学芸員・大平敦子さんらの論文が、国内外で反響
謎多き土壌生物「トビムシ」に関する幾つもの発見・解明をし、世界初を記録――多摩六都科学館の学芸員、大平敦子さん(博士)らが発光トビムシに関する論文をニュージーランドの科学雑誌「Zootaxa」で発表し、反響を呼んでいる。その成果は発光生物学の新たな幕を開けるものと注目されている。
トビムシの発光を世界で初めて動画撮影
トビムシは、主に土壌にいる1~3ミリほどの節足動物。腹部にばね返しのような跳躍器を持ち、多くはとび跳ねるが、国内だけでも約400種(世界では約9000種)があり、とばない種類もある。形状、色・模様も多彩。ムシの名が付くが、昆虫ではない。
謎の多い生物で、中には発光する種もある。今回、大平さんを中心にした研究チームは、
①発光することが知られていたトビムシが、ザウテルアカイボトビムシであることを解明
②アミメイボトビムシ属の種が光ることを世界で初めて発見
③トビムシが発光する様子を世界で初めて動画撮影
などの成果を発表した。大平さんは昨年まで同館に勤務しながら横浜国立大学に通っており(社会人大学院生)、論文は、名古屋大学、中部大学と連携して作成した。大平さんがその中心を担った。
アパレル業から多摩六都科学館へ
ユニークなのは、大平さんがトビムシを研究するようになった経緯だ。
北里大学で自然環境などを学んだ大平さんは、学芸員資格を取得したものの、「理系に疲れて」卒業後はアパレル会社で働いた。が、店頭で洋服を売っていたときに、ある博物館に勤務する女性と出会ったのが転機に。
「資格を持っているなら、それを生かしなさい」
と諭され、半ば、その人へのポーズのつもりで「吉祥寺近くに在住、生物とか好きです」と学芸員が集まるサイトに書き込んだところ、多摩六都科学館のスタッフから声がかかった。
グミのような形に心引かれた。が、名前も分からず…
最初はアルバイトで同館に勤務。「観察教室を担当してね」と言われ、身近なサンプルとして同館の庭の土をスコップで取り、実体顕微鏡でのぞいたところ、多彩な生物がうごめくその世界に魅せられた。とりわけ目を引かれたのが、「海外のグミみたいな色・形」で、ヨチヨチ歩いていたトビムシだった。
というわけで、最初に心引かれたのは、その姿。が、名前も生態も分からない。
「これでは、来館者に紹介もできない。せめて名前だけでも……」
と、すがる思いで、研究者のいた横浜国立大学にメールを送ったのが、研究者となる今日へのきっかけとなった。その後、同館の庭から、発光するトビムシも発見。その光らせ方も、独自に編み出した。
未知の世界は身近にもある
「世界初というと、宇宙や極地など特別なところにしかないように思われがちですが、実は、身近なところに未知は潜んでいるんです。科学はそれに気付く手がかりを与えてくれる。科学館では、そんな視点を皆さんにお伝えできたらと思って、働いています」
と大平さん。実際、展示室「自然の部屋」では、トビムシや土壌生物の紹介なども行っている。
なお、トビムシは4億年前からいる生物で、その生態や発光の仕組みを研究することで、生物の進化の過程に迫れるのではと期待されている。