東村山市の見どころを選んでみました!
鎌倉と上州を結ぶ街道が通っていたことから、多摩北部では屈指の歴史を持つ東村山市。市域には、国宝の寺院や国重要文化財などがあります。
と同時に、「トトロ」の郷としても知られるように、地域は自然豊かです。
そんな魅力ある町から10件に絞り込むのは至難ですが、ともあれ以下をご紹介します!
国宝を気軽に見られる 「正福寺地蔵堂」
東京都の構造物の国宝はわずか2つしかなく、そのうちの1つが東村山市にある「正福寺地蔵堂」です(ちなみに、もう1つは旧東宮御所=迎賓館赤坂離宮)。東村山市の見どころとしては、絶対にココは外せません。
正福寺地蔵堂は室町時代の1407年の建立で、やはり国宝に指定されている鎌倉の円覚寺舎利殿とほぼ同じ造りとなっています。
反り上がった入母屋造の屋根は典型的な禅宗様で、「関東禅宗仏殿の最古の例として価値を持つ」と評価されています。
正福寺は当初から地蔵堂として建立されたようで、内部には本尊の地蔵菩薩像のほか、多数の小地蔵が祀られています。そのことから地元では、「正福寺千体地蔵堂」ともいわれています。
堂内は、8月8日、9月24日、11月3日の年3回公開されています。
このように歴史的価値の高い正福寺ですが、驚くのは、ほとんど無造作なぐらいに飾り気なく公開されていることです。
とても国宝の構造物とは思えないほどごく自然な形で地域の風景にとけ込んでおり、それが親しみを感じさせます。住宅街の中にひっそりとあり、初めて来る人は、「本当にここに国宝のお寺があるの?」と不安に思うかもしれません。
なお、境内には市指定有形民俗文化財の貞和の板碑も残されています。こちらは、ある僧が自分の死後の冥福を祈って造立したと伝わるもので、一時期は川の橋として用いられていたこともあるそうです。
隔離の実態が生々しい 「国立ハンセン病資料館」
もう一つ、東村山でぜひ訪ねてほしいのは、「国立ハンセン病資料館」です。
全国に13あった国立ハンセン病療養所のうちの多磨全生園内に設立されたもので、ハンセン病患者に対する誤った隔離政策を二度と繰り返さないために、「差別」や「人権」をテーマに多彩な展示を行っています。
患者だけが隔離されていた頃の生活ぶりの紹介は生々しく、等身大のジオラマや実際の生活用具、豊富な写真など、見る者を圧倒する迫力で展示されています。これらの資料は、多磨全生園入所者だけでなく、全国の療養所の協力を得て収集したものとのことです。
資料館には図書室もあり、文献の紹介もされています。また、企画展・特別展や講演会なども実施されています。
なお、資料館の外にある、当時の暮らしを偲ばせる男子独身寮(山吹舎)、納骨堂、望郷の丘なども必見です。
敷地内の豊かな緑は草木1本1本を入所者が植えたもので、今、この森を後世まで残していこうという「人権の森構想」が取り組まれています。訪ねた際は、ぜひ敷地内にある木々にまで目を向けてください。
「トトロ」の名場面の舞台? 八国山緑地・北山公園
緑の豊かさで東村山市を語るなら、八国山緑地も見逃せません。ここは言わずと知れた「トトロ」の郷。武蔵野を拠点に活動する宮崎駿監督の代表作「となりのトトロ」に登場する七国山は、この八国山をモデルにしたものと語られています。
そんな八国山緑地は、適度な勾配がある東西約1.9キロの遊歩道があり、武蔵野の森の中をのんびりと散策できるようになっています。遊歩道に面して、新田義貞が旗を立てたという伝承にちなむ将軍塚もあり、自然と歴史とに触れられる場所です。
ちなみに、八国山の周辺のどこかに、中世の頃、困窮した人々を救うための悲田処があったとも伝えられています。義貞が軍勢を率いてここを通過したことでも分かるように、往時このあたりは、交通の要衝であったようです。
さて、この豊かな森の南方には、北山公園があります。ここは、6月頃に菖蒲が見頃を迎えることで知られます。ここにしか咲かない品種もあり、菖蒲苑を散策する人々の姿は、東村山の初夏の風物詩となっています。
宮崎駿監督が保全活動の先頭に! 「渕の森緑地」
もう一つ、宮崎駿監督がらみで緑地を紹介しましょう。
実際に宮崎監督が関わっているという意味ではむしろこちらのほうに軍配が上がるのが「渕の森緑地」です。
東村山市と所沢市の境にある約4300平方メートルのこの緑地は、市民の手で保全され、ゆったりと歩ける散策路が整備されています。
ここは民間事業者による住宅開発が進みそうだったところを、住民運動で緑地を守った場所として知られます。現在は、市民の寄付を原資に東村山市が公有地化しています。
その管理は、宮崎監督が代表を務める「渕の森の会」が担っており、年に数回、市民参加での下草刈りなどが行われています。
なお、緑地の保全が決まった1996年に建てられた石碑が敷地内にあり、その近くには、誰ともなく残したと思われる「まっくろくろすけ」を模した石が複数置かれていて、笑顔を誘います。
湖に面して多彩な景観 「都立狭山公園」
さまざまな憩いの場がある東村山市ですが、一日過ごすなら、都立狭山公園がお勧めです。
多摩湖(村山貯水池)に隣接する狭山公園は、丘陵にあり、起伏に富んでいるのが特徴です。ハイキング用品などを多数持ち歩くには不便ですが、変化のある地形ではウオーキングなども楽しく、ファミリーの場合は子どもたちには刺激いっぱいのはずです。
