コロナ禍でも子どもたちへの学習支援を止めない――。
「経済格差による教育格差を生まない」を理念に、小中学生を対象に無料で学習指導を続けているNPO法人「稲門寺子屋西東京」(寺子屋)。
10年以上活動を続けてきていますが、さすがにこの1年は、「コロナ」に振り回されました。
年に1度の新年度の生徒募集を前に、この1年の様子や指導者たちの思いを取材しました。
公共施設の臨時休館により、1学期は指導を休止
同会が「コロナ」の影響を大きく受けた理由の一つは、公共施設を会場としていることにあります。
通常は西東京市田無総合福祉センターと東伏見ふれあいプラザを活用していますが、昨春の緊急事態宣言中は施設が臨時休館となったため、結局、1学期は活動を休止せざるを得なくなりました。
現在も、施設が午後8時までしか使えないため、授業時間の短縮を余儀なくされています。
とはいえ、特に中学3年生には受験が控えているため、学習を止めるわけにはいきません。
そこで同会では、昨年8月には中3限定で、「夏の特別授業」を実施しました。
さらにこの冬も1月4日から7日までの4日間連続で講座を行っています。
同会の発足時から講師を務める好田正紀さんは
「お正月明けでしたが、負担感はまったくありません。過去の入試問題を中心に取り組みましたが、苦手分野を見極める良い機会になりました」
と成果を口にします。
ちなみに、授業においては、マスク着用、アルコール消毒などの規定を設け、統一したコロナ対策を行っているといいます。これまでは円卓で指導していたのも、長机1台に一人、対面禁止というスタイルに変えました
こうした活動とは別に、講師によっては、個別にオンライン指導を行ったケースもありました。
中1から見てきた現3年生にオンライン指導したという関口和子さんは
「手探りでしたし、特に準備は大変でした。一方で、子どもたちに学習習慣がちゃんと付いているのを確認できたのは良かったです」
と話します。
こうした事例を見ると、指導者の熱意によって活動が続いていることが分かりますが、講師の一人の竹森英次さんはこう話します。
「生徒は一人ひとり違っているので、こちらも教え方を常に工夫しないといけない。そういう刺激を通して、自分自身も成長させてもらっているのを感じています。それと、ボケ防止ですね(笑)」
なお、今回インタビューできた3人の講師のコメントを以下にまとめています。
また、記事の下部に、生徒募集の説明会・面談についての詳細、寄付・講師募集の案内も掲載しています。
竹森英次さん 「対面指導だからこそ、適切にヒントが出せる」
定年退職後、2010年から『寺子屋』で指導をしているという竹森英次さん。
若い頃に6年ほど塾の講師をした経験があるとのことで、「教えることで良い刺激をもらい、自分自身も成長させてもらっている」と話します。
この1年は新型コロナウイルスの影響を受けながらの指導でしたが、そこで改めて、「対面指導」の価値を感じたと話してくれました。
「昨年は、新型コロナウイルスの影響で会場が使えず、仕方なく1学期は休止の措置を取りました。
その期間、私はIT環境のある生徒に個別にオンラインで学習指導を行ったのですが、改めて感じたのは、直接の対面授業の価値でした。
『寺子屋』では、先生1人に対して生徒は最大でも3人までという少人数制を取っているのですが、直接顔を合わせていると、どのタイミングで問いのヒントを出せばよいかが分かります。
学習において『ヒント』は非常に重要です。早く伝えすぎると勉強にならないし、遅すぎると集中力を切らしてしまいます。特に、学習習慣があまりない子に対しては、適切なタイミングで適切なヒントを出すということが非常に重要です。
その点、オンラインでは、生徒の様子が今ひとつ掴めず、適切にヒントを出すのが難しいというデメリットがありますね。
また、よく聞く話ですが、その科目を好きになった理由は先生が好きだったから、というものがあります。逆に、同じ理由で嫌いになるケースもありますね。
やはり、『教える人』というのは重要なのだと思います。
教え方のうまさなどではなく、まずは人柄。
その人柄に触れ、『この先生に会いたい』とか『この先生にほめてもらいたい』といった気持ちになると、勉強により積極的になれます。
その点、手前みそですが、『寺子屋』の指導者たちは人生経験が豊富で、学校や塾の先生とはひと味違うメンバーがそろっています。勉強だけでなく、私たちの社会人経験などを生徒たちに伝えることも、彼らの目を開く力になるはずと思っています」
関口和子さん 「子どもは数年で大きく変わる」
英語塾の講師のほか、幼稚園などでの英語指導を続けてきたという関口和子さんは、2012年から「寺子屋」にかかわっています。「寺子屋」が活動目的とする「経済格差が教育格差にならないように」の趣旨に賛同する関口さんは、「地域のためでもあり、自分がやってきたことで役立てるなら」とボランティアでの指導にやりがいを感じているといいます。
「コロナ」の中での生徒や親たちの様子などを語っていただきました。
「中学1年生のときから担当している、今3年生の生徒が3人いるのですが、彼らは『寺子屋』に通って学習習慣が身に付いていたためか、『コロナ』で学校が休校となり、『寺子屋』もできなかった時期も、自分から勉強することができていたようです。
