新型コロナウイルス(以下「コロナ」)との闘いが長期戦になりそうな今、改めて見直したいのが、そもそもの「健康」や「免疫力」です。
清瀬市にある明治薬科大学でセルフメディケーションを専門に研究・指導する石井文由教授は、「薬剤師が健康づくりに有用なことを知ってほしい」と呼びかけます。
詳しく話をお聞きしました。
WHOも定義する「セルフメディケーション」とは
――「セルフメディケーション」とは、どういうものですか?
「医師にかかるほどではない症状は自分で対処するという在り方のことで、WHO(世界保健機関)では、『自分自身の健康に責任をもち、軽度な身体の不調は自分で手当すること』と定義しています。
例えば、小さな切り傷などは家で対処しましょう、ということです。
私はそれをさらに発展させ、『自分で自分の身体の健康管理を行うこと』と考えています。病気にならないための予防なども含めた『セルフケア』です」
――新型コロナウイルス感染を予防する、といったことですか?
「もちろんそれも含みます。その話は、後でしましょう。
その前にまず知ってほしいのは、特に生活習慣病の予防を重視しているということです。
周知の通り、悪い生活習慣は万病の元です。がん、心筋梗塞・脳梗塞、認知症など、さまざまな病気が生活習慣病から引き起こされています。
生活習慣病とは、高血圧、脂質異常症(高脂血症)、糖尿病、動脈硬化などの状態があることです。
こうした生活習慣病を予防することが、健康には不可欠です」
――具体的にはどう予防するのでしょうか。
「生活習慣病予防で重要なのは3つ。食事、運動、睡眠です。
ただし、その人にどの程度の食事や運動が必要なのかは、年齢、性別、体格、体質、運動習慣、病気の既往歴などで異なってきます。一律には言えません。
10代の育ち盛りならどんどん食べて動けばいいですが、40代の肥満体質で運動が苦手という方には1日1万歩を歩くのは無理です。
ですから、一人ひとりを個別で見ながら、その人にあった健康づくりのプランニングを行っています」
薬剤師は地域の健康サポーター
――それを薬科大学で研究・指導しているのですか。
「あまり知られていないのですが、実はこの健康づくりの分野にこそ、薬剤師の活躍の場があるのです。
多くの薬局では、予約不要で、その場で採血し、5~10分ほどでコレステロール値などの結果を出すことができます。もちろん簡易的なものですが。
ともあれ、それをベースに、運動習慣などを聞きながら、薬剤師が個別のプログラムを提案しています。3カ月や6カ月という実践プランを提案し、期間後には、再検査をし、結果を見ながら今後について再検討していきます」
――初めて聞きました。どこの薬局でも行っていますか?
「2014年の『日本再興戦略』で、『地域に密着した健康情報の拠点として薬局・薬剤師を活用すること』と謳われています。基本的には、どの薬局も対応しているはずです。
今の薬剤師は、医師と同じく6年間学んでおり、薬や健康の知識を幅広く持っています。
風邪を引いたときなども、薬剤師のいる薬局やドラッグストアを利用したほうが、病院で長く待たされるより効率的です。特に今は、新型コロナウイルスなどのウイルス付着の懸念もありますし、できるだけ病院には行きたくないという方は多いでしょう。
保険がきかない分、薬代の負担は多少ありますが、国全体の医療費削減や医師の負担軽減のためにも、ぜひ皆さんに、意識を変えてほしいと思います」
新型コロナウイルスの予防法は?
――読者の関心が高いので、新型コロナウイルスの予防についてもぜひ教えてください。
「まず前提として知っておいてほしいのが、人間の体には、ウイルスや菌から身を守る3つの『壁』があることです。
最初の壁は皮膚や粘膜。次に、主に白血球の働きでウイルスなどを破壊する自然免疫。最後に、獲得免疫による病原体の排除です。
今私たちが『新しい生活様式』としてマスクをしたり社会的距離を取ったりするのは、最初の壁を生かした方法です。
しかし、ここで完璧に防ぐのは容易ではありません。
そこで重視すべきが2番目の壁、つまり、自然免疫です」
――いわゆる、免疫力を上げる、というものですね?
「その通りです。免疫力を上げるには、体を健康な状態にしておくことが重要。つまり、食事、適度な運動、睡眠です。
例えば食事は、バランス良く取ることが大事です。『栄養3・3運動』というものがあるのですが、これは、朝・昼・晩の3食をしっかり取ること、そして赤・黄・緑の色の3色群をバランス良く取ることを訴えています。色群は、例えば緑なら、野菜や海藻です。
詳しくは、私の研究室のホームページでも情報提供しているので、ぜひご参考にしてください。食事以外にも、運動やお風呂の入り方など、さまざまな情報を掲載しています」
なぜセルフメディケーションか
――ところで、なぜ先生はセルフメディケーションの研究を始めたのですか?
「私のもともとの専門は、薬の剤形です。年齢や体格などに合わせて、どう薬を効果的に効かせるかという研究で、それを30年近くやってきました。
その中で気付いたのは、日常的に服薬することで、患者さんたちが『治った』と勘違いされることがあまりにも多いということでした。
典型的なのは血圧です。降圧剤を飲むようになると、皆さん、ちゃんと血圧は下がるのですが、それは薬の力であって、根治したわけではない。それなのに多くの方が、自分は治った、大丈夫だ、と早合点して、根本治療に取り組まなくなるのです。
そんなことを続けていては、本来の意味での『健康』にも良くないし、国の医療費の面からも負担ばかりが増えていくこととなります。
もっと根本的に薬や医療を見直すべきではないだろうか。そう思ったのがセルフメディケーションに入っていくきっかけでした。
ちょうどこの学部ができた頃に、国でも、先ほど申し上げた『日本再興戦略』や、厚生労働省による『健康日本21』(2013年)で『薬局が地域での健康支援・相談拠点になるべき』といった方針が示されたので、確信をもってこの研究に取り組んできたところです。
とはいえ、まだまだ、薬局にそうした機能があることが知られていないので、もっとPRして、皆さんにより気軽にご活用いただけるようになればと思っています」
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なお、明治薬科大学セルフメディケーション学研究室のホームページはこちら(https://u-lab.my-pharm.ac.jp/~self-medication/wordpress/)。