広場と雑木林のゾーンが分かれており、遊歩道を有した宅部池があるなどさまざまなエリアがあります。数は多くはないですが、遊具も設置されています。
多摩湖に面した堰堤からは湖を一望でき、広々とした風景の中でウオーキングなども楽しめます。
なお、多摩湖周辺は桜の名所としても有名で、春には約4万本の桜が咲き誇ります。
出土品392点が国の重要文化財に 「下宅部遺跡」
上記で紹介した緑豊かな八国山緑地にほど近いところには、縄文時代の「下宅部遺跡」が広がっています。
現代の生活者の目ではなんの変哲もない土地ですが、実は学術的には超が付くほど重要な地域。ここから発掘された埋蔵品は、392点が国の重要文化財に指定されています。
ではどのように重要かというと、ここから発掘された木工品や土器類は泥土に埋まっていたため損傷が少なく、そのためその遺物から当時の技術などが推測できているのです。
とりわけ漆工関連の価値が高く、その遺物によって、当時、漆の管理栽培がされていたことなどが分かってきています。
これらの遺物は、近くにある「八国山たいけんの里」と「東村山ふるさと歴史館」に一部が展示されています。
また、発掘の地点となったエリアでは、遺跡公園「下宅部遺跡はっけんのもり」が設置され、当時の暮らしぶりを伝える野外展示がされています。
近くにある八国山の散策、あるいは、北山公園での菖蒲鑑賞、さらには、国宝「正福寺地蔵堂」への訪問などと併せて、訪ねてみてはいかがでしょうか。
地域の貴重な板碑を保存する 「徳蔵寺」
八国山、正福寺、下宅部遺跡とくれば、もう一つ足をのばしたいスポットが「徳蔵寺」です。
永禄3年(1560年)の創立とされる臨済宗の寺院ですが、縁あって新田義貞ゆかりの「元弘の碑」などを保存しており、地域の歴史を伝える重要な役割を担っています。
昭和43年(1968年)に、貴重な史料を保管・展示する板碑保存館を建立し、約170基もの板碑や、道標等、石器・土器、さらに、市指定有形民俗文化財の「比翼碑」(恐らく夫婦の生前供養の碑)や、市有形文化財の「獣脚付蔵骨器」(約1200年前のものとみられるつぼ型蔵骨器)などを保存しています。
これらに加えて、超一級の史料が、先にも触れた元弘の碑です。太平記の記述を裏付ける戦史が刻まれた板碑で、国の重要文化財に指定されています。
なお、この保存館の見学は有料(一般200円)です。詳しくは公式サイトをご参照ください。
地域誇りのコメディアンにちなむ 「志村けんの木」
ところで、東村山といえば忘れてならないのがコメディアン・志村けんさんです。
残念ながら2020年春に新型コロナウイルスによる肺炎で他界されましたが、東村山の名を全国区にした功績はこの先も色あせないでしょう。
実際、東村山市は志村さんを名誉市民に選定していますし、東村山音頭がブームとなった後の昭和51年(1976年)には、感謝状を贈呈しています。そしてその際に、東村山駅東口ロータリーに3本のけやきの木を植えたのですが、この木々は、地元では「志村けんの木」として親しまれています。
志村さんが亡くなられた直後には、この木の周りにたくさんの献花がされました。市は、志村さん直筆の記念樹看板も設置しています。
東村山は醸造の町? 酒蔵・地ビール・ソース
生産品に目を向けると、東村山にはユニークな加工業者があることに気付きます。
まずは日本酒。都内では珍しい酒蔵が住宅地にあり、直売所も設営しています。
酒蔵の名は豊島屋酒造。千代田区にある豊島屋本店の醸造所で、そのルーツは1596年にまでさかのぼれる老舗です。実はここは、今では日本で唯一「白酒」を醸造している酒造でもあります。イベントも頻繁に行っている開かれた酒造なので、気になる方は、Facebookなどでチェックを!
お酒といえば、東村山には地ビール工房もあります。こちらはイギリス出身のオーナーのもと、2017年にオープンした「Distant Shores Brewing(ディスタント ショアーズ ブルーイング)」。工房にて試飲もできます。日程は公式サイトご参照を!
◎Distant Shores Brewing(ディスタント ショアーズ ブルーイング)(公式サイト)
また、東村山には地域に根付いたソース工場「ポールスター」もあります。
同社が作るイカスミと黒酒を加えたソースを用いた「黒焼きそば」は、東村山のご当地グルメ。提供するお店が点在しています。
なお、ポールスターは工場直売所も設置しています。
団地の中に突然車両が! 「くめがわ電車図書館」
最後にご紹介したいのは、団地の中にある「くめがわ電車図書館」です。
電車図書館の名称の通り、西武鉄道で実際に走っていた車両が図書館として利用されています。
約5000冊の蔵書があり、車両内の座席でゆっくり本を読むこともできます。
ここは地域の人たちの手で運営されており、発足は市立図書館ができる前の1967年にさかのぼります。現在の車両は2代目。
団地の中にポンと電車があるという何とも印象的な光景はいつでも見られますが、中も覗きたいなら開館日が週2日のみなのでご注意を。開館は、水曜と土曜です。