ビートルズって、何? 【9】《止まらないのはビートルズだけじゃない?!》

2023年11月1日

西東京ビートルズ倶楽部(NBC)代表 田中敏久

 好評頂いている【ビートルズって、何?】では、自分たちの音楽活動や社会の動きをどう思っていたのか、ビートルズや彼らを取り巻く人々とのdynamics(関係性/集団力学)に注目しながらたどっています。
前回の【8】では、怒濤の1963年前半の、止まることを知らないビートルズの快進撃について見てきました。
 今回はその1963年の後半。快進撃を続けるビートルズの周りで、いつの間にか世の中の状況が変わってきてしまい困ったことも起き始めます。そして、遂にはあの「ジャラジャラ発言」も!

 たくさんの皆さんの感想やご意見、どうぞよろしくお願いします。

 

 

 

 

寒かった冬の年には、熱すぎる夏が待っていた! 《1963年7月~9月》

 この年の夏、ビートルズは以前からのラジオ番組の収録やアルバム"With The Beatles”の録音等も挟みながら、各地での演奏活動に励んでいました。
 特に海岸沿いのリゾート地での夏季公演は、12回公演で2万人を動員する等して大成功でしたが、この頃からフアンの盛り上がり方も激しさを増してきました。
 ビートルズをメインにしたBBCの「ポップ ゴー ザ ビートルズ」等のスタジオライブ番組がこの頃から始まりますが、逆に、ブライアンはこの頃から出演する番組を選ぶようになっていきます。
 また、ドキュメンタリー番組でビートルズやマージービートの実態や社会的な側面からも掘り下げようとする番組が制作されることもあり、ビートルズも意欲的に協力していました。
 当時非常に人気があった「レディ ステディ ゴー」というTV番組にも初めて出演しています。
 9月15日の「グレート ポップ プロム ショー」というロンドンのロイヤル アルバート ホールでの公演では、ローリング ストーンズ等11組のバンドが出演しましたが、ここでもビートルズはメインアクトで演奏しました。

嬉しいけど困る!驚喜・凶器?のビートルマニア誕生。《1963年10月13日》

 この年の10月。レコードデビューして丁度1年が過ぎた頃。ブライアンはビートルズの出演場所や方法について、苦肉の方針を徹底せざるをえなくなります。
 それは「ビートルズはその安全が確保できる会場にしか出演しない(させない)」ということです。これはラジオ番組の収録等でも同じで、BBC等の全国放送でも「観客を入れた収録番組には出演させない」と通告します。(最後の出演は10月16日収録の「イージービート」となりました。)
 さて、13日のロンドン、パラディアム劇場でのTV番組の生中継でのステージです。
 「スターの殿堂」と言われたこの番組にメインで出演することはビートルズにとっても特別なものだった筈ですが、ここでのファンの絶叫ぶりが、マスコミをして「ビートルマニア」という言葉を誕生させることになったのでした。
 この日、ビートルズの登場前からフアンは既に劇場の中や外で歓声を上げていたのですが、舞台が始まる前の数秒間、ビートルズが姿を見せた瞬間、会場に悲鳴が炸裂し、司会がなだめる始末。
 ビートルズが演奏の為に姿を現し、演奏が進んでポールが曲の紹介をしようとしたのですが、観客のあまりに凄い反応にたじろいでしまいました。続いて、ジョン、ポール、ジョージが3人でMCを話し始めようとしたのですが、これまた猛烈な叫び声で3人とも口を閉じてしまいます。
 このような観客の熱狂振りが翌日の新聞各社で大々的に報道され、ここで初めて「ビートルマニア」という言葉が生み出されたと言われています。

 ただ、こんないいこともありました。この後10月24日からは初の本格的海外ツアーのスエーデン公演が始まり、大好評を博して31日に帰国します。この時、ロンドンの空港で帰国するビートルズを雨の中で迎えたのが数百人のフアンの大歓声とそれを目の当たりにすることになった、アメリカのTV番組の有名司会者エド サリバンでした。
 サリバンは「どんな時にも才能ある人を探していたので、ビートルズは私達のTV番組の素晴らしい目玉になると判断しました。そこで、私達はブライアンアプスタインと連絡をとって、3回出演する合意をとったのです」と。こんな所にもビートルズの強運があったのですね。

