ビートルズって、何? 【10】《ビートルズ台風、遂にアメリカ大陸に上陸!》

2023年11月14日

西東京ビートルズ倶楽部(NBC)代表 田中敏久

 好評頂いている【ビートルズって、何?】では、自分たちの音楽活動や社会の動きをどう思っていたのか、ビートルズや彼らを取り巻く人々とのdynamics(関係性/集団力学)に注目しながらたどっています。
 前回の【9】では、怒濤の1963年後半。快進撃を続けるビートルズの周りで、世の中の状況が変わって困ったことも起き始めますが、イギリス国内では比類ない人気を獲得していた頃でした。
 そして今回、それまで誰にもできなかったあの国でも遂に人気が爆発し・・・!
たくさんの皆さんの感想やご意見、どうぞよろしくお願いします。

 

 

 

 

 

セカンドアルバム”With THe Beatles”発売 《1963年11月22日》

 少し時計を巻き戻して、この年の夏から秋にかけて、ビートルズはイギリス各地の演奏旅行やラジオ・TV番組収録等の合間に時間を見つけて2枚目のアルバム"With The Beatles”の録音に取り組んでいました。録音だけでも7月18日~10月23日の3ヶ月以上かかり、ミックス作業終了は10月30日、発売は11月22日でしたが、既に30万枚という脅威的な予約注文がありました。
 このアルバムについては、傑作と言われるジャケット写真のお話もしておきたいと思います。
 このジャケットの<ハーフシャドウ>とも言われる特徴的な写真の撮り方は、ビートルズのハンブルグ時代の重要な友人で写真家だったアストリット キルヒヘル(ジョンの親友でビートルズの初代ベーシストだったスチュ サトクリフの婚約者)の作品の手法を明らかに受け継いでいると思います。彼女がスチュと自分を撮ったセルフポートレイト等でよく分かると思います。
 またこのジャケットの写真は、当時ジョンの友人で彼のフラットの1階下に住んでいたロバート フリーマンというカメラマンが撮ったのですが、彼はビートルズの面々との相性もよく、後にアメリカツアーの際の公式写真家となりました。
さて、このアルバムで耳を引くのは、どの曲でもジョン・ポール・ジョージ、そしてリンゴの歌声や演奏技術の安定した力強さやビートルズらしいアレンジが聴かれることではないでしょうか?
 ジャケット写真でも見せた<ビートルズらしさ>(笑わないアイドル?)は、アルバムの音楽的内容にも十分に現れていて、アマチュア時代にため込んだエネルギーを爆発させたような”Please Please Me”の荒削りなパワーとはまた別物の、この頃のビートルズの魅力と実力を十二分に発揮したアルバムと言えそうです。
 (このことは、このアルバムと平行して録音された5枚目のシングル”I Want To Hold Your Hand”が、イギリスで11月25日に発売されて150万枚を売り上げ、翌年の1月には、アメリカでもNo1ヒットなったことにもよく現れていると思います。詳しくは後で・・・。)
 この録音で最初に録音されたのが”You Really Got A Hold On Me”等のアメリカの黒人音楽等のカバー曲だったことにも表れていると思いますが、ビートルズの面々は、まず客観的に聴くことができる他人の曲をアレンジしながら、自分達が表現したいサウンドがどういう音なのかを確かめながらレコーデイングしていったのではないかと思います。
 前作の”Twist & Shout”で聴かれたようなジョンの振れ幅の大きいヴォーカルがパワフルに炸裂する”Money(That's What I Want)”は、言わば前作からの<R&Rバンドとしてのビートルズ>の一面をそのまま引き継いでいると言っていいと思います。
 しかし、この2枚目で聴かれる<ビートルズらしさ>は、前作よりも先に進んでいるビートルズの別の面、<ビートルズのオリジナリティの発露>に表れていると思うのです。(それが更に発揮されるのが、次作の”A Hard Day's Night”だと思いますが。)
 例えば、ジョージが唄っている”Devil In Her Heart”は、確かにギターのフレーズが印象的な原曲をギタリストのジョージが気に入ったのかもしれませんが、イントロのリンゴの強烈なドラムから始まるビートルズのアレンジは、歌のバックでのギターの音も控えめです。どちらかと言えばパワフルハーモニーが活かされた、いかにもビートルズらしい仕上がリになっていて、ダブルトラックの効果もあってかジョージの歌声も、前作(そして原曲)よりもずっと力強く聞こえます。
 そして、ジョンが唄う”Please Mister Postman”は、パワー全開のジョンの歌声は勿論ですが、ポールとジョージのハーモニーも女声かと聞き惑う程美しくジョンの声に寄り添い、イントロのシャープなハイハットの入り方から始まってシンプルなようでいて細かく工夫されているリンゴのドラムの効果も相まって、最強のR&Rハーモニーの世界を創り出しています。
 他にも、ジョージが初の自作曲を唄う”Don't Bother Me”のバックでジョンが後の”I Feel Fine”を彷彿とさせるフレーズを弾いたり、2曲目の”All I've Got To Do”のイントロで普通は聴かれないような変則的なコードを弾いたり、ポールが”All My Loving”で素晴らしい歌声や曲作りだけでなくベース演奏家としても卓越した才能を示したり、リードギター担当のジョージの”Roll Over Beethoven”でのチャック ベリーばりのギターソロは勿論のこと、ポールの唄う”Till There Was You”でJazzっぽいコード進行に合わせてガットギターでジョージならではのフレーズを聴かせてくれたり・・・。ビートルズの音楽的成長が随所に表れ、曲順の緩急のバランスもよく考えられた、本当にビートルズらしさ満載のアルバムだと思います。

