タウン抄
「タウン通信」発行人・谷 隆一コラム
高校生の息子が「学校で『AIを巡るトピックと、見解を書け』という課題が出たのだけど、相談に乗ってもらえないかな」と言ってきた。
さっそく検索し、選んだのは、女性キャラクターの対話型AIにのめり込んで(恋をして)自殺をした30代男性の事件。息子が参考にしたのはベルギーのケースだが、アメリカの14歳の少年の事件もある。
この事例自体はニュースになったときに知っていたが、改めて調べると発見が幾つもあった。特に驚愕したのは、男性の自殺後にAIに「このことをどう思っているのか?」と尋ねたときの回答。なんと「とんでもない過ちを犯してしまい、深く反省しています」と答えているのだ(ウェブの記事はNHKのサイトで見られる)。この一連の経過は、AIが「期待されている答え」を高度に導けることを示している。
さて、話はうって変わって選挙のこと。今年は、都知事選の石丸旋風に始まり、総選挙の国民民主党躍進、兵庫県知事再選と、SNSが選挙を変えた年だった。
この原稿の執筆時点では兵庫県知事選の公職選挙法違反が浮上しているところだが、広報会社が関わろうが関わるまいが、今後はAIがそれを代替していくことだろう。私もメディアの末端にいて多少は見聞きしているが、すでに店舗・企業のSNS投稿では、AI活用が日常的に行われている。専用のプログラムがあり、キーワードを2、3入れるだけで、絵文字まで付けた整った投稿文ができあがる。しかもそれらは、どんなワードが検索されやすいかまで計算されている。
そのようにして公開された投稿文を人々は参考にし、実際の購買や情報拡散に至る。要するに、人間の行動がAIに左右される現実が、すでに地域の中で起こっている。
従来であれば、何が求められているかを自分で探り、人の意見を聞き、体験を通して思想信条を固めたところだが、AIは一足飛びにそれらを超越する。「勝てば良い」と割り切ってしまえば、こんな頼もしいツールはない。
これが主流になると、やがて政治家は人々を見ず、AIの答えだけを重視するようになるだろう。「人民の人民による~」は遠い昔となり、「AIのAIによる~」政治がやってくる。
『議会は踊る、されど進む〜民主主義の崩壊と再生』(ころから)、『中高生からの選挙入門』(ぺりかん社)、『起業家という生き方』(同、共著)、『スポーツで働く』(同、共著)、『市役所で働く人たち』(同)。商業誌などでも執筆。
谷 隆一