西東京市新町児童館で月1回、ボランティアで「自然観察みどりの教室」を開いてきた大森拓郎さん。
15年にわたるその指導は、延べ170回を数えます。
大森さんがテーマにしてきたのは「身近な動植物」。
折々の記録をもっと広く伝えたいと、このたび『季節の移ろいと気づき』という一冊にまとめました。B5判・400ページに、生き物700種、解説文50万字、写真1300枚超を収めた大作です。
自然を学んだのはリタイア後
大森さんは、三重県の農家に生まれ、さまざまな動植物が身近にある環境で育ちました。若い頃から、登山やアウトドアも好きだったといいます。
とはいえ、「虫も花も、名前一つ知らない」という自然への向き合い方。大森さんが退職後に孫と出掛けた小金井公園では、孫たちのほうが虫の名前を知っていることに驚かされたそうです。
実は、驚かされたことは別にもありました。孫たちの自然との触れ合いの乏しさです。
虫や草花の名前は知っているのに、それに体験が釣り合っていないように見えたのです。
保育園にビオトープを作ったのが始まり
「子どもたちと一緒に、私もゼロから勉強していきます。自然教室をやらせてください」
――大森さんがそんなふうに近くの保育園に掛け合ったのが約15年前。
以来、保育園にビオトープを作り、自然観察教室を開講し、自身の学びを深めながら、並行して、児童館での指導も行ってきました。
その間、一貫してこだわってきたのは、「身近な自然」です。
自宅のある新町を定点観測し、足を延ばしても、小金井公園、旧東大農場程度にとどめました。
15年続けたから見えたものがある
15年続けてきたからこそ、見えるものがあるという大森さん。
特に実感しているのは、身近な動植物の明らかな減少です。10年前はごそっと捕れたエンマコオロギが、この数年は容易に集められないといいます。
「空き地、畑、雑木林、屋敷林などが宅地や駐車場になるたび、それまであった生態系が壊されてしまっています。小さな虫たちは移動できませんから。虫が減れば鳥も減ってしまうんです」
「衝動買い」が地域との出会い
大森さんとこの地域との関わりはまったくの偶然です。
40年ほど前のある土曜日のこと。井の頭恩賜公園に遊びに来た際に、駅前の宣伝に誘われ、何となく住宅案内の車に乗りました。薄暗い夕方、地域の環境も分からないまま、建築中の物件を仮予約したのが今の住まいです。「人生最大の衝動買い」が、後にどっぷり浸る、地域の自然との縁となりました。
「自然を守っていくには、市民一人ひとりが意識を高めていくことが大切。行政頼みではなく、敷地のブロック塀を垣根にするなど、各人でできることはたくさんあるはずです。今回の本が、そんな気づきのきっかけになれば。ちなみに我が家は、雑草が茂る『自然放置型庭園』です(笑)」
と、大森さん。
情熱を込め、4年をかけて仕上げた大森さんの著書は、4月1日に発行されます。
◆おおもり・たくお
1940年、三重県出身。金融機関などに勤め、退職後、2004年から旧東大農場の存続運動に参加。西東京市在住。現在は、地域活動として、自治会会長、西東京市美術協会事務局長などを務めています。児童館ほか、保育園、小学校などでも自然観察指導を行っています。日本自然保護協会自然観察指導員。冊子の著書に『都市における生物多様性~私たち一人ひとりがどう取り組むか~』『フライブルク見聞記』があります。
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冊子『季節の移ろいと気づき―子どもたちに身近な自然をどう伝えるか』は、500部発行。2700円。購入方法など詳しくは大森さん(ohmori-takuo@gb3.so-net.ne.jp)へ。