新型コロナウイルスにより日常生活にも多大な支障が出た2020年。このウイルスに対して、北多摩エリアの“地域”はどのように対応してきたのでしょうか。
「タウン通信」では、各方面に取材をし、「そのとき」の地域の姿を鮮明にするとともに、これからの地域社会のあり方を模索していきます。
初回は、新型コロナウイルスとの闘いの最前線に立つ「医療」から、多摩北部の中核病院である公立昭和病院の上西紀夫院長にお話をお聞きしました。
以下、上西院長のコメントを抜粋していきます。
(上西院長へのインタビュー動画は下記。約11分の動画です。
※下記の記事では、インタビュー内容をより詳しく記載しています)
動画(12分11秒)
「コロナ」感染者の多くは軽症
メディアで感染者数が報じられ、その増減に一喜一憂する日々が続いています。
しかし、私たちに伝わるのはその“数”だけ。
上西院長は「中身を見ることが大事」と警鐘を鳴らします。
「春先の状況と異なり、今はいろいろな医療機関でPCR検査ができるようになっています。早期で発見される人も多く、その8割は軽症です。
公立昭和病院の場合では、9月末の時点で、新型コロナウイルス感染による入院者数は158人ですが、そのうち重症化したのは8人のみです(うち3人が死亡)。
多くの方は、経過観察か、少量の酸素投与で回復されていきます。感染者数が増えているからといって、過度に恐れる必要はありません。
ただし、重症化する方を見ると、やはり、ご高齢者や、合併症のリスクのある方は、厳しい状況になりがちです。そのような方は、よりシビアに消毒などの予防をしていくことが求められます」
感染者専用の「コホート病棟」を運用
上記のコメントにあるように、公立昭和病院では、重症者への医療も施してきています。
そもそも、今回のような感染症において、公立昭和病院の役割とは何なのでしょうか。
改めてお聞きしました。
「当院は第2種感染症指定医療機関、かつ救命救急センターでもあり、大きな役割としては、中等症以上の重度の方の救命を担うことになります。
そのため、他病院で症状が悪化した方の受け入れもしています。中には、都心からの患者さんもいます。
そうしたこともあり、徐々に患者が増えていくことを想定し、感染症病棟に隣接する40床の1病棟を、軽度、中等度の患者を収容する『感染コホート病棟』として春から運用しています。
今までのところ、この病棟が満床になったことはなく、多いときでも15床程度の稼動で済んでいます。
一方で、重症化した方に対してですが、当院では三次救急(重症・重篤患者に対する医療)を行っており、必要な場合は、重症呼吸不全の方に用いるECMO(エクモ、体外式膜型人工肺)による医療も提供しています。
ECMOは人手も非常にかかりますし、その稼動は簡単なものではありません」
北多摩北部唯一の感染症専門医を中心に「コロナ」対策
このように地域の医療において重要な役割を持つ公立昭和病院ですが、特に春先、未知のウイルスが蔓延していくなかで混乱はなかったのでしょうか。
上西院長は、素早い準備をしていたことに触れつつ、一方で、「感染者が多かったら医療崩壊の恐れもあった」と隠さずに話してくださいました。
「中国で新型のウイルスが発生しているというニュースが出た1月の時点で、以前に新型インフルエンザが発生したときに作成したマニュアルがあったので、それに基づき、対応の準備を始めました。この段階では、防護用装備の確認、感染蔓延期の業務継続計画(BCP)の見直しなどを行っています。
続いて2月には『コロナ感染対策会議』を立ち上げ、毎週定期的に諸問題への検討の場を持つようにしました。この会議には感染症科部長、呼吸器内科部長と執行部メンバーが参加し、治療や受け入れの具体的な方法を話し合っています。
さらに4月中旬には、感染者が無防備に病院内に入ることがないように、出入口前にテントを設けて『発熱外来』をスタートさせました。
同時に、休日夜間の救急患者への対応フローチャートを作成するなど、外来と救急の両面で対策を進めました。専用の収容病棟(感染コホート病棟)を設けたのは先にお話した通りですが、さらに現在では、入院患者全員にPCR検査を行い、院内感染がないように細心の注意を払っています。
地域の中核病院である公立昭和病院は、救命救急センターなどの役割のほかにも、『地域がん診療連携拠点病院』『東京都脳卒中急性期医療機関』『地域周産期母子医療センター』など多用な高度医療を担っており、当院の機能のマヒは地域の医療崩壊につながります。
そうした認識から、院内クラスターを起こしてはならないという強い決意でスタッフ全員が対策に当たってくれました。
院内感染の予防については、呼吸器内科出身の感染症専門医を中心とする『感染管理部』が院内を毎日巡回し、指導を行っています。
当院ではこのように、比較的早い段階で着手し、先手先手で対策を取ってこられたのですが、これは、当院に感染症専門医が在籍していることと、施設の規模のおかげがあったと考えています。
実は、北多摩北部エリアには感染症専門医は当院にしかいません。呼吸器科の医師ですら、結核専門であった病院と当院の3名を除くと、地域では数えるほどです。当院の場合は、こうした専門医がいたことで早期から対策が取れましたが、同等の対策を地域の医療機関に求めるのは無理というものでしょう。
設備の面においても、例えばテントの『発熱外来』などは敷地の余裕があったからできたことですし、『感染コホート病棟』を用意できたのももともと479床という一般病床を持っていたからです(別に6床の感染症病床)。
