立昭和病院や高齢者施設、救護施設などで訪問コンサートを続けています。
今苦しんでいる人に、ほんのひと時でも音楽で癒やされてほしい
「私自身、気持ちがつらいときも、音楽を聴いている間だけは病気を忘れることができました。いま苦しんでいる方々にも、ほんのひと時でも、音楽で癒されてほしいんです」
そんな思いと同時に、訪問コンサートには社会への呼びかけも込めています。
完治しないともいわれる双極性障害。その治療を続けながら歌う自身の姿が、精神疾患への偏見をぬぐう一助になればと願っています。
「本当に苦しいとき、孤独がつらく、人と交わることがありがたかった。特にこの地域は、精神科の病院も多い場所。みんなで支え合える環境があればと切望します。私の歌う姿が、メッセージになればうれしいです」
◆ほし・みちこ 熊本県出身、東京藝術大学大学院オペラ科修了。オペラ出演歴多数。6年前から地域の福祉施設などで訪問コンサートを行っています。
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