パリでの公演中に飛び込んできたビッグニュース! 《1964年1月15日~2月5日》

 さて、時計を進めて1964年の初め。ビートルズはこの時パリにいました。ブライアンのお膳立で、イギリスの航空会社とのタイアップのシルビー バルタン(フランスの国民的大スターの女性歌手)とトリ二 ロペス(アメリカの男性フォーク歌手)との共演という3週間の公演でした。
 恐らくはこの共演者が影響してか、イギリス国内での熱狂に比べるとあまり盛り上がらなかったと言われるパリ公演でしたが、初日の夜にビッグニュースがアメリカから飛び込んできました。
 発売されたばかりの”I Want To Hold Your Hand”が、全米ヒットチャートで前週の43位からいきなりランクアップして、No1を獲得したというのです。
この曲は、イギリスでは前年の11月29日に発売され、既に100万枚を超える予約注文があったので、発売日にして全英シングルチャートで第1位となり、以後5週連続で1位を獲得しました。
 アメリカでは12月26日に発売されると3日目には全米で25万枚売れ、年が明けた1月13日にはニューヨーク市だけで1時間に1万枚も売れるという勢いで爆発的に人気が急上昇したのです。実はアメリカでは(それまでに何とか売ってもらおうとブライアンが色々なレーベルに売り込んでいたので、)この時期には3つのレーベルが同時にビートルズのレコードを販売していました。
 ということで、1963年にビートルズがレコーデイングした3枚のシングルと2枚のアルバムの全てが、いきなりこの時期にアメリカのヒットチャートを爆走し急上昇することになったのでした。
 このアメリカでの”I Want To Hold Your Hand”の大ヒットの影響は早速、パリで公演中だったビートルズの所にまで響いてきます。
 この時たまたまパリにいたニューヨークの劇場手配のエージェントは、本国からの指示を受け、ブライアンとビートルズに2月12日に手配したニューヨークのカーネギーホールと11日のワシントンDCでのコンサートの出演契約の話を持ち込んできたのです。
 願ってもないカーネギーホールでの公演、それも(後述の)人気TV番組『エド サリバン ショー』に2月9日に出た直後という絶好のタイミングでの出演依頼でした。
 ビートルズって、本当に強運だったんですね!

問題はアメリカだった。・・・全く前例がなく。信じられないことだった。 《1964年2月》

 ビートルズの人気がアメリカで爆発した当時を振り返ってマーチンは言います。
 「問題はアメリカだった。世界一大きな市場であるということだけで、もう十分に問題なのだった。アメリカは常にエンターテインメント界の王者だった。レコード業界では、アメリカ人が主導権を握ることが世界的に認められているようだった。イギリスでは、明らかにアメリカから輸入されたレコードが市場を支配していたし、それは、誰にも敗れない固い掟だった。」
 「こうした伝統的な背景を覆す何かを考えることは、ほとんど不可能に見えた。シングル、アルバムとも、長期間にわたって世界的な成功を収めたイギリス人は一人もいなかった。」
 「ビートルズの成し遂げようとしていたことは、全く前例がなく、信じられないことだった。有名なアメリカのスターが列をなしてビートルズを見に押しかけるのを目の当たりにするのは、我々にとって異常な体験だったんだ。」
 「それからビートルズに関するクレージーな現象が次々に起こった。中年の紳士が何人もビートルズかつらをかぶって5番街を通り過ぎる。ビートルズが泊まるホテルの外にはビートルズがいる間ずっと若い人々が群がり、まるでお祭りか選挙の前の大騒ぎを見るようだった。ラジオを着ければ、ビートルズのレコードが聞こえてこないことなどなかった。信じられなかったよ!」