もちろん、3年生ということで受験に向かっていく自覚もあったのだと思います。
一方で、その一人に新1年生になった兄弟がいるのですが、その子は不安を感じていたようです。特に親御様が不安を感じたようで、彼らには個別にオンライン授業をしていたのですが、『下の子の勉強も見てほしい』と頼まれました。
こういう個人的な頼みに柔軟に対応できるのは、学習ボランティアという『寺子屋』ならではだな、と感じます。有料塾なら『では、入会を』となるところでしょう。
『寺子屋』では先生と生徒の個人的な信頼感が結ばれているようなところがあって、温かみがあり、地域活動の醍醐味を感じます。私だけでなく他の先生も、生徒のために、と自分の時間を割いて取り組む方が多いです。
こういう場があるということを一人でも多くの方に知っていただき、該当する方にはぜひいらしていただきたいです。
私個人は、『寺子屋』で10年近く指導させてもらっていますが、この場を通して、多くの生徒たちの変化を目の当たりにしています。中学生の多感な時期に、態度や考え方は大きく変わります。そういう姿を見るたびに、『良いものを見させていただいているな』と感謝の気持ちが湧いてきます」
好田正紀さん 「学習習慣と自立性を身につけてほしい」
大学教授として情報科学を教えていたという好田正紀さんが「寺子屋」の指導者となったのは、「寺子屋」が活動をスタートした2009年。「個々の生徒に応じた多様な指導の仕方を心がけている」という好田さんには、具体的な授業の取り組みなどを教えていただきました。
「通常の授業は、午後5時から8時10分までで、90分・2コマ。田無総合福祉センターなどの公共施設を利用しています。基本的には、学校の授業をフォローする内容です。
進学塾ではありませんが、中学3年生に限って、できる範囲での受験指導は行っています。この冬は、三が日が明けた1月4日から7日まで4日連続の『冬休み特別授業』を行いました。
通常授業で教えている担当者がそのまま4日間指導したので、かなり中身の濃い学習になったと思います。具体的には、過去の入試問題を中心に取り組み、個々の生徒の苦手な部分などを浮き彫りにできました。受験までの残り1カ月で何に取り組めば良いか、生徒も指導者も把握できる機会となりました。
『寺子屋』での指導で大事にしていることは、生徒自身が学習習慣を身につけること、そして、自立性を持てるように導くことです。
今年担当した中学1年生の子を例に話しましょう。
2学期から指導を始めたのですが、最初はまだ学習習慣が身に付いていないようでした。
1学期の数学の成績は評価3。テスト結果は60点でした。
ですが、学習習慣がつけばもっと成績が伸びそうな気配があり、実際、2学期では、中間テストで70点、期末テストでは80点を取り、評価は4に上がっています。
私自身は、この生徒にはテストで90点以上を取れる潜在的な能力があると見ています。
学習習慣が身に付くように指導し、実際に成績が上がることで自信をつけていけば、子どもたちは自分で積極的に学んでいくということができるようになります。
そこまで導くのが私たちの大きな目標です。ぜひ、私たちを頼っていただけたらと思います」
年に1度の生徒募集 3月に説明会開催
無料学習指導を行う「寺子屋」では、2021年度の生徒を募集します。
対象となるのは、4月から小学5年生になる児童から中学2年生になる生徒。経済的理由などで塾に通っていない、家庭教師について教わっていない小中学生に限ります。
同会ではこれまで、2009年から12年間の間に、延べ数百人の指導を行ってきています。指導者は、元教師、社会人などです。
指導科目は国語、算数・数学、英語の中から2科目まで。
会場は西東京市田無総合福祉センターか、東伏見ふれあいプラザです。
指導時間は会場・科目で異なります。
なお、3月6日(土)と7日(日)に、「保護者・生徒 説明会及び面談」が実施されます。
午前9時30分からと10時50分から1時間程度(両時間とも同じ内容)。
田無総合福祉センターにて。
入会申込書は、公式サイトからダウンロードできるほか、西東京市内の公民館で配布中です。
詳しくは、稲門寺子屋西東京(公式サイト)へ。
電話問い合わせは、理事長の金子さん(080-4125-1038)へ。
活動への寄付募集も 「地域の子どもをみんなで育てよう」
「寺子屋」では、活動への寄付を募っています。
活動自体はボランティアで行っていますが、教材費・講師の交通費・授業を行う公共施設の利用など、運営負担は大きいといいます。
「無料指導を続けるには寄付に頼るしかありません。『地域の子どもたちをみんなで育てよう』というお気持ちでご賛同いただけると幸いです」
と理事の高木さんは話します。
銀行振込の場合は左記(三井住友銀行/田無支店/普通/4114594/特定非営利活動法人「稲門寺子屋西東京」)へ。
寄付の詳細は同会ホームページにも記載されています。
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また、講師として参加してくれる人も募集しています。活動は原則として無料ボランティアです。
詳しくは同会までお問い合わせください。