昨年末の市長選挙で現職の再任が決まり、いよいよ公立保育園の全園民間化(廃園)に向けて加速し出した東久留米市。しかし公立保育園に子どもを預ける父母からは、依然、計画への強い反発が示されている。選挙を経た今、並木克巳市長の方針は市民に承認されたようにも見えるが、父母の反対の理由は何なのか。「公立保育園存続プロジェクト」事務局メンバーの鎌塚由美さんに話を聞いた。
――市長が示した公立保育園の民間化計画に反対されています。その理由は。
「まず、時代に逆行した政策だというのがあります。国は女性の労働の推進を唱えていますし、待機児童問題は社会問題化しています。東久留米市から5月18日に来た回答では、この春も認可保育園に入れなかった子どもが市内に108人いるとのことです。待機児童がこんなにもいる状況で、なぜ公立保育園をなくそうとするのか理解できません。ちなみに、最初の廃園対象となっているしんかわ保育園の4月現在の園児数は110人です」
――市は、民間の保育園を増やして受け入れ枠を拡大させる考えです。
「それであれば、まず待機児童をゼロにしてから、じっくり時間をかけて公立保育園の問題を考えれば良いのだと思います。待機児童問題が解決しないまま公立保育園の廃園計画が進む現状は不思議です。前回の選挙後、並木市長には『4月の待機児童数がはっきりするまで民間化方針は明言しないでください』と申し入れたのですが、3月議会で改めて方針を示されました。私たちには、いま、行政への不信感しかありません」
――市からの説明は。
「実は、市から連絡があり、市長が来園しての説明会を6月2日に開くということだったのですが、父母会の総意として全員が欠席しました。信頼関係が損なわれているのに、『説明会は開催した』という実績だけ残る形にしたくなかったからです」
――選挙で並木市長が再選したということは、民間化方針は支持されたといえるのでは?
「市長は選挙公報に『平成30年4月に待機児童ゼロの見込み』と実績を誇っています。しかしその見込みが大甘だったことは先刻申し上げた通りです。甘い見込みを喧伝して当選しても、それで市民の理解が得られたといえるのでしょうか?
そもそもこの計画は全国でも例をみない、公立保育園の全廃計画です。ところが市長は『全廃』とは口にしません。民営化とは違う点が市民にきちんと伝わっていないと思います」
――鎌塚さんご自身、しんかわ保育園に子どもを預ける保護者です。周囲からは、当事者が反対しているだけ、と見えるのでは。
「市が直営する公立保育園は、市内全体の保育の基準になります。それのあるなしは、民営保育園の保育の質にも影響します。
設備的な面でも、例えばしんかわ保育園は、周辺の民間保育園に園庭を開放しています。民間の場合、設置しやすいといった理由もあって、園庭のない保育園が少なくありません。
また、東久留米の公立保育園の場合は、異年齢保育という特徴的な保育を何十年も続けてきた歴史があり、地域コミュニティの拠点として大きな役割を担っています。保育園は子育てで最初のつながりが生まれるところなので、子どもだけでなく、親にとっても、地域と出会う貴重な場なのです。園庭があり、年間の行事があり、地域にOBもたくさんいる。そういう場は、地域の財産だと思います」
――今後の展望は。
まずは6月の議会に注目しています。あとは、市民への周知です。多くの人にこの問題を知ってほしいし、一緒に考えていただきたいです。子育てに冷たい町という印象は、若い人たちの流入に影響します。実は私自身、『東久留米は子育てするのに環境がいいよ』と誘われて市外からここに定住した一人なのです。それがこんな状況になってしまい、私自身は友人を誘えません。
保育問題は決して当事者だけの問題ではありません。住み良い町、魅力的な町をつくるために、賛同してくださる方々ともっと連携していければと思っています」
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30日(土)には同園名物の夏祭りを開催。模擬店など。誰でも参加できる。
(※編集部注 イベントは終了していますが、地域情報として掲載を継続しています)
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東久留米市の公立保育園民間化計画 民間活力の利用により多様な保育ニーズに応えられるといった考えから、東久留米市は2016年3月に、市立保育園を閉園し、民間サービスへの転換を図る計画を策定した。経費削減も狙いの一つで、最終的には公立園全園の民間化を目指す。最初の閉園対象園はしんかわ保育園。
鎌塚 由美 (かまづか・ゆみ)
しんかわ保育園父母会長を務め、昨年度は「公立保育園存続プロジェクト」代表。二男の母で、現在、次男を同園に預けている