全米7,300万人が酔いしれた『エド サリヴァン ショー』のビートルズ 《1964年2月9日》

 そして、2月9日。5万5000通の応募の中から、ビートルズを目の当たりにできる幸運を勝ち取った782人の若者達に、司会のエド サリバンがビートルズを紹介しようとしますが会場は熱狂的な歓声に包まれ、サリバンが必死に押さえようとしてもなかなか収まりません。
 ビートルズは、前半後半の2回に分けて”All My Loving”、”She Loves You”、"I Want Hold Your Hand"等の5曲を演奏しました。
 この時の視聴率は当時の全米史上最高の72%。2,324万世帯、凡そ7,300万人がこの番組を見たと推定されています。
 彼らが番組に出演している時間中はニューヨークの青少年による犯罪発生率が過去最低を記録したとか、水道利用が番組放映中に激減しCMになって急増したという報告が届けられた等々。 この時の番組にまつわるいろいろな話があるようですが、何よりも、この後アメリカでビッグなロックスターとなっていく若者の多くが、この時TVでビートルズを見たことで「自分はロック・音楽をやっていく!」と心に決めたと言っていることも見逃せません。
 (因みに、現代最高のジャズ コンテンポラリー ギタリストとも言われるPat methenyは、当時10才くらいでしたが、TVでビートルズを見て「それまで兄と同じに吹いていたトランペットを止めて、ギターに持ち替えた」と語っているのを知り、びっくりしました。)
 翌週16日にはマイアミのドゥーヴィル・ホテルからの生放送で再び同番組に出演したビートルズは、3500人の観客を前に”From Me To You”や”This Boy”等計6曲を演奏。そして、翌週23日にも出演する等、このアメリカ滞在中に計3回『エド サリヴァン ショー』に出演しました。
 11日のワシントンDCのコロシアムの円形ステージは、ボクシングのリングのように会場の真ん中に設置されていて、観客は全方向の高い所からビートルズを見下ろしていました。
 ビートルズはコンサートの間に何度も向きを変えて全ての方向に向かって演奏しました。リンゴはその都度、マルと一緒になってドラムセットが乗った回転台の向きを変えていたのでした。
 (因みにこの頃は、ビートルズの面々も自分達の楽器やアンプを持ち運んで、スタッフと一緒にセッテイングしていたようです。)
 12日には、クラッシック音楽の殿堂と言われたカーネギーホールでのコンサート。6,000枚のチケットもあっという間に売り切れて、追加公演も設定されましたが、これも完売でした。
 この頃の公演ではイギリス同様にステージにゼリービーンズが投げ込まれていたのですが、アメリカのビーンズはイギリスのものよりずっと硬くて大変でした。ジョージは言っています。
 「彼らのは硬いゼリービーンズなんだ。悪いことに僕らは円形のステージにいたから、全方向から投げつけてきた。岩ほどにも硬い小さな弾の波が空から自分に向かって降ってくるなんて、考えてもみてくれよ。分かるだろう、ちょっと危険なんだ。しょっ中僕のギターの弦にそれが当たって、演奏しようとしている最中に変な音を鳴らすんだ。」

ブライアンの海外進出戦略。そして、いよいよあの映画の話が・・・ 《1964年3月》

 アメリカからの帰国後。ロンドンの新設オフィスでブライアンは、オーストリア・ニュージーランド・オランダ・デンマーク・香港・スエーデン等での海外ツアーの吟味を始めます。
 実は、この頃ブライアンの頭には、新しい計画の構想がいくつか生まれていました。
 イギリスでの国内ツアーは勿論、前年大成功だったクリスマスショーの計画もありました。その逆に、アメリカからの再度の訪問の依頼は断っていました。つまり、前年もイギリスである時期からTVやラジオ番組への露出を制限したように、アメリカでも露出し過ぎないようにして、フアンのニーズを煽るという手法をとろうとしていたのでした。
 そして実はこの頃、ブライアンには更に大きな挑戦とも言うべき、新しい構想があったのです。
 「昨年7月、私には映画の元となるアイデアがあった。ビートルズはこのアイデアにとても興奮し、驚いていた。そしてこの時期、ロンドンの音楽出版社にもビートルズをスクリーンに登場させるアイデアがあった。・・・9月には契約が成立し、プロジェクトが始まった。」とブライアン。
 ビートルズとブライアンの勧めもあって映画の脚本を担当することになった、リパブール出身で当時大人気の脚本家・シナリオライターだったアラン オーエンは、こう言います。
 「ビートルズと過ごして、彼らの生活が私の想像よりずっと幻想的だと分かった。ビートルズが役者でないことは分かっていたから、彼らには長い台詞を与えなかった。」
 「ジョンは可能性を秘めていると思った。脚本を初めて見せたとき、彼はただ読んだだけではなかった。彼はその場で演じてみせたんだ。驚くべき演技だった。」