ビートルズを支え続けたネル(ニール)とマル

 この頃、そんな脅威的な状況でのビートルズの演奏活動を丸抱えで支えていたのが、ロードマネージャーのニール アスピノールとマル エヴァンスの二人です。

 まず、この少し前からビートルズファミリーの仲間に入ったマル エヴァンスから紹介します。
マル(マルコム)エヴァンスは、元々は郵便局の電子技師でプレスリーのフアンだったのですが、たまたま入ったキャバーンクラブで耳にしたビートルズサウンドにすっかり惚れ込んでしまい、献身的なフアンになっていきます。
 最初にジョージと仲良くなったマルは、しばらくしてキャバーンの経営者に紹介されて、2m近い体格を見込まれて、実は優しい心の持ち主だったのですが、クラブの入り口で態度の悪いお客さんの対応にあたるドアマン等の仕事を臨時的に頼まれるようになります。
 そして、3ヶ月程経った後の1963年8月、マルは今度はブライアンからビートルズの2ndロードマネージャー兼パーソナルアシスタントとしての仕事の依頼を受け、正式に採用されます。
 (マルは後に”Gentle Giant”とか"Big Mal"とか呼ばれたように、心の優しさはビートルズの面々には伝わっていました。)
 簡単に言えば、それまでニールが一人でやっていた仕事を二人で分担するようになったのですが、初めはマルの仕事はどちらかと言うとロードマネージャーとして、ビートルズのツアーの際にメンバーを車や飛行機等で移動させたり、楽器を運んで会場にセッティングして音出しをしておいたりすることが中心だったようです。
 この頃の話として、この年の冬のツアーでマルが臨時の運転手をしていた時、小石が当たってバンのフロントカラスがヒビだらけになってしまい、マルがやむなくガラスに大きな穴を開けて運転を続け、ビートルズは後部座席でウイスキーを飲みながら横になってお互いに重なり合って暖め合いながら乗っていたのを、ポールが冗談で「ビートル サンドウィッチ」と等と言っています。
 マルも最初の頃は困ることもあったようで「何しろドラムセットや楽器のことなんか何も知りませんでした。最初の2日はニールが手伝ってくれましたが、自分でやらなければならなくなった日は大変でした。大きな舞台で、どこに何を置いたらいいのか分からないんです。他のバンドのドラマーに手伝ってもらったら、リンゴの好みには合わず全然役に立たなかったりして」等とも。

 それでも、「先に行って楽器の準備をする仕事は彼に合っていた」とはニール。「すごい人気でね。マルが着くとお客さんがキャアキャア言って声をかけるし、彼の方も話しかけたり冗談を言ったりするんだ。ビートルズが演奏を始めてお客が騒ぎ出しても、マルはお客さんともみ合ったりしないですむんだ。」ということで、マルはビートルズにとっては大切な存在になっていたのです。
 この後書くように、この頃のビートルズのツアーでは場合によって、興奮したビートルマニアがメンバーが身に付けている物を手当たり次第にもぎ取ろうとする等、ビートルズの身に危険が伴うことも多くあり、時にはメンバーの楽器が傷つけられたり盗まれたりすることもある等なかなか気の置けない仕事だったと思われます。
 マルはメンバーと一緒にレコーデイングスタジオにも入って、メンバーが必要とする楽器や食べ物等を準備する他に次第に演奏にも参加するようになり、多くのアルバムでその音を聴くことができます。例えば、”Abby Road”の”Maxwell’s Silver Hammer”では、重すぎてリンゴが上手く叩けなかった金床をマルが叩く姿が映像でも残っています。
 (後にジョンのソロアルバム”Plastic Ono band(ジョンの魂)”やジョージの”All Things Mast Pass”でも”Tea And Sympathy:Mal Evans”等と紹介されているように、ビートルズが解散した後でもマルとの友情・信頼関係は続いていったのでした。)

