SDGsニュース(3) 〈労働者協同組合法〉が成立

 

#003<労働者の裁量・自律性を取り戻す 「協同労働」を実現する〈労働者協同組合法〉が成立>

東京新聞TOKYO Web   2020年12月5日配信

第3回のニュースは、2020年12月4日に日本の国会で成立した<労働者協同組合法>の内容とその意義について、ほぼ同時に配信された2つの記事を合わせたものです。

<視点1>まず重要なことは、この法案が全ての政党の議員による議員立法として提出され、全会一致で可決・成立したこと。<労働者協同組合法>は党派の壁を越えてその必要性が認識されて成立した法律だということ。

<視点2>この法案がこのタイミングで成立されたことの意義は、働く人が自ら出資し運営に携わる「協同労働」という新しい働き方の実現を目指す<労働者協同組合法>が、「コロナ後の日本で<本当に必要な仕事>を生み出す仕組み」として期待されているということ。

※<労働者協同組合法>の概要やその意義については、別項の<アースデイネット連絡協議会>情報紙<2021年春号>P2・3でも解説されているので、是非参照してください。

 

#003<「協同労働」実現する労働者協同組合法が成立 多様な雇用機会の創出に期待

   https://www.tokyo-np.co.jp/article/72445

  <「労使」ではなく「協同」で働く 労働者の裁量、自律性を取り戻す<協同労働法>>

         “https://www.tokyo-np.co.jp/article/72617”  

以下、下線は編者

 

「協同労働」を実現する労働者協同組合法

働く人が自ら出資し、運営に携わる「協同労働」という新しい働き方を実現する労働者協同組合法が4日の参院本会議で、全会一致で可決、成立した。2年以内に施行される。※

やりがいを感じられる仕事を自ら創り、主体的に働くことを後押しする仕組み。介護、子育てといった地域の需要にかなう事業が生まれ、多様な雇用機会の創出につながる効果が期待される。

(※編者註:2022年10月1日施行予定)

これまで介護や障害福祉、子育て支援、街づくりなど地域の課題に取り組む人たちは、NPOや企業組合などの形態で活動していたが、認可を得るのに時間がかかったり、活動分野が限られたりしていた。そうした課題を克服する「労働者協同組合」という新たな形態が考え出された。

労働者協組法は全137条で、労働者協組を設立する規則を定める。①組合員が出資②組合員の意見を反映③組合員自ら事業に従事―の3原則に基づいて運営されると規定。官庁の認可は必要とせず、3人以上の発起人がいれば届け出のみで設立できるとした。

組合員が組合の運営に携わると、労働者ではないとみなされ、労働法制の保護を受けられず低賃金などを強いられる懸念があった。このため法律は、組合が組合員と労働契約を締結するよう義務付け、労働者として保護されるようにした。

法制化の動きは1990年代にスタート。2008年に最初の超党派議連が発足し、与野党の枠を超えて検討を続けてきた。100条を超える議員立法の成立は珍しい。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で企業の経営難や雇用不安が広がる中、雇用の受け皿となることも期待されている。各組合が経営基盤をどう安定させるかなどが課題となる。

 

◇労働者協同組合法の要旨は次の通り

【目的】

・組合員が出資し、それぞれの意見を反映して事業が行われ、組合員自ら事業に従事することを基本原理とする組織に関し、設立、管理その他の事項を定める。多様な就労の機会創出を促進し、地域の多様な需要に応じた事業を促進する。

 

【労働者協同組合】

・基本原理(①組合員が出資する②事業に組合員の意見が適切に反映される③組合員が組合の事業に従事する)を通じ、持続可能で活力ある地域社会の実現に資する目的のものでなければならない。

