ビートルズって、何?【18】《何度聴いても凄い!やっぱり名盤"Rubber Soul"》

2024年3月21日

西東京ビートルズ倶楽部(NBC)代表 田中敏久

 好評頂いている【ビートルズって、何?】では、自分たちの音楽活動や社会の動きをどう思っていたのか、ビートルズや彼らを取り巻く人々とのdynamics(関係性/集団力学)に注目しながらたどっています。
 前回【17】では、2度目のアメリカやヨーロッパでのツアーの後、ビートルズの作品作りの転機となったアルバム"Rubber Soul"に取り組んでいた頃、その前半を見てきました。
 今回【18】でも引き続き、"Rubber Soul"に取り組んでいた頃、<ビートルズらしい>新しい音作りに取り組み始めた頃を見ていきます。
 たくさんの皆さんの感想やご意見、どうぞよろしくお願いします。

 

 

 

 

 

ビートルズが芸術家となった?!<分身としてのアルバム>"Rubber Soul" のレコーデイング/その2 <1965.10.13~11.11>

<Drive My Car>(<ビートルズらしい>ハーモニーの黒っぽい音作り)

 アルバムのトップを飾るこの曲は、主に作曲したポールの話では、当時人気があった黒人のソウルシンガー、オーティス レディングが2ヶ月程前に発表した’Respect’という曲にヒントを得ているようです。
 原曲を聴いてみると、ジョージがポールに指定されて弾いているギターのフレーズは確かにこの曲のベースのフレーズとよく似ていますし、そもそも曲のテンポ自体もほとんど同じです。また、ポールが後からオーバーダビングしたピアノのフレーズにも原曲のブラスの影響が感じられると思います。
 しかしそれでも、この曲は紛れもない<ビートルズの音=ビートルズサウンド>になっていると思います。何よりも、ポールとジョン、ジョージの変則的なハーモニーです。それぞれのメロディーが、バックの楽器が作っている和音に対してとても不思議な、普通では考えられない音程になっているのです。
 前述のオーティス等の黒人音楽のハーモニーとも違っていて、それでいて力強い、まさに<ビートルズらしい>ハードなゴリゴリした感触の<ロックハーモニー>とも言うべきサウンドになっているのです。勿論、この曲をアルバムのトップにも持ってきたことからしても、ビートルズ自身が自信をもって、当時の<自分達の音>として打ち出したことは間違いないでしょう。
 音の選び方は違いますが、ある意味でデビュー曲の'Love Me Do’で聴かせてくれたような既存の音楽とはひと味違った<ビートルズらしさ>と言えるかもしれません。

 このように、1曲目を<ビートルズらしい>ハーモニーで彩られた黒っぽいサウンドの'Drive My Car’で始め、2曲目には、前回お話した新しい楽器シタールを取り入れ、アイリッシュの匂いもさせながらメロディーや和音等極めて特徴的な曲作りがされた'Norwegian Wood’。
 因みにこの曲のポールのベースは、前後の2曲や4曲目の'Nowhere Man’とは対照的に、(少ないコードに合わせて)極端に音数が少ない、ほとんどがいわゆるルート(和音の根音)の音だけのフレーズでこの曲の12/8拍子のリズム感を表現しています。音数が少なくても決して弾きやすくはないベースらしい音作りをしているのです。
 この頃からポールがレコーディングで使い始めた新しいベース<1964 Rickenbacker 4001s>のクッキリしたしまりのある重い音色を活かした演奏ですが、このようなベースの音数の少なさの点でも、この曲は特徴的と言えるでしょう。この点からしても、この頃のポールのベースの音はかなり<黒っぽい(黒人的ニュアンスが強い)>音作りがされていたと言えるでしょう。
 ※但し、このRickenbackerベースはビートルズのライブステージでは使われてはいません。
 3曲目には、今度はジェームズ ジェマーソン※風のベースとファルセットのハーモニーが特徴的な'You Won't See Me’です。
※ジェマーソンは、当時ビートルズが注目していたマービン ゲイ等のアメリカの都会的な黒人向けレーベル<モータウンレコード>を代表するベーシストです。
 'Drive My Car’が、影響を受けたオーティスやMG's等のサザンソウル的な、どちらかと言うと汗臭いアーシーな黒っぽさが匂ってくる曲だとすれば、この'You Won't See Me’からは都会的なおしゃれな黒っぽさが感じられるのではないでしょうか?
 ”Rubber Soul”というアルバムのタイトルは、ブルースやR&B等の黒人音楽を目標としていたR ストーンズの音楽のことを、黒人ミュージシャンが<Plastic Soul>(まがい物のソウル)だと揶揄していたことを意識したものだという話もあります。もしかすると、ビートルズはこのアルバムのサウンドを、「これがオレたちのソウルミュージックだぜ」と思っていたのかもしれませんね。
 <一つのスタイルのみに縛られない>という意味からしても<ビートルズらしいサウンド>だということは間違いないでしょうが。

