タウン抄
「タウン通信」代表・谷 隆一コラム タウン抄
私は事務所に衣服を置いている。冬はジャケット、夏はスラックスと靴下をだ。
猛暑続きのなかでこの書き出しをすればピンと来る読者は多いだろうが、そう、私はふだん、だいぶ気楽な格好でいる。この原稿を書いている今は、ポロシャツと短パン。Tシャツではないだけ、今日は自分的にはフォーマルだ(今日は、月に1度の税理士が来る日でもあった)。
もっとも、当たり前だが、取材のときはそれなりの格好にする。夏の場合は、ポロシャツにスラックス。外出のときだけその格好になり、事務所に帰ると、すぐに短パンに履き替える。いや〜、短パンのなんと快適なことか。いっそ、取材先にも短パンで行ければいいのに……、と考えていて、ひらめいた。
世はオンラインを活用しての在宅ワークばやり。半年前まで想像もしなかったこの普及ぶりを見ていると、もしかしたら短パンワークもすぐに広まるのでは、と妄想が広がった。
いや、これは冗談ごとではなく、なかなかのグッドアイデアではないか? この猛暑の背景には、言うまでもなく、ヒートアイランド現象など人為的に引き起こされた部分がある。であるならば、人々がもっと努力をして、いわゆる「エコ」な生活をしていくべきである。ならば、なるべくエアコンなども使わないほうがいい。
最近はテレビをつけるたびに「命を守るためにエアコン利用を」の声が聞こえてくるが、確かにその呼びかけが必要な対象があるとはいえ、一方には「エアコンで体が冷えちゃって……」と長袖を持ち歩いている人たちもいる。問題はそこだ。
では、どういう場所が「エアコンが効き過ぎている」のか。言うまでもない。多くのオフィスだ。
なぜ、オフィスのエアコン設定温度は低めなのか。ネクタイをし(最近は無着用も一般化したが)、スラックスを着用し(しかもシャツをスラックスにインしたうえで)、靴を履いたままでいるからだ。要するに、暑くて当然の格好をしているわけである。
従って、まずはその改善から始めなければいけない。すなわち、短パンの導入である。このとき、裸足の認可を忘れてはいけない。短パンだけ導入しても、足先が保温されたままでは冷却効果は半減してしまう。私は事務所で裸足にサンダル姿で過ごしているが、ずっとデスクワークをしていると、エアコンの冷気で足先が冷えているのに気付くことがある。否が応でも、エアコンの設定温度を上げたくなるというものだ。
私自身が体験しているのだから、短パンワークのエコ効果は間違いない。もし、この短パン・裸足スタイルがビジネスシーンで広まったなら、日本中のオフィスのエアコン設定温度が2度から4度は上がることだろう。そのとき、どれだけの省エネ効果があるのだろうか。あるいは、この猛暑だって多少は緩和されるのかもしれない。
「ね? いいアイデアでしょう?」
妻に話してみた。
が、妻から帰ってきたのは、「どうかな〜」という連れない一言。
「なんで? 確実にエコ効果があるんだよ?」
強調すると、「それは分かるけど、男の人たちって、すね毛を見せるのが気にならないの?」ときた。
なるほど……。人と話す面白さというのはこういう場面にある。自分にはまったくない発想が唐突に突きつけられる。
正直言って、ふだんから短パンで出歩く私には、すね毛への意識は微塵もない。しかし、女性目線だと気になるものなのかもしれない。妻の口ぶりからすると、女性たちは短パンや短いスカートを着るときには、すねを気にしているということなのだろう。
ということは、少なくともビジネスシーン(オフィシャルな場面)に短パンを導入するうえでは、男性もすねの手入れをすべきなのだろう。しかし、それは現実的だろうか?
というわけで、もう一度冷静になって考えてみた。どうすれば普及できるのか―—。
と、その先をイメージしてはたと立ち止まった。これはまさしく社会的圧力そのものであり、昨今でいえば、ハイヒールを履かされて苦痛の「#KuToo(クーツー)」問題と同根ではないか。
本当は短パンを履きたいのに、すね毛を隠さなければならないから履けない。あるいは、すね毛を剃らなければいけなくなる。それは、美意識の押しつけである。
この社会的圧力をひっくり返すには、大きなムーブメントが必要となる。さしずめ、反対運動としては「#KeToo(毛ーツー)」とでもなるか。いや、「#KeToo」なら、毛を見せられてイヤ、という、真逆の運動(短パン廃止運動)に展開してしまう恐れもあるが……。
——と、まあ冗談はともかく、新型コロナウイルスに直面する私たちは、さまざまなものが変わっていけるということに気付き出している。真面目な話、ビジネスにおける夏の服装については、もう少し自由度があっても良いのかもしれない。
『議会は踊る、されど進む〜民主主義の崩壊と再生』(ころから)、『中高生からの選挙入門』(ぺりかん社)、『起業家という生き方』(同、共著)、『スポーツで働く』(同、共著)、『市役所で働く人たち』(同)がある。
谷 隆一