「西東京市女性史研究会」がこのほど、西東京市で活動する女性に聞き書きした書籍『明日へ。地域を支える女たち』を発行しました。
女性の生き方を通して、地域や社会がどのように変化したのかを探るシリーズで、今回の発行は4冊目になります。2010年の第1巻から10年続く取り組みです。
この企画では、地域・社会の変遷を追うのと同時に、町に根差した女性たちの活躍によって地域が作られてきた面があることにも光を当てています。
(最下部に動画あり)
9人の半生を収録
聞き書きとして収録しているのは以下の9人の女性たちです。
◎育成会会長など歴任 内田日出子さん
◎JA、地域農業で活躍 鵜野美代子さん
◎養護教諭経て地域の子育て支援活動 喜田貞さん
◎保育士を経て、地域の子育て支援活動 小林弘子さん
◎NPO法人西東京市多文化共生センター初代代表理事等 佐々木瑞枝さん
◎保護司、民生委員など歴任 清水文子さん
◎手作りジャム店経営 北條佐千子さん
◎NPO法人サポートハウス年輪代表 安岡厚子さん
◎NPO法人生活企画ジェフリー代表理事 渡辺美恵さん
なお、上記のうち、渡辺美恵さんは、この聞き書き集の制作に当初からかかわっています。
同書では、この9人に加え、西東京市(旧保谷市)の男女平等に取り組んだ神島由紀子さんと新宮洋子さんの二人へのインタビューも収録しています。
戦後派の生き方から見えたもの
第4弾となる今回の聞き書き集では、過去3冊と異なり、戦後生まれを中心に話を聞いていったといいます。
その結果見えたのは、戦前・戦中生まれの人たちが「私たちは苦労した」「頑張った」というのと対照的に、戦後派は、自然体で、周りの人たちの力を借りながら活動していたことでした。
初巻から活動に参加する渡辺美恵さんは、「戦後派の女性たちは泣いてません」と話します。
「戦前・戦中派の女性たちは夫や家族を説得するようにして社会活動をしていましたが、戦後派の女性たちはむしろ夫を自分の活動に巻き込んでいます。
一緒にやろうという、今でいう『協働』のようなことを多方面でやっています。
女性の生き方は、戦争を挟んで、こうも変わるものなのかと驚きました」(渡辺さん)
半生記としての面白さ
女性の生き方——に着目した聞き書き集ですが、読む側としては、単純に半生記としても楽しめます。どの人生にも転機があり、苦難を乗り越えて今があるということを感じさせてくれます。
例えば、養護教諭を経て、現在地域で「まちかど保健室」を続ける喜田貞さん。旧満州の奉天で生まれた喜田さんは、3歳で中国から引き揚げる際に体を病み、「もし死んだら海に捨てなさい」と医師から勧告されていたといいます。
冒頭からとびっきりのエピソードで始まる喜田さんの語りは、さらに驚きの告白に続きます。というのも、看護師を目指した看護学校時代に、間違った薬を注射して、患者の容態が急変するという大失敗をおかしたというのです。
「こんな怖い仕事はできない……」
看護師をあきらめた喜田さんは、「命にかかわることのない養護教諭になろう」と方向転換をします。が、スタートした学校勤務では、パワハラ、セクハラの毎日が……。
そんななかで自身を支えたのは、「女子が賢く育てば、将来世の中はよくなるのではないか」という思いだったといいます。
そうしたなかでやがて「性教育」を自身のテーマとするようになり、時には学校と対立しながら、教育現場に「性教育」を広め、後には、都の養護教諭研究会会長などを務めます。
定年後は、「まちかど保健室」を作り、招かれて帝京短期大学こども教育学科で教鞭を執るようにもなりました。
「『女子教育の大事さを、いつかは大学で教えたい』という夢が叶った」と語る喜田さんの半生記は、一種のサクセスストーリーでもあり、読み応えがあります。
充実した年表なども
このような具体的なエピソード満載の同書では、資料的な要素として、巻末に「女性とまちの動き」をまとめた充実した年表も収録されています。
この年表には「わかりやすくまとまっていて、今後、西東京市の女性問題に関心のある方や研究者にとってありがたい資料になるでしょう」といった声も寄せられているとのことです。
実際、貴重な資料として、何十年にもわたって重宝されそう内容となっています。
なお、「西東京市女性史研究会」は、人権を守る運動などを行うNPO法人生活企画ジェフリーから独立する形で2011年に発足し、現在5人で活動を続けています。
当初から活動に参加する渡辺美恵さんへのインタビューを抜粋して動画に収録しています。約1分の動画です。ぜひご覧ください。
なお、同書は、1000円で販売されています。
詳しくは同会・木下さん(090-6927-1441)へ。