自分から話しかけていくことの大切さを知った―—。
多言語習得や国際交流に取り組む一般財団法人言語交流研究所ヒッポファミリークラブの「西武線地域」が、5月31日(日)、約9カ月にわたって高校留学をしてきた高校生3人を中心に、その体験を紹介する「帰国報告会」をオンラインで開きました。
発表をしたのは、メキシコに留学した北澤大吾さん(高校3年生、東村山市)と和田輝さん(高校2年生、同)、アメリカに留学した久松俊介さん(高校2年生、西東京市)の3人です。
それぞれ約15分にわたり、留学先で言葉や生活に困った経験、それをどう乗り越えていったか、留学して感じたこと、などを発表。その後、先に緊急帰国していた3人を交えて、座談会を行いました。
「知らないことに価値がある」
トップバッターで発表をしたのは、メキシコに留学した北澤さん。最初は自分のスペイン語が乏しく、「何を話せばいいのか分からない」と戸惑ったものの、メキシコには情報や物をシェアする文化があることに気づき、以来、どんどん知らないことを聞くようにしたと言います。
その結果、話は盛り上がり、人々と親しくなれ、自分の知識も増えていったそうです。
そうした経験から北澤さんは「知らないことのほうが価値があるんじゃないか、とさえ思いました。ただ、それは相手にぶつけてこそのこと。自分から話しかけていくことと大切さを感じています」などと話しました。
「家族ときちんと別れられなかった寂しさが……」
次に発表したのは、アメリカ・テネシー州に留学した久松さん。
現地で迎え入れてくれたホストファミリーとすぐに打ち解けられたという久松さんは、パパとはアメリカンフットボール観戦、ママとはパズル、妹・弟とはレゴなどで遊んだ―—という家族との交流を紹介しつつ、「2月頃から『コロナ』の影響が出始め、弟の持病もあって、妹・弟は別の町の祖父母のところに移っていってしまいました。4月になると、パパ・ママの状況も変わり、やむなく帰国せざるを得ませんでした」と心残りを口にしました。
とりわけ、妹・弟と会えずじまいの別れとなったことが悔しかったそうで、「新しい家族に愛されたことがうれしかった。彼らと交流するなかで、いろいろな視点からものを見たり、人ときちんと向き合うことができるようになったと思います」と話しました。
「歯も心も折れた。そこから踏ん張った」
3人目の発表者はメキシコに留学した和田さん。留学当初こそクラスの人気者だったという和田さんは、1週間もすると、異国からの留学生に飽きられたのか、クラスで孤立することに。
そんななかで突破口となったのは、クラスメートが持っていたルービックキューブ。思いきって話しかけると親しくなれたことから、「自分から話しかけることの大切さ」を実感したといいます。
しかし和田さんは、何もかも放り出したくなった瞬間があったと振り返ります。それは、ホストファミリーの家で、冷えたトルティーヤを口にしたときのこと。硬くなったトルティーヤのせいで歯が折れてしまったのだそうです。
その瞬間、もう何もかもがいやになり、すぐにでも日本に帰りたくなったといいます。
しかしそこで踏ん張れたのは、家族の励ましだったり、ヒッポファミリークラブのメンバーの応援だったといいます。
楽しいことがあり、つらいことがありの9カ月。「コロナ」のため予定よりも2カ月早く帰国したという和田さんは、最後にカギを返そうとして、ホストファミリーのお母さんから「あなたは家族なのだから、そのカギは持っていなさい」と言われたそうです。
今もそのカギを持つ和田さんは、「コロナが落ち着いたら、またメキシコに行きたいです」と話していました。
6人で座談会も
3人の報告の後は、先に帰国していたイタリアに留学した藤木天音さん(高校3年生、清瀬市)、アメリカに留学した進藤玄太さん(高校3年生、飯能市)を交え、3年前にフランス留学の体験がある北澤笑さん(専門学校生、東村山市)の司会のもと、座談会も開きました。
「驚きの体験」をテーマにしたときには、「メキシコでは部屋の中でイグアナを見かけることが珍しくない」(北澤大吾さん)といった回答に、視聴者からのチャットの書き込みが増えるなど、盛りあがりました。
振り返りと発表で成長を促す
この報告会は、ヒッポファミリークラブが普段から行っている帰国報告会の一つとして開かれました。
通常は公共施設などで実施されていますが、今回は新型コロナウイルスの影響を受け、web会議サービス「Zoom」や動画再生ソフト「YouTube」を利用して行われました。
報告会には、大きく2つの狙いがあるといいます。
一つは、留学した当人が報告をすることで、体験を振り返り、深める機会になるということ。若者の成長を促す仕組みの一つとなっています。
体験を振り返るには帰国から間もないタイミングが理想的なことから、今回は、先延ばしせずにオンラインでの実施を選択したといいます。
もう一つは、次世代の関心づくりです。
ヒッポファミリークラブには多世代が参加しており、高校生以下の子どもたちも多数所属しています。そうした次の世代の興味喚起として、実際に留学を体験した“先輩”の声は貴重だということです。
自身もクラブメンバーである、今回アメリカ留学をした久松俊介さんの母、順子さんは「息子が3歳半のときから家族で『ヒッポ』の活動をしています。これまでお兄さん、お姉さんの留学報告を何度も見てきたので、ウチも、高校生になったら留学するというのは当たり前に考えていました」と話します。
日常に多言語がある環境
ヒッポファミリークラブは、家庭の中に、さまざまな言葉があるという環境を作り、乳幼児が言葉を覚えていくのと同じように、さまざまな言語を習得していくというプログラムです。
全国各所に活動場所があり、地域ごとの交流イベントなども定期・不定期に開催されています。
西武線地域でクラブ発足時から活動する元英語教諭の井内わかさんは、自身がアメリカに行ったときの体験も踏まえ、こう話します。
「英語教諭として英語に何年も向き合ってきたのに、渡米したら、言葉が分かりませんでした。今までの自分の英語は何だったのだろう。こんな英語教育で日本はいいのだろうか。その問題意識が『ヒッポ』の活動につながっています」
今回の留学生たちについては
「『コロナ』で予定を中断させられ、落ち込んだはず。留学前半の苦しい時期を乗り越え、さあこれから楽しくなるぞ、というときの帰国ですから、悔しさもあるはずですが、みんな自分の言葉で堂々と報告をしてくれ、その姿に感動しました」
と話しています。
なお、報告会の様子は、YouTubeで公開されています。