 ニール アスピノールはポールとジョージが通っていたリパブール インスティチュートに在籍し、二人とは顔見知りだったようですが、親しくなったのはビートルズがカスバコーヒークラブに出入りするようになった頃からでしたが、ジョンともすぐに打ち解けたようです。
 ニールはインスティチュートを優秀な成績で卒業した後、経理の研修生としてクラブの経営者モナ夫人の家に下宿していましたが、直ぐにビートルズの面々とも仲間意識で繋がるようになり、彼らからも子どもの頃からのニックネームのネルで呼ばれるようになりました。
 ニールはモナ夫人に頼まれて、まだピートがいた頃からビートルズをバンで送り迎えするようになりましたが、この頃には夫人との間に生まれた子の父親になっていました。
 ビートルズがハンブルがから帰ってクラブで帰国ライブをすることになったときには、ポスターを書いて迎えたり、バンドの成長にびっくりしたりしていました。
 ピートとも親しかったニールですが、ビートルズがリンゴをドラマーとして選んだ後も、ビートルズとの関係を続ける事を選び、やがてブライアンにロードマネージャーとして採用されます。
 この頃のことをニールは「5週間のツアーで体重が20キロも減りました。誰も信じてくれないけど本当です。5週間、それこそ寝食を忘れましたから。寝る暇も食事する暇もないんです」と。
 ニールはやがてビートルズの身の回りの世話を一手に引き受けるパーソナルアシスタントとしてなくてはならない存在になり、後にビートルズがアップルコープスを設立した際には専務取締役に任命され、その後も長くビートルズのビジネスを支える存在となっていきます。

前例のない、前代未聞の<ロイヤル バラエティ パフォーマンス>でのジョーク!!《1963年11月4日》

 初の本格的外国ツアーだったスエーデンツアーの後の11月1日から、ビートルズが最初からメインアクトとなる43日間のイギリス国内ツアーが始まり、33都市の34会場で68回のライブ、という大変なハードスケジュールの日々となりました。
 その忙しい中で、ビートルズ以前には前例がなかった、ポップミュージシャンとしては初めての<ロイヤル バラエティ パフォーマンス>にも出演しました。
 この日はエリザベス皇太后(エリザベス女王の母)、マーガレット王女、スノードン卿が臨席ということで、さすがにビートルマニアの出現はなかったようですが、ビートルズは19組中7番目の出演で、明らかに注目されていた出演者だったと思われます。
 ビートルズは、動画サイトにもある4曲を演奏し(CDとDVD”Anthology”に全曲収録)、最後の”Twist And Shout”の直前にはジョンの例の「宝石ジャラジャラ発言」があったのですが、この時のジョンの映像を見ると、発言の直後に「やったぜ!」的な雰囲気で舌を出す等していて、事前にブライアンに止められていた内容を少しだけ表現を和らげてそれでもやってしまった、というのが本当のように思えます。
 この時臨席されたエリザベス皇太后はこの演奏会でのビートルズについて、「それは私が拝見した中で最良の公演の一つでした。特にビートルズに最も興味をそそられました」と後に。
 エリザベス女王が若い頃からのビートルズフアンで音楽的な内容まで詳しかったという話も興味深いですが、後のジョンの「キリスト教発言」に対する反応等も含めて、この頃のイギリスの文化的寛容性や懐の深さには、さすがビートルズを産んだ国と思わせるものがあるようです。

止まることを知らない?ビートルズとビートルマニア。遂に金網に囲まれて演奏???《1963年12月》

 さてビートルズはこの後も、ビートルマニアの喧噪の中でツアーを続けます。この年の後半には7月~10月にかけて録音、11月22日に発売された2枚目のアルバム"With The Beatles”からの選曲が中心になりますが、ツアー前半ではまだ未発表曲ということでした。
 演奏会ではビートルズ自身にも自分達の出している音が聞こえないこともよくあり、そもそも、会場に入るのにも大変な苦労をするようになっていて、マルやニールが工夫して、おとりの車を使ったり、嘘の情報を流してフアンを別の入り口に移動させたり、警官に変装して会場から脱出したりする等々、毎回大騒ぎをしていたのでした。
 12月14日のロンドンでは、金網に囲まれたステージで演奏した後、バーのカウンターの中に並んで3000人のファンと握手をする趣向でしたが、握手をしたフアンがビートルズから離れようとしないで金網に押しつけられて押しつぶされたようになっているのを見たジョンは「もう少し強く押されたら、みんなポテト(フライドポテト)になって出てきちゃうよ」と笑い出してしまったとか。
 因みにこの年の終盤、ロンドンの老舗有料夕刊新聞『イブニング スタンダード』紙は大見出しで、次の様にこの一年を振り返りました。
 「1963年はビートルズの年となった。現時点で、この国の心臓部分を調べれば、そこにはビートルズという名前が刻まれていることだろう。」