・組合員と労働契約を締結しなければならない。

・組合員の議決権及び選挙権は、出資口数にかかわらず平等。

・営利を目的として事業を行ってはならない。

・特定の政党のために利用してはならない。

・労働者派遣事業を行うことができない。

・組合の設立は準則主義(官庁の認可は不要)。

3人以上の発起人を要する。

・役員として理事3人以上及び監事1人以上を置く。

・毎年度の剰余金の10分の1以上を準備金として積み立てなければならない。

・毎年度の剰余金の20分の1以上を就労創出等積立金として積み立てなければならない。

・組合員の知識向上を図るため、毎年度の剰余金の20分の1以上を教育繰越金として翌年度に繰り越さなければならない。

 

【その他】

・法律は一部を除き、公布後2年以内に施行する。

・施行の際、現存する企業組合またはNPO法人は、施行後3年以内に、総会の議決により組織を変更し、組合になることができる。(坂田奈央)

 


 

労働者協同組合はスペインやイタリアで19世紀に始まり、米国でも広がりつつある。今、日本で法制化される意義は何か。大阪市立大大学院の斎藤幸平准教授は「現場の労働条件が悪化し経済的不平等が拡大する中、労働者が経営主体となる協同労働が広がれば、労働のあり方や生産の仕方を根本から変える可能性がある」と指摘した。

 

◆好きな仕事を選び、嫌なら辞める自由ある

―協同労働の意義をどう捉えているか。

「私たちは好きな仕事を選び、嫌ならば辞める自由がある。しかし、資本主義における企業の目的はあくまでも最大限の利益を出すことなので、労働者の意思を無視して命令を出し、生産性を上げようとする。つまり、私たちはどの企業のもとで働くかを選べる自由くらいしか与えられていない」

「しかし労使関係を前提にしない、もっと別の働き方があるはずで、それが協同労働だ。必ずしも労使関係を前提とせず労働者自らが出資し、自分たちでルールを定め、何をどう作るかを主体的に決める。株主の意向に振り回されず労働者の意思を反映していけば、働きがいや生活の豊かさにつながるのではないか」

 

◆「営利目的でエッセンシャルワーク」は危険

―なぜいま協同労働に注目しているのか。

「人類の経済活動が地球を破壊する『人新世』と呼ばれる時代に突入している。際限なき利潤追求が宿命の資本主義的な企業が、地球を破壊する構造は止められない。企業がSDGs(持続可能な開発目標)に取り組むといっても表面的だ。利潤第一ではない、環境や地域のための協同労働が重要になる」

「社会に不可欠なエッセンシャルワークを営利目的でやるのは社会全体にとって危険で、協同労働の出番だ。例えば保育園がもうからないとき、人件費カットや突然の閉園で保育士や親を困らせる運営企業がある。協同労働であれば、労働者を守る道を探ることもできるし、簡単には撤退することもない

「しかも保育や介護といった協同労働になじみやすい分野は、二酸化炭素(CO2)も出さない。気候危機の時代に求められている働き方の可能性がここにはある

 

◆コロナ禍で分かった「本当に必要な仕事」

―新型コロナウイルス感染拡大後の新しい生き方と協同労働の関係は。

「コロナ禍で明らかになったのは、どういう仕事が社会にとって本当に必要なのか、ということだ。ゴミ収集が1週間止まれば、町はゴミだらけになる。ところが、エッセンシャルワーカーたちは、しばしば低賃金で長時間労働を強いられている。機械化できず、生産性が低い仕事とみなされているからだ。協同労働が、労働者の裁量や自律性を取り戻し、社会のために質の高い仕事を持続的に提供する場になってほしい

 

―課題は何か。

「組合に参加する人数が増えれば、決定する人、実行する人の距離が開き、主体的な意思決定が難しくなる。また、他の企業がコストカットを続ける中で組合の民主主義重視の運営は競争力では劣る。国や自治体が支援をできるかが鍵となるだろう」(石川智規)

さいとう・こうへい 1987年生まれ。ベルリン・フンボルト大哲学科博士課程修了。主な専門は経済思想。近著「人新世の『資本論』」(集英社新書)で資本主義システムの問題点を挙げるとともに、目指すべき働き方として協同労働に触れ、注目されている。】 《2021/10/01》

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