<Nowhere Man>(ビートルズサウンド満載!~歌詞・ハーモニー・ギター・ベース

 そして4曲目の'Nowhere Man’は、歌詞でもヴォーカルのハーモニーでもギターやベースのサウンドでも、どこを見ても<ビートルズらしさ>満載の名曲です。
 実は、非常に珍しいことなのですが、この曲の詩はレコーディングの途中でも手を加えられることはありませんでした。ジョンが語る、そんな名曲ができるときの話はこうです。
「ある朝、5時間もかけて、凄く意味がある申し分のない詩を書こうとしたんだけど、結局うまくできずに、諦めて寝転がってしまったんだ。そうしたら、歌詞も曲も全部がいっぺんに心に浮かんできて'Nowhere Man’ができたんだ。」
 ポールもこの曲を作った頃のジョンのことを「あの時期の彼は、自分の生き方そのもの、つまり、自分がこれからどこへ向かうのかを探していたんだと思う」と言います。
 サウンド的にも、ジョン・ポール・ジョージの3人の力強いロックハーモニーでの合唱がずっと続いていく中にいろいろな楽器が入ってきて、次第に膨らんでいくビートルズサウンドの波に、聴いている内にぐいぐい引き込まれて行きます。
 そして、それまでにないような硬質で響きに特徴がある煌びやかなギターの音で広がる間奏。
 これは、ジョンとジョージが少し前に手に入れた<Fender Stratocaster>を使って二人で一緒にユニゾンで弾いてますが、かなりしっかり弾かないとズレてしまいそうです。
 このギターを手に入れた1965年はじめの頃のことをジョージは次の様に言っています。
「イギリスに次々とやって来るアメリカのバンドが皆、『あのギターの音はどうやって出してるの?』って聞くんだ。僕は聞けば聞くほど、自分が出していたGretschのギターとVoxのアンプの組み合わせの音が嫌になっていた。・・・とにかく、ぼくはStratocasterを手に入れたかった。」
 やはりこのギターの音色も<新しい音>を求めていたビートルズの姿を現していたんですね。

<Michelle>(ベースがメロディ楽器に!これぞビートルズサウンド)

 このアルバム作りで、1ヶ月位の間に10曲以上の新曲が必要になったジョンとポール。ジョンは昔ポールが女性向け(ナンパのため?)に作っていたフランス語の詩の曲が良かったことを想い出して「最後までやってみろ」と提案。途中までできた所で「この後をどうしようか?」とジョンに相談しに来たポールに、丁度聴いていたニーナ シモンの曲をヒントにして♬I Love You~♬と繰り返すBメロ(ミドルエイト)を考えて提案して曲が完成した。
 どうも、二人の話を総合すると、この曲ができるまでにこのようないきさつがあったことは間違いなさそうです。
 ジョン曰く「つまり僕はポールの歌にいつもちょっとブルージーなエッジ(輪郭)を付け加えたのさ。それがなけりゃ、'Michelle’はただのバラードになっていたよね?」
 この点については、「最初は♬I Love You~♬の部分はなくて、コーラスだったんだ。この点はジョンにポイントを上げないとね。」とポールも認めています。
 (そう言えば、'And I Love Her’でも同じような話がありましたね。)
 因みにこの曲のフランス語の歌詞のアイデアは、二人の古くからの共通の友人で二人の出会いのきっかけを作ったアイヴァン ボーンの奥さんがフランス語の先生で、彼女と一緒に考えたとポールは言っています。
 ところでこの曲では、イントロや中間部分等で、普通のロックンロールバンドのベースが弾くような和音の低音部分の音では決してない、非常によく考えられた<低音部のメロディー>になっているベースの音が聴かれます。
 実はこのベースの部分は、他の楽器や歌の録音が終わった後に、ポールが一人でスタジオに残ってエンジニアと一緒にオーバーダビングしたものでした。
「オープニングの下降するコードに合わせて6つの音を弾く部分は、人生の忘れられない瞬間って感じだった。ビゼーの曲みたいなベースを入れたことで曲の雰囲気がガラッと変わったんだ。ベースであんなことができるなんて、凄いと思った。」とはポールの言葉。
 こんなことからも<”Rubber soul”で既に始まっていた新しい音作り>が伺えますね。
 勿論、この曲で聴かれるコーラスハーモニーの美しさもビートルズらしい音ですよね!