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【NBC イベント情報】

《音楽cafe/森のこみち》市民祭りスペシャルプログラム~ビートルズ(&60'sポップス)タイム~
2023年11月12日(日)午後2時~3時頃  ピアノやギターの伴奏で一緒に唄いましょう!
<音楽cafe/森のこみち>(いこいの森公園入口正面) ☎:042-468-9525

《トーキング ビートルズ》セッション~CDをしっかり聴いて、deepに語り合おう!
#1*2023年11月25日(土)午後5時~7時(開場:午後4時30分)申込は下記NBCまで
   <音楽cafe/森のこみち>西東京市緑町3丁目4−7 ☎:042-468-9525
 ★TVでも紹介されたあの伝説?のコアフアンとミニミニライブも予定

#2*2024年2月4日(日)午後1時~3時 ※申込は11月15日(水)~に直接会場へ(webあり)
<杉並区立井草区民センター>2階第1・2集会室 ☎:03-3301-7720
   杉並区下井草5丁目7−22  (西武新宿線井荻駅南徒歩7分)
 ★小学生から70代の第1次ビートルズショック世代まで、汲めども尽きぬ魅力でタイムレスに
  輝き続けるビートルズ。そのサウンドの秘密を語り尽くす<参加型トークセッション>
 ★【要事前エントリー】語りたい<私のビートルズの1曲>(曲名と話の概要)をご準備下さい。

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 皆さんもビートルズの曲を唄ったり演奏したりしながら<ビートルズサウンドの秘密>を一緒に考えませんか?
 西東京ビートルズ倶楽部(NBC)では、今までもビートルズ好きの皆さんがリアルで集まって、ビートルズのCDを聴いて語り合ったりビートルズの曲をライブで聴いたりするイベント等を行ってきました。 今後「ビートルズのこの曲なら弾ける」とか「演奏してみたい・唄いたい」という皆さんと一緒に<ビートルズサウンドの秘密>を考える<ビートルズ倶楽部バンド>のメンバーを新たに募集したいと思っています。熱い思いで一緒にプレイして語り合いましょう!
 NBCでは、このサイトの内容やビートルズについてのご意見・感想等、お待ちしています。
 特に<私の1曲>として、<ビートルズの楽曲213曲の中でどの曲が好きか、好きな理由やその曲にまつわる皆さん自身のエピソード等々>は大歓迎です。
 皆さんの熱い・厚い想いを、メールでご連絡下さい。お待ちしています! 
 ※イベントの申込やNBCへの意見・感想等のメールも、下記までお願いします!

【 西東京ビートルズ倶楽部(NBC) 

アドレス: nbc4beatles@outlook.jp

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2024/8/12

ビートルズって、何? 【2】《たくさんの出会いと別れ・・・。ここからビートルズは始まった!》

西東京ビートルズ倶楽部(NBC)代表 田中敏久 このサイトでは皆さんと一緒に【ビートルズが残してくれたもの】について語り合い、自分たちの音楽活動や社会の動きをどう思っていたのか、ビートルズや彼らを取り巻く人々とのdynamics(関係性/集団力学)に注目して探ったり、今なお愛されている《ビートルズサウンドの秘密》を考えたりしたいと思っています。たくさんのご意見や感想、どうぞよろしくお願いします! 前回は、お互いの才能にびっくりした若き日の天才ジョンとポールの出会いをご紹介しました。  今回、二人がThe ...

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2024/10/9

ビートルズって、何?【1】《互いに「ぶったまげた⁉」二人の天才、ジョンとポールの出会い》

                 西東京ビートルズ倶楽部(NBC)代表 田中敏久 「なぜ、ビートルズは今でも新鮮な気持ちで聴けるのか?」こんなことを思った方は多いのではないでしょうか? ザ・ビートルズのレコードデビューは60年以上前の1962年10月ですが、先日放送されたTV番組でも、iPhoneを創ったスティーブ・ジョブスの「私のビジネスのモデルはビートルズ」という言葉が紹介されていました。関連の新刊書籍の発行やCDの再発は今でも続いています。 ビートルズを愛する市民が集まる「西東京ビートルズ倶楽部」で ...

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