新型コロナウイルス感染症によって地域はどう変わるのかを探るこのシリーズ。3回目は、地域福祉に着目しました。
インタビューでお訪ねしたのは、西東京市社会福祉協議会地域福祉推進係の利光有紀係長。主に「支え合い」をテーマに、「集まり」の場が閉ざされたなかで地域のコミュニティがどうなったのかなどを語ってくださいました。
3月から5月頃の状況は…
西東京市社会福祉協議会では、日常的に市民の相談を受けたり、集まりの場をサポートしています。
まずは、「コロナ」感染拡大により、公共施設の休館などが実施された3月から5月頃にかけての状況を質問しました。
「『集まる』『出向く』が私たちの専売特許。災害時へのBCP(事業継続計画)はありましたが、感染症は想定しておらず、それができなくなるということへの準備はありませんでした。
デジタル化自体も進んでおらず、アナログの『行く』『会う』を重視してきたので、痛手は大きかったです。
実は2月、3月というのは、さまざまな活動において、次年度計画を立てて決算するという大事なときです。にもかかわらず、集まれないという状況があり、代表者や会計の方とだけ連絡を取るという形で対応していきました。
これはサロンなどの話ですが、社会福祉協議会全体としては、ファミリー・サポート・センターや有償家事サービスの『あいあいサービス』などは稼動していました。依頼は少なかったですが。
一方で、依頼というか、相談数が膨大にあったのが、生活福祉資金貸付制度です。緊急小口資金・総合支援資金の特別貸付制度を、職員総出で対応するような状況がありました。
非常事態宣言が解除された以降は、サロンの活動再開のための準備が忙しくなりました。『コロナ』に対しての警戒感は人によって差があるので、活動時の注意事項など、基準を定める必要があったのです。
それは市民のほうから求める声が多く、その要望を受けながら『みんな活動をしたいんだ』と感じました」
できることを模索した市民たち
西東京市社会福祉協議会では、小学校の通学区域をベースにした地域住民懇談会「ふれあいのまちづくり」事業(「ふれまち」)を1988(昭和63)年から続けており、全20地域で懇談会が活動しています。
「コロナ」で外出自粛などが求められたなか、各地域で活動が模索されたといいます。
後から聞いた話なのですが、個別に電話をして連絡を取ったり、オンラインに挑戦したところが多かったようです。
『ふれまち』の多くは瓦版のような『通信』を発行してきているのですが、『コロナ』の中でも発行を継続し、地域の中で情報共有を図っていました。
その中には、『活動を再開したら何をしたいですか』というアンケートを取り、話さなくてもできる、ということで、映画会を実施したところもあります。
そうした活動を見ると、皆さんの中に、『何のために懇談会をやっているのか』が根付いていることを感じます。
『1カ月、誰とも会わないのはおかしい』とか、『あの人が心配だ』と考えてくださる。そういう人が多かったことを知れて、『まちづくりをやってきてよかった』と思いました。
それと、皆さんのアイデアの柔軟さに驚きました。
サロンで集まれないなら外でやろう、ウオーキングをしよう、と新たに取り組まれているところもあります。
取り組みは会によって異なりますが、どこについても言えるのは、コロナによってつながりが断絶したかというと、そんなことはないということです」
住民が支え合うことの意義と利点
西東京市では、地域住民の支え合いの仕組みを多面的に進めてきています。前述の「ふれまち」もその一つ。
また、「福祉丸ごと相談(西東京市生活サポート相談窓口)」を今年4月に設けています。
その担い手である社会福祉協議会の立場から、その意義や利点をお聞きしました。
「西東京市社会福祉協議会は直接型サービスの提供者として、デイサービスなどの施設の運営に携わっていたのですが、2006(平成18)年度にマスタープランを作成し、『マネジメント型』に移行しました。
というのは、西東京市の場合、地域の中に、介護や福祉に強いNPOや社会福祉法人が多数育っていたからです。
活動団体が多数あるなかでの社会福祉協議会の役割は何かと考えたときに、それは『地域の課題に対して、社協でしか取り組めないところを担う』ということだろうと行き着きました。
同じ時期に、西東京市が2009(平成21)年度にさまざまな関係機関をつなぐ『ほっとネット』を発足。翌年度に、その担い手となる地域福祉コーディネーターが設置しました。
実は私は、その最初の担当者です。今は8人が担当しています。
なぜこのようなコーディネーターが必要かというと、そこには西東京市の特性が関係してきます。
西東京市は合併して急激に人口が増えた地域ですが、そのためにコミュニティが育ちにくい状況があります。自治会がない地域も多い。ところが個別には問題がさまざま発生していて、時代の変化もあり、ひきこもり、8050、虐待などが起こっています。
そうした個別の課題を解決してそこから制度化するように持っていかないと、コミュニティは崩壊してしまいます。「福祉丸ごと相談」ができたのも、そういう理念からです。
例えば、以前、隣の子どもの泣き声がうるさい、なんとかしてほしい、という相談がありました。伺ってみると、この方は配偶者の介護をなさっていて、介護うつの状態になっていました。
この場合、もし相談口が専門的なものばかりだと、『その相談はあちらに』とたらい回しになる恐れがあります。本当の課題に行き着けないわけです。
それを柔軟に受け止めるには、相談を断らないという形を取ることが有効です。
そして、その解決も、私たちが行うのではなく、地域の人につないでいくことで得られるようにしています。
これはまた別の例ですが、やはり近所とのトラブルを抱えている高齢男性がいて、その方を傾聴のサロンにお連れしたことがあります。するとその男性は、抱えていたトラブルのことは一切口にせず、日常のことを嬉々として話し、自発的にそのサロンに通うようになりました。結局、話せる場がほしかったようです。男性は趣味のカメラを持ってさまざまなサロンを出入りするようになり、ついには、ボランティア登録までして、すっかり『地域の人』になりました。
マズローの5段階欲求で、人は満たされると役に立ちたくなる、という指摘がありますが、本当にそうだと思います。その方の場合、吊り上がっていた目がどんどん優しくなっていきました。
行政だと断らなければいけないケースも、地域住民の力で柔軟に対応できることは、実はとても多いです」
「コロナ」をきっかけに、自由な活動を
インタビューの最後に、『コロナ』を経て、これからの支え合いの仕組み、地域コミュニティのあり方をお聞きしました。
「これは私個人の考えですが、オンラインを活用しながらも、やはり人と会うことを大切にしたいと思います。
ズームの会議に参加する機会がとても多くなったのですが、利用していていつも思うのは、参加しているほかの方々がどう感じているのかよく分からない、ということです。
感覚というか、顔を合わせたときの「わー」という嬉しい、温かい感じが、実は大事なんじゃないかと思っています。
とはいえ、新しいフェーズに入ったなかで、また仕組みを考えていくことも必要です。
実はこの『コロナ』は、これまでの活動を見直すチャンスなのだとも感じています。
例えば、これまでは2時間行っていた活動を30分に短縮したときに、『30分なら私も手伝うよ』という人が出てくるかもしれません。
実際、春の『コロナ』のときには皆さん、柔軟に対応されたのですから、同じように今後の活動も、柔軟性を持たせて活動を転換していけるはずと思います。
やはり、コミュニティにおいては、新しい参加者をどう増やしていけるかが重要なポイントです。コミュニティにおいては常に、『つながらない人をどうサポートするか』という問題が横たわっています。それをクリアするには、学習会や講演会だけではなく、当事者や市民が参加できるような場づくりが必要なのではないでしょうか」