在宅診療NOW
まつばらホームクリニック 松原清二院長のコラム
先日患者さん宅を出て、細い砂利道を歩いていて、春のそよ風が気持ち良いなあと思って見上げたとき、目の前にある中学校の校舎の窓から男の子たち数人がこちらに手を振っていました。
他に誰かいないかなと周りをキョロキョロ見ましたが、私しかいなかったので、私が両手を上げて手を振ったら、一斉にみんなが手を振ってくれて子どもはかわいいなあと思いました。
ただ残念ながら新型コロナの流行で、感染予防のために家にいることも増え、こういった人と人とのコミュニケーションは分断され、人々の心の豊かさが奪われてしまう時代になりました。特に高齢の方は刺激がなくなり、日付け感覚がなくなったり、言葉も出なくなったり、笑い方を忘れたりと認知症が進んでしまう、デイサービスへ行くのも怖くなり、リハビリもできず、ベッドからの起立もできなくなり、太腿やふくらはぎが細くなりフレイルが進行している方もいます。
高齢になっても自分らしい時間をなるだけ長くという思いを支えるために、当院では認知症プログラムソフトを使った認知症リハビリ、また脳梗塞の方にはロボットリハビリを行ったりしていますが、やはり患者さんに対しては、決まった形のリハビリの他に、一人ひとりに合わせた対応が必要です。
例えば、カメラいじりが好きだけどPCへの取り込みを忘れてしまうといった観念失行が目立つ方にはそこを補助する。外出しなくなり笑い方を忘れた方には、訪問看護でコミュニケーションを取りながら、笑い方を取り戻す。抗がん剤治療を受けながらも、8月にはギターのライブ演奏をしたいという方にはご本人の意思を尊重しながら、そのライブ開催を目標にリハビリの必要性を説明しながら行なっていく――。
こういった各人の心の機微を我々も理解しながら、在宅医療では患者さんの生活を豊かにすることが大切ではないかと考えています。
プロフィール
松原 清二