形ばかりの、そして最後のイギリス(含,リバプール)ツアー <1965.12.3~12>

 さてこの<野心的な>アルバム”Rubber Soul”の発売日は、リバプールのエンパイアシアターでの2回公演を含んだ、最後のイギリス国内でのツアーの初日でもありました。
 (リバプールでは、2550しか席がないのに、4万人以上の申し込みがありました。)
 前にもお話ししましたが、ビートルズの面々にブライアンは2度目の<ロイヤルバラエティパフォーマンス>や3度目のクリスマスショーを提案していたのですが、全て拒否され続けていました。
 そんな中で最後の国内ツアーだけは何とか受け入れてもらった、という感じだったようですが、その中身も、10日間で8都市・9会場のみ(ロンドンで2会場)、1会場では2回公演のみ、という本当に形ばかりのツアーだったのです。
 曲目も全て同じ11曲で、初めての公式両A面のシングルで結局大ヒットした'Day Tripper’と'We Can Work It Out’の2曲やポールが一人でオルガンを弾く'Yesterday’等で、発売されたばかりの”Rubber soul”からは'Nowhere Man’と'If I Needed Someone’の2曲しか演奏されませんでした。
 このことからしても、ツアーの目的がレコードの売り上げと結びつけられていた頃とはすっかり変わっていたことが分かります。どうやらビートルズの面々は、この頃には既に、ステージでのライブにはすっかり興味を失っていたと思われます。この時のツアー直前のリハーサルも、ローディのニールやマルの家で簡単に済ませたりしていました。
 このように、ライブコンサートを終わりにすることが最終的に決まったのは翌年の夏頃と思われますが、この年末のツアーを終える頃には、既にその気持ちは固まっていたのだと思われます。
 むしろ、前回お話したような新しい技術を手に入れて思うように音作りができるようになってきていた<スタジオでのレコーディング>で<自分達の思う存分の新しい音作りをすること>こそが、この頃のビートルズにとっての最大の関心事になっていたと言えるでしょう。

マーチンの独立、ビートルズのレコーディング環境の変化、そして・・・ <1965年夏~>

 実はこの”Rubber Soul”をレコーディングしていた頃、既にマーチンはEMI(パーロフォン)を退社して、他の3人のプロデューサーと一緒に新しく”AIR(アソシエイテッド インデペンデント レコーディングス)”という会社を設立して、独立したプロデューサーとして活動していたのでした。
 そして、マーチン達がプロデュースしていたビートルズを始めとする10組程のアーティストは、勿論この新しいAIRの面々が自分達のプロデュースをしてくれることを望んだのでした。これは、EMIにとっては、大きな痛手だったことでしょう。
 (ビートルズを担当してから独立するまでの間、マーチンは、自分がビートルズと一緒にやっているプロデューサーとしての仕事に対するEMI社の評価・待遇が改善されないことに対して、何度も改善を申し込んでいたのですが、受け入れてもらえなかったのです。)
 こうしてマーチンはそれ以降も、レコード会社の意向等に縛られない立場で、自由にビートルズと一緒に<新しい音作り>に取り組むことができるようになったという訳です。
 さらにこのことと関連して、EMI社のレコーディングスタジオとして、ビートルズがデビューの頃から使ってきた<アビーロードスタジオ>(当時はまだ、EMIレコーディングスタジオでしたが)で、レコーディングの時の音作りに直接的に関わるスタジオのエンジニアにも変化がありました。
 最初の'Love Me Do’の時から、エンジニアとして(マーチンの不在時にはプロデューサーとしても)録音機器を操作して、マーチンと一緒に音作りに深く関与してきたノーマン スミスが、マーチン達が退社したことでプロデューサーに昇格して、スタジオでのエンジニアの仕事をしなくなったのです。 (ノーマンはこの後、有名なプログレ ロック バンド<ピンク フロイド>をプロデュースしたり、自分で作った曲を唄ったシングルをアメリカでNo1ヒットにしたりしました。)
 ノーマンに代わってEMIスタジオの音作りを担うエンジニアとなったのが、後に”Revolver”や”Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band”等のアルバムでバランスエンジニアとしてビートルズのサウンド作りに大きく貢献するようになるジェフ エメリックです。ビートルズと一緒に<新しい音作り>に挑戦できることを楽しみにしていたエメリックの存在がこの後のビートルズのレコーディングにも大きく影響を及ぼしていきます。
 そして実は、スタジオを離れていったノーマンは、「一体どこまでこの気まずい状態が続くんだろうと思った」等と、この頃のビートルズの間に吹き始めていた冷たい空気も感じていたのです。

