円通寺(清瀬)

清瀬市指定有形文化財の「長屋門」が風格ある門構えを見せる真言宗の「円通寺」は、歴応3年(1340年)建立といわれる市内最古の寺院です。

(伝承では、野塩の八幡神社が延久5年(1073年)建立とされていますが、資料でさかのぼれるものでは円通寺が最古です)

風格ある山門や境内の様子を、まずは動画でご確認ください。

動画(39秒)

 

「駒止観音」と親しまれた聖観音

開山の経緯は不明ですが、鎌倉時代後期から南北朝時代にかけて活躍した新田家とのゆかりがあり、本尊となる観世音菩薩立像は、新田義貞の弟・義助が鎌倉松ケ丘から当地に移したものといわれています。

当初は寺の前に観音堂があり、観音像はそこに安置されていたそうですが、観音堂の前を馬に乗ったまま通ると必ず落馬したことから、本堂に移され、いつしか本尊となったと伝わっています。

観音像は「聖(しょう)観音」といわれ、江戸の頃には、縁日になると厄よけを求める多くの人馬でにぎわいました。

こうした伝説を持つ聖観音は、「駒止の観音」と親しまれ、現在でも、近くの道路にその名を留めています。

 

市有形文化財の「前立」

もっとも、現存する本尊の聖観音が南北朝時代以前のものであるかは、不明のようです。

聖観音の胎内から発見された棟札により、正保3年(1646年)と嘉永2年(1849年)に聖観音の造立が行われていることがはっきりしています。

むしろ古式をとどめるのは本尊前の前立のほうで、新田義助が鎌倉から移した観音像はこちらのほうではないかとの推測もされているとのことです。こちらは市の指定有形文化財となっています。

その縁起については梵鐘に記されていたそうですが、太平洋戦争で供出されてしまい、今では残す記録はありません。

 

武蔵野では珍しい規模の長屋門

円通寺の見どころの一つは、1844年(天保15年)に建てられたと伝わる長屋門です。

正面約14メートルと規模が大きく、白壁が格式の高さを感じさせます。現在は瓦葺きですが、元は茅葺きでした。

なお、現在の本堂は、人間国宝にもなった青木融光僧正によって新築されたものです。

この本堂を仰ぐには、長屋門からの参拝がお勧めです。長屋門をくぐり直進すると、石庭越しに本堂を望めます。斜めから望む本堂の、上品な美しさをご堪能ください。

 

民俗行事、学びの場

この歴史ある円通寺は、現代でも、地域の文化拠点、集合の場としての役割を果たしています。

この地域に伝わる「ふせぎ」行事では、5月1日に地域の人々が円通寺に集まり、わらで大蛇を作ります。それを、寺院からほど近い三叉路の上部に張るなどし、最終的に再び円通寺に戻って宴会をするのが習わしです。

円通寺を訪問の際は、ぜひ隣接の天満宮すぐそばの「ふせぎ」の大蛇もご見学ください。今なおこうした伝統行事が引き継がれ、人々の信仰が宿っていることに、静かな感動を覚えることでしょう。

なお、円通寺は江戸後期には寺子屋の舞台となり、明治初期には学校としても利用されました。

これらもまた、地域に根差していた証左といえそうです。

 

交通の要衝として

このように、特に中世から江戸時代にかけて人々を集めた円通寺。その理由を探るには、現代とは違う目で地域を見る必要がありそうです。

現代では、細い路地に面して立地しており、その存在に派手さはありません。しかし、特に中世の頃は、この場所は重要でした。

幕府が鎌倉にあった頃は、奥州へのルートとして、武蔵国府のある府中を足掛かりに恋ケ窪〜清戸(清瀬)〜野火止〜大宮〜岩槻〜ができていたようですし、戦国時代には、後北条氏が拠点とした八王子城との連携において、円通寺と柳瀬川を挟んですぐの滝の城(現・所沢市)の存在は重要でした。

さらに、江戸城建築のときには、石灰を運ぶルートとして、主流の青梅街道とは別に、青梅〜箱根ケ崎〜中藤村(武蔵村山市)〜引又河岸(志木市)も開かれており、馬を用いての運搬が盛んに行われていたようです。

そのような状況を想像すると、先述したように、「駒止め観音」と親しまれ、馬の厄除けを求める人で混み合ったということも得心がいきます。

 

境内には出征兵士が入隊前に制作した弘法大師像も

なお、円通寺の特徴としては、長屋門と観音像(及び前立)がありますが、観音像についてはふらりと訪ねても拝めません。

長屋門を見学し、時間が許せば、境内の石庭や季節の花々を眺めて静かに時を過ごすのが良いでしょう。

境内には、現住職・青木光啓師の尋常高等小学校時代の同級生という中尾邦三さんの手による弘法大師の石像が立っています。中尾さんは昭和13年に志願して陸軍に入隊し、20年4月にビルマで24歳で戦死されたという人物です。この石像は入隊前に製作されたものとのことで、そのお顔からは覚悟のようなものが感じられます。

歴史ある境内にこうした石像があることに、現代にも脈々と信仰が受け継がれていることを改めて諭されます。

 

データ

円通寺(清瀬)

◎東京都清瀬市下宿2丁目521

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