コロナ禍で生徒が発案 活動の輪広がる
おにぎりを作って、ホームレスの人たちに配る――東久留米市にある私立校・自由学園の生徒たちが1年半前に始めた活動が、先日、「ボランティア・スピリット・アワード2021」で、最高賞となる文部科学大臣賞を受賞した。発起人で活動の中心を担った生徒は、日本代表の「ボランティア親善大使」として、春にアメリカに行くことも決まっている。活動する生徒たちにインタビューした。
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生徒たちの活動は、米15㌔を炊き、約170個のおにぎりを作って池袋まで運び、路上生活者への支援活動を行うNPО(※)と合流して、公園で他の支援物資と併せて配布するというもの。さらに周辺も回って、ホームレスの人たちに個別に手渡していく。夕方4時過ぎから始めて10時半頃までかかる活動で、負担が大きいこともあり、2カ月に1、2回のペースで行ってきた。2020年8月から、17回実施している。
同学園は「生活即教育」の理念から日常的に調理を行っており、おにぎりを作ることは、生徒たちにはお手のもの。現在は、中等科1年生から高等科3年生まで男女約60人が関わり、各回には15人程度が参加している。
きっかけはコロナ
発端となったのは、コロナ禍だ。社会的弱者への支援活動が各所で行われるなか、「自由学園の環境を生かして、何か自分たちにもできるのではないか」と、当時高等科2年生だった中村侑人さんが声を上げた。
最初に集まったのは、中等科の生徒も含む5人。意見を出し合うなかで路上生活者がピックアップされ、卒業生のツテをたどって、NPОとつながった。
「路上生活者といっても、どんな人たちなのか知識がまったくない。正直、怖い気持ちもあり、何ができるか分からなかった。まずは知ることから始めよう、とスタートしました」
と中村さんは振り返る。
出くわした信じられない光景
そんな彼らを待っていたのは、信じられない光景だった。NPОと行動を共にした初回。町を回ると、泥酔した様子で路上に尿を垂れ、横たわる男性の姿があった。腰が痛い、という嘆きを聞き、救急車を呼び、警察に通報。しかし駆けつけた隊員・警察官は、金品を持たない身元不詳の身を引き受けられず、最終的にはNPО職員に任せて立ち去っていった。
「社会システムが機能しない現実を目の当たりにしてショックを受けました。路上生活者の中には、交通事故から障がいを負って失職した方などもいて、他人事ではない。万一自分がそうなったとしても救われるような社会にしたい、という思いを強くしました」
と、同行していた山本江龍さんは話す。
支援を求める人が増加
長引くコロナ禍で、支援を求める人が増えているのも感じている。
当初は120個ほどで足りていたおにぎりが、今では170個でちょうど良いほどに。NPОが行う炊き出しでは、当初200食だったのが1年で倍の400食が必要になったという話も聞いた。
「おにぎりを渡すときに手が触れると、みんな温かくて、同じ人間なんだな、と実感する。同じはずなのに、どうしてこの人たちはこうなってしまったのだろうと、分からなくなります」
と、高等科1年生の平田佳乃さん。同級生の入海沢音さんも「普通に暮らしたいはずなのにそれができない。変な社会だなと思います」と同調する。
一方で、寄付者も
一方で、社会の明るさを見ることも幾つかあった。
おにぎりに用いる米は、保護者からの寄付などに頼っていたが、活動を知った東京東江戸川ロータリークラブ等からも支援を受けられるようになった。さらに同クラブの紹介で、赤ジソふりかけ「ゆかり」を製造販売する三島食品とつながり、同商品の提供を得られるようにもなった。
「活動を活性化させないと」
今回の受賞は、このような一連の活動が高く評価されたもの。
「親善大使」として渡米も決まった中村さんは受賞について、「びっくりしたのと同時に、さらに活動を活性化しないとという責任感を感じている」と話している。
なお、同賞はプルデンシャル生命や日本教育新聞社などが主催するもので、もともとは1995年にアメリカで始まった。日本では97年から実施され、今回が25回目。「青少年が積極的にボランティア活動に参加できる社会環境の醸成」を目的にしている。
詳しくは自由学園(info@jiyu.ac.jp)へ。