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【NBC イベント情報】

《トーキング ビートルズ》セッション~CDをしっかり聴いて、deepに語り合おう!
#1*2023年11月25日(土)午後5時~7時(開場:午後4時30分)申込は下記NBCまで
   <音楽cafe/森のこみち>西東京市緑町3丁目4−7 ☎:042-468-9525
 ★TVでも紹介されたあの伝説?のコアフアンとミニミニライブも予定

#2*2024年2月4日(日)午後1時~3時 ※申込は直接会場へ(web申込あり)
<杉並区立井草区民センター>2階第1・2集会室 ☎:03-3301-7720
   杉並区下井草5丁目7−22  (西武新宿線井荻駅南徒歩7分)
 ★小学生から70代の第1次ビートルズショック世代まで、汲めども尽きぬ魅力でタイムレスに
  輝き続けるビートルズ。そのサウンドの秘密を語り尽くす<参加型トークセッション>
 ★【要事前エントリー】語りたい<私のビートルズの1曲>(曲名と話の概要)をご準備下さい。

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 皆さんもビートルズの曲を唄ったり演奏したりしながら<ビートルズサウンドの秘密>を一緒に考えませんか?
 西東京ビートルズ倶楽部(NBC)では、今までもビートルズ好きの皆さんがリアルで集まって ビートルズのCDを聴いて語り合ったりビートルズの曲をライブで聴いたりするイベント等を行ってきました。今「ビートルズのこの曲なら弾ける」とか「演奏してみたい・唄いたい」という皆さんと一緒に<ビートルズサウンドの秘密>を考える<ビートルズ倶楽部バンド>のメンバーを新たに募集します。熱い思いで一緒にプレイして、語り合いましょう!
 NBCでは、このサイトの内容やビートルズについてのご意見・感想等、お待ちしています。
 特に<私の1曲>として、<ビートルズの楽曲213曲の中でどの曲が好きか、好きな理由やその曲にまつわる皆さん自身のエピソード等々>は大歓迎です。
 皆さんの熱い・厚い想いを、メールでご連絡下さい。お待ちしています! 
 ※イベントの申込やNBCへの意見・感想等のメールも、下記までお願いします!

【 西東京ビートルズ倶楽部(NBC) 

アドレス: nbc4beatles@outlook.jp

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2024/8/12

ビートルズって、何? 【2】《たくさんの出会いと別れ・・・。ここからビートルズは始まった!》

西東京ビートルズ倶楽部(NBC)代表 田中敏久 このサイトでは皆さんと一緒に【ビートルズが残してくれたもの】について語り合い、自分たちの音楽活動や社会の動きをどう思っていたのか、ビートルズや彼らを取り巻く人々とのdynamics(関係性/集団力学)に注目して探ったり、今なお愛されている《ビートルズサウンドの秘密》を考えたりしたいと思っています。たくさんのご意見や感想、どうぞよろしくお願いします! 前回は、お互いの才能にびっくりした若き日の天才ジョンとポールの出会いをご紹介しました。  今回、二人がThe ...

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2024/10/9

ビートルズって、何?【1】《互いに「ぶったまげた⁉」二人の天才、ジョンとポールの出会い》

                 西東京ビートルズ倶楽部(NBC)代表 田中敏久 「なぜ、ビートルズは今でも新鮮な気持ちで聴けるのか?」こんなことを思った方は多いのではないでしょうか? ザ・ビートルズのレコードデビューは60年以上前の1962年10月ですが、先日放送されたTV番組でも、iPhoneを創ったスティーブ・ジョブスの「私のビジネスのモデルはビートルズ」という言葉が紹介されていました。関連の新刊書籍の発行やCDの再発は今でも続いています。 ビートルズを愛する市民が集まる「西東京ビートルズ倶楽部」で ...

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