蜘蛛と蜜柑

猫 耳 南 風

太宰治文学賞作家 志賀泉さんコラム

 

毎年、秋が深まると女郎蜘蛛の巣をいたるところで目にするようになる。女郎蜘蛛は蜘蛛の女王と呼ばれるだけあって色があでやかで張る網も大きい。それだけに「怖い」「うっとおしい」と忌み嫌われることも多いが、場所によっては女郎蜘蛛を守り神のように大切にしているところがある。

* * *

十数年前、日本中を旅して回っていた頃のことだ。愛媛県にある福岡自然農園を訪ね、無理を言って働かせてもらった。季節は秋。自然農園の蜜柑畑は収穫の真っ最中で、近隣の主婦も応援に入り大忙しだった。僕も切鋏(蜜柑専用の鋏がある)を手に蜜柑畑に入っていった。

* * *

すぐに気づいたことは、蜘蛛の巣がやたら多いことだ。蜘蛛の巣を破らないよう注意を受けた。自然農園では殺虫剤を使わない。代わりに蜘蛛に害虫を退治してもらっている。蜘蛛は農園を守る大事なパートナーなのだ。

逆に言えば、殺虫剤を使えば蜘蛛も殺す。害虫がはびこるからさらに殺虫剤を撒く。蜜柑の木自体も病害に対する耐性が弱まるという悪循環を招くという。

宇宙の調和を乱さず、自然の力を信じていれば恵みを享受できるというのが、福岡自然農園の思想だった。

* * *

応援の主婦の中には俳句が趣味の人もいて、休憩時間に収穫したばかりの蜜柑を食べながら思いつくまま句を詠んでいた。

そこで、僕も一句詠んだ。

天高く 雲に蜘蛛すむ みかん園

* * *

二泊三日の短期間ではあったが、いい体験になった。

今でも女郎蜘蛛の巣を見かけるたびに、蜜柑の枝葉に見事な巣をかけていた蜘蛛たちを思い出す。

 

プロフィール

志賀 泉

小説家。代表作に『指の音楽』(筑摩書房)=太宰治文学賞受賞=、『無情の神が舞い降りる』(同)、『TSUNAMI』(同)がある。福島県南相馬市出身。福島第一原発事故後は故郷に思いを寄せて精力的に創作活動を続けている。ドキュメンタリー映画「原発被災地になった故郷への旅」(杉田このみ監督)では主演および共同制作。以前、小平市に暮らした縁から地域紙「タウン通信」でコラムを連載している。

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