木上益治さん原作 「小さなジャムとゴブリンのオップ」
35年前に生まれた作品をついにアニメ化――西東京市にあるアニメ制作会社「エクラアニマル」がこのほど17分のアニメーション「小さなジャムとゴブリンのオップ」を完成した。
原作は、京都アニメーション放火殺人事件で被害に遭った〝天才〟アニメーターの木上益治(よしじ)さん。
同社の豊永ひとみ代表は「メッセージ性があり、今のSDGsの思想にも合致した作品」と話す。
子ども向けだが、深いメッセージがある
同作は、魔法使い見習いのジャムが、ひねくれ者の友人・オップと関わりながら、成長していく物語。
アニメ化に携わった同社のアニメーター・本多敏行さんは「毎回ユニークなキャラクターが登場し、子ども向けの作品ながら、哲学的な深いメッセージを感じさせる作品」と話す。
豊永代表も「35年前の作品だけど、自分とは異なる存在も受け入れ仲良くしていこうという現代のSDGsの思想を先取りしている」と説明する。
宮崎駿さんのように一枚看板でやれる人だった
ストーリーを作ったのは、当時同社の社員だった木上さん。
スタジオジブリなどから声が掛かる卓抜したアニメーターで、後に京都アニメーションに移り、その発展を導いた。2019年7月の京都アニメーション放火殺人事件に巻き込まれ、61歳で亡くなっている。
木上さんを新人の頃から知る本多さんは「絵もうまく、ストーリーも作れるという稀有な存在。本当なら宮崎駿さんのように一枚看板でどんとやれる人なのだけど、表に出たがらなかった」とその才能をたたえる。
絵コンテがもう1作分あり、アニメ化を目指したい
木上さんによるプロットは8話あり、1話目は1989年に同社の自費出版で絵本化されている。「アニメ化のための宣伝用」(本多さん)という位置づけで1000部を刷ったが、ちょうど若者向けアニメが流行し出した頃で、テレビ局からは「話は良いのだけど、今はあまりはやりじゃないから……」とアニメ化は実現しなかった。
しかし、「子どもの心に染みるものを作るのがアニメの本道」と作品の力を信じてきた同社は、名刺にジャムのキャラクターの絵を用いるなど同作を大事にし続け、今回、中国のIT企業の支援を受けて念願のアニメ化にこぎつけた。
その制作は、ベテランアニメーターを呼び寄せたほか、人気声優の松本梨香さん(『ポケットモンスター』サトシ役など)や山口勝平さん(『名探偵コナン』怪盗キッド役など)らを起用するといった力のこもったものだった。
現在は中国でのオンライン公開のみで、日本での上映は予定が立っていないが、すでに同社には「キャラクターがかわいい」といった声が届いているという。
「木上さんの絵コンテはもう1話分あり、それはすぐにでもアニメ化できる。まずは1作目を多くの人に見てほしいです」と豊永代表は上映への準備を進めている。
【取材余話】
この件に関してはテレビ・新聞などマスメディアでも多数報道されていて、基本的にどれも「京アニ事件で亡くなった木上さんが遺した作品……」という視点で紹介している。どうしても報道はそうならざるを得ず、本紙も上記の通りにまとめたが、本当はこのトピックのポイントは、35年間大事にしてきた作品をようやくアニメ化できた、というところにあるのだと思う。「子どものための良い作品をアニメ化したい」という同社の一途な思い。京アニの事件がなかったとしても同社はこれをアニメ化したはずで、そうしたエクラアニマルの姿勢や思いがバイアスなく伝わるといいな。(谷)
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