【話題の現場】学校給食と市民自治

2024年3月6日

北多摩各市の無償化問題

来年度予算案が審議されるこの時期、今年は特に学校給食の無償化問題が関心を呼んでいる。

この地域・北多摩5市の来年度の状況を整理しておこう。

▼西東京市=完全無償化

▼小平市=第3子以降の給食費無償化(2025年度まで全員に増額分全額補助、26年度は半額補助)

▼清瀬市=予定なし

▼東久留米市=無償化は予定なし。中学校では、現行の弁当併用型スクールランチ方式でスープ類提供を試行

▼東村山市=無償化は予定なし。中学校では26年度から食缶方式による全員給食に移行予定

こう見ると、西東京市の給食費無償化の決断の大きさが分かる。

「最終的な決め手は署名が大きかったのではないかと思っています。市民の思いが大きな声になって伝わったということを、市長と話していて感じました」

「学校給食費無償化を求める西東京市民の会」代表の松澤晃子さんは、市長と面談したときの印象をそう振り返る。

同市では先駆けて市議会が無償化を求める決議をしており、そうした経過を見ると、確かに市民自治の可能性を感じさせる決定ではあった。

総計7115筆の署名を池澤市長に手渡す「学校給食費無償化を求める西東京市民の会」の松澤代表(右から2人目)=2月23日、西東京市役所で 写真提供:同会

真逆の趣旨の発言

だが、明るくそう言い切るには若干の戸惑いが生じる。給食費無償化問題に注目すると、「自治」の在りようを考えないわけにいかない。端的に言って、無償化に踏み切る自治体とそうでない自治体とで、市長の発言内容は真逆だ。

「子どもの成長に欠かせない『食』の確保をしっかりやっていくのが基礎自治体の役割。責任を持って考えるべき課題」と話したのは西東京市の池澤隆史市長。学校給食の実施主体者である以上、正論といえる。

一方で、清瀬市の澁谷桂司市長は「居住地によって教育環境に格差が生じるのは良くない。最終的には国の責任で無償化にすべきという考えだ」と基礎自治体の担うべき課題ではないとの見解を示す。

各市が戸惑っているのは、言うまでもなくその歳出額の大きさにある。西東京市で見れば年約8億円であり、これは一般会計の1%に当たる。仮に都の補助がなくなり、次年度以降も継続すれば、その分予算を硬直化させることになる。

多摩格差どころか地域内格差まで…

人口減少社会で自治体による〝住民獲得競争〟が始まっているなか、子育て世帯への支援に地域差が生じるのは、財政的に苦しい自治体にとっては死活問題だ。
東久留米市の富田竜馬市長は切実にこう訴える。

「報道によると、24年度の都から多摩・島しょへの交付金は2633億円。これに対し、23区への都区財政調整交付金は1兆2160億円。単純に比較できるものではないが、22区が無償化したからといって、同じことを求められても厳しい。多摩地域内でも余裕のあるところから無償化をスタートし始めていて、財政状況の厳しい市には追いつくのは困難だ」

俗にいう多摩格差どころか、多摩地域内での格差まで生まれているとの指摘だ。

ちなみに、同市の中学校では現在、弁当持参かスクールランチ購入かを選択できる方式となっているが、以前からスクールランチでの温かいメニューが求められていたことから、市は25年度2学期からのスープ類の提供を目指して、今年中にプレテストを実施する。これなどは苦しい財政状況の中での次善の策に見えるが、運動を続ける市民からは「目指す方向が違う。誰もが平等に食べることのできる全員給食を実現してほしい」などの声が上がる。

負のループ

市長が懸念するように、他市の無償化が進めば進むほど、追随できない市は「子育てしにくい」の烙印が押され、ことによっては人口流出につながる。高齢化による民生費増大や公共施設の再編成など課題がめじろ押しのなか、この負のループを止めるのは容易ではない。
なお、こうした地域間格差は子どもへの医療費助成でも生じている。

子どもの平等や健康は誰が担保すべきなのか。答えは明らかにも思えるが……。

西東京市 学校給食費無償化

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