とはいえ、特に4月頃は入院患者が多く、現場はぎりぎりの状況がありました。特に懸念されたのは、看護師のストレス付加です。というのも、個人防護具(PPE)を装着しての看護や医療行為は肉体的にも精神的にも大きな負担があるため、通常以上の看護師配置が必要となるからです。
夏などは、テントの『発熱外来』を担当した医師・看護師は、防護具を装着して、汗だくになって医療に当たっていました。
今のところ、北多摩エリアは感染者数が都心の3分の1以下で、かつ軽症者が多いので現場は持っていますが、もし感染者数が都心並みの多さだったなら、医療崩壊の恐れもあったかもしれません。
その意味では、地域の皆さんがしっかり感染予防してくださったことをありがたく思っています」
行政との連携に課題が残った
この間、外部との連携はどのように図っていたのでしょうか。
ここについては、課題もご指摘いただきました。
「もともと、北多摩北部エリアの病院が定期的に連絡を取り合う『北多摩北部病病連携会議』という組織があるのですが、先日、この会議に先駆けて、『コロナ』のなかでの取り組みや課題についてアンケートを取りました。
そこで多くの方が挙げていたのは、『病院間の連携は比較的よく取れたけれども、行政との連携がうまくいかなかった』というものでした。
各市とも事情が違うので致し方ない面はあるのですが、医療側からすると、各市の方針や対応がバラバラのため、対応しにくかったというところはあります。
例えば、PCR検査にしても、積極的に取り組んでくださる市もあれば、場所や金銭的な問題からか、消極的なところもありました。
この辺は、課題として残ったように思います」
春のPCR検査では陽性者は217人中12人のみ
行政とも関係があること事業の一つに、発熱外来、PCR検査センターがあります。
公立昭和病院の出入口前の『発熱外来』では、今では小平市・東久留米市の医師会のドクターも協力して検査に当たっています。
その機能や実績について、特に外来者が多かった4月、5月の状況を中心に教えていただきました。
「4月16日から5月18日までの約1カ月の状況を振り返ると、『発熱外来』の外来者数の総数は217人で、PCR陽性者は12人となっています。感染者が多かったのは4月中で、連休明けの5月7日以降は感染者数はゼロです。
このテントで感染が判明した場合(疑い含む)は、一般利用の正面出入口とは別の出入口から『感染コホート病棟』に移っていただき、入院となります。このテントでトリアージ(選別)をするので、ほかの来院者が感染者と接触することはありません。
ちなみに、最も多かった4月を抽出して見ると、『疑い入院』は41人で、そのうちの28人が最終的には陰性でした。
陽性であっても、その多くが経過観察、ないし少量の酸素投与で回復されているというのは、冒頭に申した通りです」
外来者減少で続く赤字 一方で増える緊急手術
ところで、医療現場のこうした尽力の一方で、公立昭和病院では、無視できない大きな問題が発生しています。
大幅な収入減です。
地域のために「コロナ」の最前線に立っている同院ですが、そのことが人々を同院から遠ざけてしまっています。
「ほかの病院でも状況は同じですが、外来者数は減っています。特に緊急事態宣言があった頃は、ふだんは1000人くらいいる外来者が750人くらいにまで減りました。
現在では少し持ち直していますが、それでも10〜15%くらいの減少があり、新型コロナウイルスが収まるまでこの状況は続く可能性があるとみています。
この結果、当院の場合では、月に1億円から2億円くらいの赤字となっています。今年については特別に補助金をいただく予定でいますが、いつまでもいただけるものではないでしょうから、長く続くと深刻です。
外来についてはこのように減少しているのですが、一方で増えているものもあります。緊急手術です。我慢してしまって、ぎりぎりになるまで病院に来ない方が増えています。内科でも、糖尿病の管理ができなくて重症化して来る方などが目立ちます」
早めに発見・対処すれば重症化は避けられる
約1時間にわたるインタビューの最後に、市民に向けてのメッセージをいただきました。
「予防」の日々は、まだしばらく続きそうです。
「先日、全国自治体病院のシンポジウムがあって、自治医科大学の感染症の専門家がいらしていたのですが、『いつになったら終わるのでしょう?』と聞かれて『分かりません』と答えていらっしゃいました。
いつどのように終息するのかは分かりません。
しばらくは、マスクをし、手洗いを徹底するという日々を続けてください。また、外から帰ったときには、入り口などを消毒することも大事です。
それでも万一、発熱などがあったら、少しでも早く、かかりつけ医に相談するようにしてください。
何度も繰り返したように、陽性であっても軽く済むケースが大半です。早く見つければ、重症化を防ぐことができます。早めの対処を心がけてください」
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公立昭和病院の「発熱外来」は、原則として、地域の医療機関から紹介された方の診療となります。発熱等の不調がある場合は、まずかかりつけ医に相談することが求められます。日頃医療機関にかかっていない場合は、保健所の「新型コロナ受診相談窓口」(https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/coronasodan.html)にご相談ください。