【NBC イベント情報】

★お待たせしました!! 半年ぶりの<ビートルズ倶楽部バンド>のライブです!
 西東京ビートルズ倶楽部史上最多の、多彩なメンバーでお送りする名曲の数々♬
 新しいお店のステージでの賑やかパフォーマンス。ごゆっくりお楽しみください!!
   
★2024年 4月13日(土)18時~20時  at<弾き語りCafe ひこうき雲>
 西武池袋線 東久留米駅北口1分(東久留米市東本町5-1) ☎080-1070-1246

☆お一人ワンドリンクチャージ¥1,000 ※追加ドリンク¥500 軽食あり

※お申込は下記NBCまで
♪まだ余裕はありますが、念のため早めにお申し込み下さい。
♬お名前・ご連絡先・ご住所(できれば)をお願いします

☆新しいメンバーを迎えて、多彩なアレンジで、
 賑やかにビートルズナンバーを演ります。
♫広々した店内でゆったりと、皆さん一緒に
 ビートルズを聴いて唄いましょう!

 

**********

 皆さんもビートルズの曲を唄ったり演奏したりしながら<ビートルズサウンドの秘密>を一緒に考えませんか?
 西東京ビートルズ倶楽部(NBC)では、今までもビートルズ好きの皆さんがリアルで集まって ビートルズのCDを聴いて語り合ったりビートルズの曲をライブで聴いたりするイベント等を行ってきました。今「ビートルズのこの曲なら弾ける」とか「演奏してみたい・唄いたい」という皆さんと一緒に<ビートルズサウンドの秘密>を考える<ビートルズ倶楽部バンド>のメンバーを新たに募集します。熱い思いで一緒にプレイして、語り合いましょう!
 NBCでは、このサイトの内容やビートルズについてのご意見・感想等、お待ちしています。
 特に<私の1曲>として、<ビートルズの楽曲の中でどの曲が好きか、好きな理由やその曲にまつわる皆さん自身のエピソード等々>は大歓迎です。
 皆さんの熱い・厚い想いを、メールでご連絡下さい。お待ちしています! 
 ※イベントの申込やNBCへの意見・感想等のメールも、下記までお願いします!

西東京ビートルズ倶楽部(NBC)

アドレス: nbc4beatles@outlook.jp 

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2024/10/9

ビートルズって、何?【1】《互いに「ぶったまげた⁉」二人の天才、ジョンとポールの出会い》

                 西東京ビートルズ倶楽部(NBC)代表 田中敏久 「なぜ、ビートルズは今でも新鮮な気持ちで聴けるのか?」こんなことを思った方は多いのではないでしょうか? ザ・ビートルズのレコードデビューは60年以上前の1962年10月ですが、先日放送されたTV番組でも、iPhoneを創ったスティーブ・ジョブスの「私のビジネスのモデルはビートルズ」という言葉が紹介されていました。関連の新刊書籍の発行やCDの再発は今でも続いています。 ビートルズを愛する市民が集まる「西東京ビートルズ倶楽部」で ...

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