医針伝心
土居治療院 土居望院長コラム
東洋医学とは不思議だ。
脈だけで体全体の状態が分かる。舌だけを観ても同じように全身の状態を知り得る。このような思想の奥に、東洋医学のフラクタルな世界観があることに触れたのが前回コラムである。
しかし、なぜ、脈だけで全身の状態が分かるのか? もし分かるとしても、それはどこまでも主観的、直感にすぎない。しかしながら、鍼灸にしても、湯液にしても、優秀な治療家はこの直感的感覚を頼りに治療をしている。
東洋医学と将棋に通じる感覚
その感覚を将棋などに例えると、ある局面を一瞬だけ見たとき、あ、この王様詰んでいるな! と答えが分かる。ところが、手順を追ってみると、確かに詰んではいるのだけれど、実際王様が詰むのは何十手も先であったりする。人間が瞬時にそこまで深く手を読めるはずもない。
この感覚は、ツボが分かる感覚、あるいは脈診などと同じ感覚でイメージ思考である。
ツボのイメージ性
以前、私は別のタウン紙(「東興通信」)に〈ツボが分かる〉と題して3年間コラムを書いた。
ツボのイメージ性(これは私の造語であるが)について、受け手と術者の内的イメージの共感からツボは現れる、あるいは、一つの同じツボが同時に複数異なる位置に現れてくる、といった私の感覚的思考体験を文章にしたかったのである。
内容はまさにカオスであったと思うが、後に理研の思考回路の研究論文が私に明快な回答を教えてくれた。
ボナンザの登場
ちょうどその頃、世界最強将棋AIソフトボナンザが現れマスコミを賑わしていた。
ボナンザは全幅探索型AIソフトであり、当時でも、毎秒500万局面先を読むという。
私は将棋の局面を読む思考と、ツボのイメージ思考は極めて近似であると考えていた。私の感覚的思考体験が幻想でないならば、ボナンザとどこまで戦えるのか?
AIボナンザとの対決を試みたのである。
プロフィール
土居 望