【シリーズ・防災を本気で考える】第2回 能登の実情に学ぶ

2024年4月3日

防災のスペシャリスト・小野修平さんが報告 西東京市・地域協力ネットワーク4団体主催で

先月23日、1月中旬から能登半島地震被災地に入って支援活動を続けている「ジョージ防災研究所」の小野修平さんによる緊急レポートの会が西東京市で開かれた。防災のプロによる指摘は、教訓に満ちている。以下に講演内容の主なポイントを紹介する。

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東日本より厳しい…の声も

緊急レポートの会は、同市を4つの圏域に分けてコミュニティを構築しようと取り組む地域協力ネットワークの4団体合同の企画で開かれた。

講師を務めた小野さんは2016年から同市を拠点に防災のコンサルティングなどをしており、これまでに熊本地震や西日本豪雨で現地での支援活動を経験してきている。

能登半島地震では、1月中旬に現地入り。被害の大きかった珠洲市などを訪ねた後、人手の足りていなかった輪島市の旧門前町と呼ばれる地域に活動拠点を置いた。現地にツテはなく単独で飛び込んだ。

行政任せの破綻

人口約4500人の旧門前町は、高齢化率が65%という地域。そのうち約600人が避難所で暮らす。避難所は11カ所あり、10カ所は住民による自主運営。この10カ所と残り1カ所との差異は顕著だという。

「もう1カ所は職員がトイレ掃除や物資手配などをしているのですが、マンパワー不足でほぼ機能破綻しています。住民運営の10カ所は顔の見える感じが強いです」と小野さんは指摘する。

ただ、同時に「(人口規模や日頃のコミュニティを考えると)同じような自主運営は西東京市などでは難しいかもしれません」とも話す。

緊急レポートの様子。現地の生々しい被害状況の写真も紹介された

遅れる復旧

被害状況が示唆するものも多い。まずは建物。写真を見せながら、小野さんは「耐震性が重要なのは一目瞭然。倒壊家屋は明らかに古い建物が多い」と強調した。

また、約240棟が焼失した朝市通りの火災に触れ、「広がってしまったら手の施しようがない。起こさないこと、初期消火が重要」とも話す。

そのような指摘のなかで、特にこの地震で深刻なものとして紹介されたのは上下水道管の被害。発災3週間後でも復旧の見通しがなく、「まだ発災から3日目か?」という感覚があったという。

交通路が限られる地形も影響し、復旧の見通しがつかない一方で、現地ではすでに、他自治体からの支援者などの撤退が始まっている。そうした状況の中で「これでは何年かかっても終わらない……」と弱音を吐く人も増えている。小野さんは「東日本大震災のときよりも状況は厳しいという声が出てきた。市の職員たちを見ていても、『この人にもう仕事をさせてはいけないのではないか』と心配になるほど疲弊しきっている」と報告した。

正月の被災の教訓

まとめとして小野さんは、地元に向けて、幾つかの提言をした。

まずは、この地域からできる支援について考えてほしい、ということ。

次に、「脱出型の避難が求められているのかもしれない」という新しい視点を示した。一人ひとりの地域への思いや復旧に向けた貢献は重要ではあるが、人口規模から現実的に考えると、集中を避けることが有効だ。その観点から、「距離の離れた自治体と協定を結ぶなどし、いざというときに住民が移動できる仕組みも探るべきだと思う」と提案する。

最後に、小野さんが強調したことがあった。能登半島地震は元日の発災で、それがより人々にショックを与えたが、半面、正月を過ごすための食料や燃料が豊富に備わっていたという面もあった。

「『災害発生に備えて』と意気込むと次第に危機意識も薄れて、おろそかになってしまう。でも、正月など毎年巡ることなら、当たり前のこととして準備をする。つまりは、防災を生活の一部にしていくことが重要なのだと思います」

「ジョージ防災研究所」を主宰する小野修平さん。前日に帰京したばかりだったが、この日の夕方には、再び被災地へと発った

[この町この人]小野修平さん

ジョージ防災研究所

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