西東京市在住の切り絵作家、小出蒐さんの作品展「平家物語絵巻 ~小出蒐 切り絵の世界~田無神社展」が、田無神社おみくじ処で、令和3年10月9日(土)から開催されている。
小出さんの「平家物語絵巻」は2017年に刊行された画集。2013年から4年の月日をかけて制作され、平家一門の栄枯盛衰を描いた軍記物語「平家物語」の代表的な場面72点を切り絵で描いている。今回は『敦盛』や『宇治川先陣』『足摺り』等、よく知られている場面を描いた31点が、おみくじ処の壁面・天井に解説文とともに展示されている。
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深い親交から生まれた企画展
田無神社と小出さんの親交は深い。「スサノオ」「一楽萬開(五龍神)」「婀魔毘依(アマビエ)」等が奉納されているほか、田無神社J:COM絵馬デザインコンテストの審査員を第1回から務めている。今回の展示は、小出さんへの感謝とともに、素晴らしい作品の数々を地域の人たちに届けたいという田無神社賀陽宮司の願いから生まれた。
賀陽宮司は、
「西東京市に在住されている小出さんの素晴らしい作品を、たくさんの地域の人に届けるお手伝いができることは、神社としての喜びです」
そして、「平家物語絵巻」の魅力について、
「どれ一つとして、同じ構図がないのです。そして、作品に登場する主人公一人一人もまったく違う。それぞれの個性が見事に描き分けらていて、見れば見るほどに深い味わいがあります」
と話す。
作品展の構想はずっと抱えていたものの、神社での展示をどうすれば良いのかが課題だったという。今回、西東京市「ヤギサワベース」店主中村晋也さんがおみくじ処での展示を提案したことによって実現された。
中村さんは作品展のプロデュースにあたり、おみくじ処のもつ厳かで新鮮な雰囲気を存分に生かすことに注力したという。その言葉通り、白を基調とした清らかな空間を彩る小出さんの切り絵は、どこまでも美しい。また、広い天井には、これも小出さんの手によるモビールが飾られており、いっそう見る者の目を楽しませてくれる。
「平家物語の人物たちが、コロナ禍にある私たちに勇気を与えてくれる」
テストの成績が95点を下ったことがないというほど、大の歴史好きだった小出さんと平家物語の出会いは高校のときだそうだ。長い年月を重ねても一向に色褪せない、その魅力を自分なりの表現で世に伝えたいと考えたとき、
「自分にできることは切り絵しかない」
との思いに行き着いたという。構図はいちばん時間をかけて考え、髪の毛の繊細な質感を表現することも、気を遣ったことの一つだそうだ。
「『平家物語』の戦国の時代も、現代も、人が生きていくという意味では全く同じだと思います。人々の葛藤や苦しみ、喜び、そんな普遍的な感情の数々を『平家物語絵巻』からぜひ感じ取ってください。『コロナ』禍にある私たちに、勇気を与えてくれるはずです」
と、小出さんは力を込める。
展示期間は来年8月31日までと長期に及ぶ。耐久性を考慮して展示作品はフィルムにプリントしたものとなっている。6色印刷をしたことで、原画のもつ微妙な色彩も忠実に表現できたという。
「力強くも儚い、平家の運命を切り絵で再現した本作品を観賞することで、『平家物語』の新たな魅力や作品の良さを感じていただけるはずです。原作を読んでからのご鑑賞もお勧めします。」(賀陽宮司)
余談だが、「平家物語」は、来年度の大河ドラマやアニメ化も決定しているそうだ。『コロナ』禍の余暇の過ごし方の一つとして、「平家物語」を読み、田無神社の「平家物語絵巻」の世界を興じるのも一案だろう。
「平家物語絵巻~小出蒐切り絵の世界~田無神社展」
1.期間 令和3年10月9日(土)から令和4年8月31日(水)まで
2.場所 東京都西東京市田無町3丁目7番4号
田無神社境内 おみくじ処(作品展示場)
なお、展示期間中は、小出さんの「平家物語絵巻」「平家物語絵葉書」も販売されている。
(取材記者・三好圭子)