8月8日 (日)西東京市の保谷こもれびホール小ホールにて、「どこかに美しい人と人との力はないか 茨木のり子没後15年の集い」が開催されます。
西東京市に48年暮らした茨木さん
これは、西東京市東伏見に48年間暮らしていた詩人茨木のり子さんの没後15年に合わせたもので、茨木のり子さんの詩の魅力を朗読と音楽を通してたっぷりと味わえる内容となっています。
(編集部注:イベントのうち、「朗読劇」のみ、新型コロナウイルス感染症の影響で10月2日に延期されました)
主催は「茨木のり子の家を残したい会」(代表・小田桐孝子さん)「8.8茨木のり子没後15年の集い実行委員会」(実行委員長・柳田由紀子さん)で、前中榮子さん(ソプラノ)、山川建夫さん(フリーアナウンサー)、小森俊明さん(作曲家・ピアニスト)、吉岡しげ美さん(作曲家・ピアノ弾き語り)の4人のゲストによる独唱・詩朗読・ピアノ独奏・ピアノ弾き語りのほか、「茨木のり子の家を残したい会」会員員の脚本、演出、出演による朗読劇、合唱が披露されます。
旧保谷時代に、「憲法擁護・非核都市の宣言」制定に携わる
「わたしが一番きれいだったとき」「倚りかからず」「自分の感受性くらい」などで知られる茨木のり子さんと西東京市との関わりは深く、1958年から2006年3月にくも膜下出血でこの世を去るまでの48年もの間、西東京市東伏見に暮らし創作活動を続け、旧保谷市の「憲法擁護・非核都市の宣言」の制定にも携わっています。
茨木邸は現在も親族の手によりそのまま保存・管理され、資料の貸出や打ち合わせなど、仕事場として使用されています。
約130人が参加する「家を残したい会」
「茨木のり子の家を残したい会」は市民を中心とした市民活動団体で、2016年、発起人の柳田由紀子さんを含めた5人のメンバーによって発足されました。2019年より賛同人を募り、本格的に活動を開始。多くの人たちに地元西東京市に茨木のり子が暮らしていたことを知ってもらおうと、年4回の季刊誌「のり子手帖」の発行や詩の朗読会等、関連イベントを企画してきました。現在の会員は市内、市外まで広がり180名ほどにのぼります。
8日に上演する朗読劇「詩人茨木のり子の軌跡」は、茨木のり子さんの詩はどのような過程を辿って生まれてきたのか? ルーツを紐解き、軍国少女の頃、父との葛藤、山本安英との出会い、同人誌「櫂」の創刊、夫の早世、ハングルの習得と翻訳、旧保谷市「非核平和都市宣言」草案の作成、山根基世に語った「詩は成るもの」の意味、生前に書かれた「別れの手紙」など、詩人として、一個人として、のり子さんの生涯のポイントを繋いだ38分の舞台となっています。
出演者は「茨木のり子の家を残したい会」の会員を初めとする18人。お芝居の経験の豊富な人、まったくない人やほとんどない人、高校演劇を思い出しながらやっている人などさまざまいます。
脚本・演出を担当した橋口紀子さんは、
「昨年秋、実行委員長の柳田さんから朗読劇の脚本を依頼されたとき、私はノンフィクションにしたいと考えました。また、朗読劇は台本を読みながら演じるので、経験のない人にも入りやすい。観客の皆さんには、動きのある朗読劇を楽しんでいただけたらと思います。」
と話します。
コロナ下で苦心しながら練習
新型コロナ感染症禍のため稽古も思うようにできず、中断していた稽古を再開したのは今年の6月になってから。毎週日曜日、保谷駅前公民館、緑町市民集会所を稽古場としていますが、全員が揃うこともままならない状況が続いたといいます。
それでも、ネットで衣装を購入したり、演技に必要な方言を研究したりと、各自ができることに懸命に取り組み、精一杯役の人物になりきろうと励んでいるとのこと。自然と稽古にも熱が入り、みんなで意見を出し合いながら、あっという間に時間が経っていくそうです。
橋口さんの脚本は、茨木さんのエッセイや、後藤正治さんの評伝「清冽」を参考文献とし、関わりのあった人物や架空の人物、歴史上の出来事、のり子さん自身の出来事を繋げて書かれています。
のり子さんの詩である「答え」や「私がいちばんきれいだったとき」「最後の晩餐」を台詞にしたり、場面の転換には、その時代に流行した歌を使うなど、橋口さんならではのこだわりの演出も盛り込まれています。
元保谷市長の都丸哲也さんが100歳で出演
また、劇中には旧保谷市「憲法擁護・非核都市の宣言」に関するエピソードも登場します。
この宣言は、保谷市と田無市の合併前に、当時の旧保谷市長・都丸哲也さんがのり子さんの自宅に伺い、直接草案を依頼して作成されました。
今回の劇には、現在100歳になられた都丸さん自身が本人役で出演されています。
橋口さんは、
「非核都市の宣言は元保谷市長の都丸さんが直接茨木さんに草案を依頼しにお宅に伺い、保谷市と田無市が合併前に作成し宣言したものです。このことは、他の地域では一つのエピソードにすぎないかもしれませんが、西東京市にとっては大きな意味があります。
そして、西東京市保谷こもれびホールで上演されることも、茨木さんと西東京市の関わりを伝えるうえで、とても意義のあることだと思っています。
都丸さんは百歳にして朗読劇の舞台を踏まれます。のり子の会の会員ですが、六十歳の時の出来事を百歳のご本人が演じるのです。
そして、出演者全員が保谷市民として、茨木さんの書いた「憲法擁護・非核都市の宣言」を百歳になられた本物の都丸さんと読み上げることは素晴らしいことだと思います」
と話していました。
のり子さん役は、10代、20代、20〜40代、50〜60代、70代と5人の方が演じます。それぞれを楽しみながら鑑賞するのも一案かもしれません。
「コロナ」対策のため、本番もマスクを着用し、マイクを使用して上演します。緊急事態宣言の出た7月12日には、チケット販売禁止となりましたが、その時点ですでにかなりのチケットが売れていて、入場者制限もあり、現在はほぼ完売となっています。茨木さんの人気のほどが伺えます。
(編集部注:イベントのうち、「朗読劇」は新型コロナウイルス感染症の影響で10月2日に延期されました)
今も町中にある茨木邸
茨木邸は西東京市東伏見小学校と下野谷遺跡を結ぶ坂の中ほどにあります。山小屋風のモダンなデザインで、内装は独特の落ち着きがあるとのこと。内部見学については、限定的に可能ですが、現在は「コロナ」禍で控えているそうです。
茨木のり子さんの詩集は書籍化されており、手軽に手に入れることができます。Stay Homeの続くなか、のり子さんの世界を味わう時間をつくってみてはいかがでしょうか。
(取材記者・三好圭子)
※同公演は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて内容が一部変更となり、「朗読劇」は10月2日に延期されます。
同会のことなど詳しくは牧子さん(042-467-3854)へ。