西東京市在住で、武蔵野大学名誉教授の川村匡由さんが、このたび、これからの日本の防災の在り方を示す本『防災福祉先進国・スイス 災害列島・日本の歩むべき道』を出版しました。
新型コロナウイルス感染症が流行するなかで緊急出版されたもので、いつ起こるか分からない自然災害への備えに対して、確認すべきことや、ヒントになる事例などを紹介しています。
と同時に、これからの日本の防災のありようを示唆する1冊となっています。
「川村」本のダイジェスト
著者の川村さんは、社会保障、地域福祉、防災福祉の第一人者で、これまでに防災や介護保険などの本を多数出版してきています。
山岳ジャーナリストの一面も持ち、国内では浅間山、国外ではスイスなどの山岳地の災害・防災事例などを紹介する活動も行ってきています。
それらの報告は、『脱・限界集落はスイスに学べ』(農山漁村文化協会)、『地方災害と防災福祉コミュニティ』(大学教育出版)、『防災福祉のまちづくり』(水曜社)などの書籍にそれぞれ詳しくまとめられており、今回緊急出版された『防災福祉先進国・スイス〜』は、いわばそれらのダイジェスト版ともいえる中身となっています。
多面的にスイスをとらえる
川村さんの著作で特徴的なのは、スイスと日本、地方と都市、教育世代とシニア、というように、対比をしながら事象を検証していく視点です。
今回の『防災福祉先進国・スイス〜』では、スイスの福祉を、介護や子育てなど多面的に紹介しつつ、スイスの優れている点、課題のある点などを明らかにしています。
中でも、永世中立国を名乗りつつ、成年男子に兵役を義務づけるという「現実路線」や、他国の侵入に備え、一定規模の公共施設、ホテルなどだけでなく、民家にまで「核シェルターの設置」を義務づけている事例などが興味をひきます。
浮き彫りになる日本の課題
こうした現実的思考、防災意識に対し、同書では、日本の危機意識の薄さも掘り起こされます。
例えば「近年の相次ぐ自然災害にともなう保険金の支払額の増加のため、損害保険各社は2018年1月の地震保険に続き、同10月、火災保険の保険料を平均5.5%値上げたことから、その加入者の低迷も予想される」(P137)といった指摘は、日本の防災が自己責任に置き換えられ、地域福祉、地域防災の観点を欠いていることを象徴しています。
防災福祉国家への道
同書で川村さんは、日本のこれからの道として、「防災福祉国家」を示しています。
自助・共助・公助の「助け合い」がベースにあるのはもちろんとして、「防災」を切り口に、福祉、コミュニティの輪を広げることは、地域福祉そのものにも結びついていきます。
川村さんは国家のありようとして、「平和・福祉国家へと飛翔し、防災福祉世界、否、『世界連邦』の樹立のために貢献すべきである。そこに世界唯一の被爆国である日本のアイデンティティがある」と結んでいます。
防災からコミュニティを築き、永世的な平和をつくる——。単に災害への備えでなく、そこから高度なまちづくりを志向するところに、川村福祉論の凄みがあるといえそうです。
まずは本書を手に取り、初回された事例に興味を持ったなら、それぞれ詳報されている川村さんの書籍を手に取ることをお勧めします。
『防災福祉先進国・スイス 災害列島・日本の歩むべき道』は、旬報社から。A5判、168ページ。1760円。